第5話 僕と親友の問題

「やあ、達也。会いたかったよ」

「帰れイケメン」


とある休日のこと。


ここ最近は、一緒に過ごしていた瑠璃さんが珍しく用事があると言って僕の家に来なかった代わりに……厄介なのがやってきた。


そいつは僕の幼馴染であり、こないだのクラスにおける惨劇の実質的な原因でもあるイケメンの佐藤順一さとうじゅんいちだ。


順一は来て早々、僕の台詞を聞いてなかったかのようににこにこと笑顔で室内に入ってくる。


「珍しく親友が彼女と別と聞いて来たんだよ。で?別れたの?」

「別れてないから!というか、縁起でもないこと言わないでよ!?」


どうにも付き合いの長い相手なだけに、僕の口調も荒くなってしまう。


そんな僕に、気にした様子もなく順一は我が物顔で僕の部屋のベッドに座る。


「だいたい、どうやって入ってきたの?」

「茜さんが普通に入れてくれたよ?」

「姉さんか……」


どうやら、我が姉である鈴木茜すずきあかねが普通に入れたらしい。


年頃の女性として、簡単に男子高校生を自宅に入れていいのか?……とは聞くまい。


姉には超絶美形な彼氏がいるし、姉も彼氏に溺愛されてるようだから何かあればその相手は生きては居られまい。


「それにしても……なんか久しぶりに入ったけど、達也の部屋少し変わったか?」

「そう?」


自分ではそう思わないけど……あ、待てよ。


「まあ、確かに最近は僕の部屋に瑠璃さんが来ることが増えたからそのせいかもね」

「なるほどなぁ。だんだんと外堀を埋めているのか」


何やら部屋をじっと見てから呟く順一。


どうかしたのかな?


「それより何しに来たの?」

「おお、そうだった!実は達也に頼みがあってさ」

「頼み?」


こいつからの頼み事などあまり聞きたくはないけど……


「実はさ……達也に女装して欲しいんだ!」

「今すぐ帰らないと通報するぞイケメンやろう!」


突然訳がわからないことを言い出した幼馴染に僕は頭を抱えて「それで?」と続きを促す。


「うん。端的に言うと俺の彼女役をお願いしたいんだよ」

「彼女役?お前なら頼める女の子なんて一杯いるでしょ?」


イケメンな幼馴染は昔からかなりモテており、こいつの側にいると女の子の争いが耐えないくらいだ。


そんなイケメン幼馴染様は何故か昔から誰とも付き合おうとしない。


本人いわく、「好きな人がいる」とのことだけど……いまだに誰かわからない。


「そんなことはないが……まあ、ぶっちゃけ最近ストーカーらしき女にまとわりつかれてさ」

「ストーカーねぇ……それこそ別にいつも通りでしょ?」


イケメンに憧れる人にとっては皮肉な話ではあるが、イケメンにはイケメンなりの悩みがあるのだろう。


具体的には顔が良すぎて女関係で苦労したり、その集まってる女たち目当てに男が寄ってきたり、はたまた、モテるのに嫉妬した男子からの逆恨みで嫌がらせされたりなど……数えたらキリがないくらいにはイベントには困って無さそうだ。


実際順一の側にいて、そういったイベントはよくあったので、むしろ僕は普通の容姿に生まれて良かったと思ったくらいだ。


ストーカーなんて、それこそ順一の容姿が好みでたまたま声をかけられたとかだけで、勘違いした女が何度もしていたりするから、別段特別なことはないと思うけど……


そんな僕の疑問にため息つく順一。


「まあね。ぶっちゃけ、いつものレベルならまだなんとかなったけど……相手が悪くてさ」

「相手?」

「達也は知ってる?関東の不良グループ……『烈兎隊』ってところなんだけど……どうやらそこの幹部らしくてさ」


ヤバイ、めっちゃ知っとる。


……なんて言えないよね。


動揺を押し殺して僕は続きを促す。


「俺も最近まで知らなかったけど、かなりの勢力らしくてさ。一度コクられたけど、彼女がいるって断ったらしつこくてな……それで達也にお願いしたいんだよ」

「そこでなんで僕なの?」

「良く考えてみてよ?実際にいる相手を用意したらそれこそ、その相手を闇討ちとかしそうでしょ?だから、女装した達也を連れていって、もしもの時は警察に……というのが俺の計画なんだよ」

「それって、僕結構危なくない?」


ぶっちゃけ僕からしたらデメリットしかない。


女装というマイナスな出来事にプラスして、変なストーカー女に襲われるかもしれない危険。


そして、それらが瑠璃さんにばれた時の被害状況……想像するだけで恐ろしい。


そんな僕に順一はイケメンフェイスを全開にして言った。


「大丈夫大丈夫!何があっても達也は俺が守るから!」


……うん。それは出来れば女の子相手に言ってあげてよ。


少なくとも同性……それも幼馴染の親友相手に言う台詞ではないよ?


とはいえ、こいつには借りもあるし、ほっとけないしなぁ……


「少し待ってて」


僕はそう言って部屋を出て電話をかける。


こういうときは、素直に瑠璃さんの力を借りるに限るからだ。











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