拾弐「救い」
「……終わったの?」
気がつけば、千歳がいた。何やら変わった服を着ている。
千歳の隣には、同じ服装の見知らぬ女性が立っている。
「ヱッ!? 千歳、何でここに――」
尋ねる歌子に、
「大変だったんだから!!」
千歳が、プンスコ怒って見せる。
そんな千歳が、歌子の手にあるDiva Driverと、フレデリカと、しわしわの老婆と、沈黙した
「まァでも、Diva Driverを届けに来た甲斐はあったってことのようね」
相変わらず、理解が早い。
(ウチの神様は健在やな!)
嬉しくなってしまう歌子である。
「歌子、その剣、貸してもらえるかい?」
ふらりと立ち上がったフレデリカが、手を差し出してくる。
「善いけど、どうするん?」
もう決着は着いたのだ。
全ての
皇帝はもう、非力な老婆に過ぎないのだ。
Diva Driverを掴んだフレデリカが、その老婆の前に立ち、Diva Driverを振り上げる。
「ラァーーーー~~ッ!!」
鋭い風でも刀身に纏わせたつもりだったのかも知れないが、Diva Driverからは何も発生しない。
だが、そんなこともお構いなしに、フレデリカは剣を振り下ろす。
「ギャッ、やめッ、うッ……」
呻く老婆へ、何度も何度も、刃を持たない刀身を叩きつける。
「――フレディ!」
見かねて、歌子はフレデリカの体を風で押さえつける。
「殺すッ!! ソイツを殺させて呉れ、歌子ッ!! そいつは、そいつだけは、生きてちゃいけないんだッ!!」
血を流し、怯えるばかりの老婆へ、なおも剣を振り下ろそうともがくフレデリカ。
歌子はそんな彼女へ歩み寄り、後ろからそっと抱き締めた。
「――フレディ、もうええんよ」
両腕に力を込める。
「ウチが許すねん。皇帝の罪も、フレディの罪も。フレディはもう、復讐に生きなくてもええねん。自由なんよ」
「そんな、じゃァ僕の人生は何だったんだッ!? 僕の歌は何の為に――」
「――ウチの為に」
歌子は、出来るだけ優しい声で云う。
「ウチの為に歌って、フレディ。ウチも、フレディの為に歌うから」
フレデリカの体から、力が抜けた。
歌子はフレデリカの拘束を解く。
フレデリカはDiva Driverを掴んでいた腕をだらりと垂らし、呆然とした様子で振り返る。
果たして二人、目が合った。
「……いいのか、歌子?」
返事の代わりに、歌子は背伸びをしてフレデリカにキスをする。
「政治は千歳に任せて、二人で静かに暮らそう。何なら男性の機能を取り戻すことだって出来るで」
「ちょちょちょ、歌子!?」
慌てるのは、そばで聞いていた千歳である。
「何勝手に人を世界大統領に推挙しちゃってるのよ!?」
「じゃァ世界首相や。ウチが世界皇帝で、立憲君主国家『地球』ってことで」
「滅茶苦茶よ……」
天を仰ぐ千歳。
「ただまァ、日本の政財界の重鎮たちに声を掛けることは出来るわ。
「さっすが千歳! ウチの神様!」
「本当、調子善いんだから」
「僕は……僕は……嗚呼ぁ……」
フレデリカが泣いている。
子供のように泣いている。
まるで、生まれたての赤ん坊のように。
ずっと心を殺して生きてきた彼女は、
ずっと心を殺して生きてきた彼は、
きっと、今ここで、生まれ直したのだ。
第肆楽章「歌を統べる者」――――Fin.
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