第6話 僕と彼女の取り引き

『絶対にダメ』


瑠璃さんに事情を説明したら案の定というか拒否された。


もちろんここまでは計算通りだ。


「そこをなんとかお願い。協力してくれたら瑠璃さんの言うことなんでも聞くから」

『何でも?本当に?』


電話越しなのに何故だが瑠璃さんの並々ならぬ気迫が伝わってきた気がしたけど……気のせいかな?


「う、うん」

『……少し、その幼馴染と電話変わってくれる?』


しばらくしてから瑠璃さんは意を決したようにそう言った。


僕は部屋に戻ると順一にぼかして説明ながら、電話を変わった。


しばらく二人は電話で話していると、何やら結託したのかしきりに頷く順一に電話を返された。


「もしもし瑠璃さん?」

『タツ。今回だけよ?今後は危ないことは絶対に許さないからね』

「わかったよ。ありがとう。でも、順一と何を話していたの?」


なんか瑠璃さんの声音が、少しばかり嬉しそうな感じなのでそう聞いてみた。


うん、正島言うと少しばかりもやもやというか……嫉妬心みたいなものを感じてしまっていた。


疎外感とも言えるかも。


そんな僕の内心を見透かしたかのように瑠璃さんはくすりと笑って答えた。


『心配しなくても大丈夫よ。どれだけイケメンだろうと私の一番はタツだし、タツ以外の男なんてどうでもいいから。幼馴染くんとは取り引きをしただけよ』

「と、取り引き?」


密かに内心で瑠璃さんの台詞に照れているとそんな単語が聞こえてきた。


何の取り引きだ?


『こっちの話よ。気にしないで』

「そ、そう……」


なんか聞けそうもないのでスルーが一番だろう。


これ以上深入りすると何か地雷を踏みそうと僕の勘も告げているし。


『とにかく、何かあれば私がタツを守るから。それじゃあ……愛してるわよ』


プツンとそこで電話が切れてしまう。


……ずるいよ、瑠璃さん。


僕にも一言ぐらい男として言わせて欲しかったのになぁ……


まあ、敵わないのはとうにわかっていたことだ。


僕は顔の熱が冷めるまで待ってから部屋へと戻った。


「おう、戻ったか達也……って、なんか顔赤いけど大丈夫か?」


どうやらまだ若干赤かったようだ。


「な、なんでもないよ!それより瑠璃さんと何を話していたの?」

「うん?おやおや、嫉妬かな?」


こいつ……見透かしてる癖に。


まあ、正直少しばかり嫉妬はあるけど……大切な彼女と親友だ。


信じてはいる。


「少しね」

「くく……心配せずとも達也の彼女を取ろうとは思わないよ。逆はあるかもしれないけど」

「逆って何?」

「なんでもないよ。それよりも、どうだったんだ?」


何やら気になる言いまわしだったけど……まあ、いいか。


「許可は貰ったよ」

「だろうな。俺との密約が役に立ちそうで何よりだよ」

「密約?」


なんかさっきも瑠璃さんが似たようなことを言ってたような……僕の知らないうちに裏でどんな取り引きしたんだよ一体。


「なんでもないよ。それよりも……行くぞ」

「行くってどこに?」


疑問に思っていたら部屋を出ていこうとする順一。


順一はしごく当然のようにこちらを見て言った。


「決まってるだろ?茜さんのところへだよ」




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