罰ゲームで告白をした彼のことが気になり始めたクール系ギャルの話

ハイブリッジ

第1話

〈校舎裏〉



「…………ねぇ。私と付き合って」


「えっ……え?」


 私、八事瑠香やごとるかの突然の告白に驚いている様子の彼。


「……だから付き合ってって言ってんの」


「ほ、僕……ですか?」


「今ここにあなた以外いないでしょ」


「そ、そうだけど……。な、なんで僕……だって八事さんとは全然話したこともないし」


 彼の言う通りだ。彼とは同じクラスだが今までほぼ話したことがない。いつも教室の隅で本を読んでる目立たない男子くらいの印象だ。


「な、何にも取り柄がないぼ、僕なんかに八事さんが……」


「…………はぁ。嫌なの?」


 一人でぶつぶつと何か言っている彼にイライラしてしまう。早くこの状況を終わらせたい。


「い、嫌じゃないです! だって……僕もその、八事さんのこと前からす、好きで……」


 彼は顔を真っ赤にして手をせわしなく動かしている。


「じゃあ付き合うってことでいい?」


「……は、はい。こちらこそよろしくお願いします」


「ん。じゃあこれで」


「えっあ、は、はい! また教室で!」




 ─────




「…………もういいよ」


「ぷっ……くくっ……る、瑠香何あの告白」


 彼がいなくなった後、物陰から友人の綾たちが笑いを堪えながら出てくる。


「別にいいじゃん。……罰ゲームなんだから」


 そう。今の告白は罰ゲームだ。


 綾たちと勝負をして負けた私は一緒のクラスの彼に告白をするという罰ゲームをやらされることになった。


「いやーまさかあの子も瑠香のこと好きとか……両思いじゃん!!」


「は?」


「怖っ!」


「いつもそんな怖い顔してるから彼氏ができないんだってー。瑠香は美人さんなにさ、もったいない」


「いいでしょ……生まれつきこんな顔なんだから。1ヶ月経って罰ゲームが終わったらすぐに別れるからね」


「でもでも1ヶ月は恋人なんだから恋人っぽくしてよ! してなかったら罰ゲーム追加だから」


 好きでもない彼と1ヶ月恋人同士……最悪だ。


 そもそも恋人っぽいこととか苦手なのに……。なんで負けてしまったのだろう。自分の弱さに腹が立つ。


「…………」


「返事は??」


「はいはい」


「返事は一回だよっ!」


「わかったって」


 はぁ……まあ適当に1ヶ月過ごして終わらせよう。


 早く終わらないかな……。次は綾たちに勝ってやり返してやる。



 ◼️



 〈罰ゲーム7日目〉


「る、瑠香さん」


「……何?」


「あ、あの……今日一緒に帰りませんか?」


「はぁ…………。あまり話しかけないで」


「ご、ごめんね。忙しかったですよね……」


 目に見えて落ち込む彼。


「別に忙しくないから。……………………先に下駄箱で待ってて」


「は、はい! 待ってますね!」


 彼が嬉しそうに教室を出ていくとすぐにスマホに連絡がくる。……綾からだ。



『瑠香へ 


 彼氏にあんな態度は駄目だよ! 罰として今度前に話してたパンケーキ奢りだからね!!』



「はぁ……」


 めんどくさ……。だから教室で話しかけてほしくないのに。



 ◼️



 〈下校中〉


「る、瑠香さんは好きな食べ物って何かありますか?」


「あるけど。……ない人なんていないでしょ」


「そ、そうですよね……ははっ。ち、ちなみに何が好きなんですか?」


「………………………………唐揚げとか」


「あ、あ~……お、美味しいですよね唐揚げ。…………ちょっと以外だったかも」


「は?」


「え、えっと瑠香さんは勝手にオシャレな食べ物とか好きだと思ってて……」


「………………悪い?」


「全然悪くないです、むしろもっと好きになりました! ご、ごめんなさい! ……ほ、他には?」


 その後も好きな食べ物とかどんな味付けが好きか、苦手なものはあるかなどを聞かれた。何の時間だったんだこれは。



 ◼️



 〈罰ゲーム8日目〉


「なにこれ?」


 お昼休み。彼が私の机に弁当箱を一つ持ってきた。


「えっと……お弁当作ってきたんです。その……瑠香さんの分も」


「は?」


「瑠香さん、毎日購買ばっかりだから」


「…………」


 見られていたのか……。


「い、嫌でした? ……ご、ごめんなさい。やっぱり迷惑でしたよね」


「………………はぁ」


 彼からお弁当を受け取って席を立つ。


「…………綾たちと食べる約束してるからもう行く」


「は、はい! ありがとうございます!」


 お弁当を受け取っただけでそんなに目を輝かせないでほしい。


「で、できればでいいんですけどその、感想とか……」


「は?」


「す、すいません調子乗りました! 何でもなくて、大丈夫です」


「お弁当箱、洗って返すから」


「えっ……い、いいえ大丈夫ですよ! そのまま返していただいて結構です!」


「……洗って返すから」


「え、えーっと……わ、わかりました。よろしくお願いします」





 ─────




 〈中庭〉



「瑠香お弁当じゃん。めちゃくちゃ珍しいー。作ったの?」


「…………まあ」


 彼が作ったお弁当って言ったらめんどくさくなりそうなので言わないでおく。


 興味津々な綾たちが見守る中、弁当箱の蓋を開ける。


「…………えっ」


「えぇ!? 超美味しそうヤバっ!」


「ヤバすぎでしょ。瑠香、いつの間にこんなできる女になったの!?」


 彩りがとても綺麗なお弁当だった。唐揚げ、アスパラガス、卵焼き…………私の好きなものばかりが入っている。


 昨日一緒に帰った時に色々と聞いてきたのはこのためだったのか。…………はぁ。


「ねえねえ一口ちょうだいよ!」


「駄目」


「ケチー!」


「ケチで結構。……………………いただきます」


 唐揚げを一口食べる。……………………………………美味しい。私の好きな味だ。



 ◼️



 〈罰ゲーム15日目〉


 今日は休日。話の流れで彼と買い物をする約束をしてしまった。


 遅刻して彼に借りを作るのは絶対にあり得ないので待ち合わせ時間よりかなり早く到着したのだが、それがいけなかった。


「瑠香さ、あいつと付き合ってるマジなのかよ?」


「……………………しつこい」


 待ち合わせ場所に以前私に告白をしてきた男子が偶然居合わせていて、しつこく声を掛けてくる。振られたんだから空気を読んで声をかけないでほしい。


「どうしたら俺と付き合ってくれるんだ?」


 かれこれ何分くらいだろうか、ずっと『俺の何が駄目だったのか?』『どうしたら好きになってくれる?』とかの質問責め。…………頭が痛くなる。いっそ帰ってしまうか。


「なんで俺じゃ駄目だったんだよっ!」


「はぁ……。その自己主張と声が大きいところが嫌。付き合うとか死んでも無理」


「だ、だからってあんなやつと付き合うとかありえねぇだろ!」


「は?」


 こいつは彼の何を知っているのだろうか……。確かに彼はどうしようもなくドジでお人好しだが、こいつよりは百億倍マシだろう。


「頼む! 一回でいいから俺とデートしてくれ!!」


「だから嫌だって──」


「る、瑠香さんっ!!」


「…………えっ?」


 彼が今まで見たことのない形相で走ってくると私と男の間に割り込む。


「は、離れてくださいっ!」


「あ? お前に関係ないだろ」


「る、瑠香さん嫌がってますから!」


「あ、危ないから離れて……」


 私の声は聞こえていないようだ。彼は怖じ気づくことなく自分より体格の良い男の前に立っている。


「…………なんか冷めたわ。別にそいつ顔だけだったしな。性格終わってるしよ」


「そ、そんなことないですっ!」


 去ろうとする男に対して言葉を発する彼。


「瑠香さんは優しくて素敵な人だと思います」


「あっそ。勝手にしろ…………クソッ」


 男は彼を睨み付けると逃げるように去っていった。


「だ、大丈夫ですか瑠香さん……け、怪我とか?」


「大丈夫だから」


「よ、よかった…………ぐすっ」


 突然涙を流す彼。さっきまでの堂々としていた姿はどこに行ってしまったのだろう。


「ちょ、ちょっとなんで泣いてるの?」


「だ、だって瑠香さんが襲われてると思って……け、怪我とかしたらって……」


「…………はぁ。するわけないでしょ」


「よかった…………よ、よかったです………ぐすっ」


 ……私のために彼は泣いてくれている。とても綺麗な涙だ。


「先お店に行っとくから。…………泣き終わったら来て」


「えっ……ま、待って瑠香さん」


 なんで彼の泣いている顔を見て、私の心はこんなにも動揺しているのだろう。


 今彼と一緒にいるのは危ない。思わず手を差し伸べそうになってしまった。


 …………今日は寒いはずなのになぜか頬が熱い。



 ■



 <瑠香の部屋>


 今日の買い物で彼にヘアピンを買ってもらった。……自分で買ったことない色だ。


 ヘアピンを付けて鏡を見てみる。


「……………………」


 あまり似合ってないと思う。…………騙されたか。それとも彼のセンスがないだけなのか。どっちにしろないな。ヘアピンを取り、机に置く。


『瑠香さん、これ似合うと思います!』


『ぼ、僕が買います! 瑠香さんにプレゼントしたいので』


 ………………まあ明日だけなら付けていってもいいか。買ってもらって付けないのも悪いし。


 ふと鏡を見てみると嬉しそうに微笑んでいる自分が映っていた。


「………………えっ」


 なんで笑っているの? 


 ヘアピンが思ったよりも似合って無さすぎたから笑ったのだろうか? 仏頂面だと嫌だから笑ったの? 


 それとも…………彼のことを考えてしまって笑ったの? 


「……………………はぁ」


 あり得ない。考えるだけ無駄だ。彼とは罰ゲームで付き合っているだけだから、そんな感情になるわけない。


 ……なっちゃいけないんだ。



 ■



 〈罰ゲーム○○日目〉



 家から学校まで電車通学。電車に乗っている時はいつもイヤホンを付けて音楽を聞く。


 でも……ここ数日は音楽を聞かなくなった。



『る、瑠香さん』『大丈夫瑠香さんっ!』


『すごいなぁ……』『す、好きだよ』『……瑠香さん』『綺麗です』


『美味しいね』『ははっ』『瑠香さん』『はいお弁当だよ』『瑠香さん?』『また明日ね』


『おはよう』『ご、ごめんね』『瑠香さん、これ好きって言ってたよね』『ありがとう』



 ここ最近はこの声を聞かないと安心できず落ち着かない。夜もこの声をを聞きながら眠りに就いている。


 体も彼に変えられてしまったみたいだ。



「…………はぁ」



 本当に嫌い…………。


 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い……。


 何度も何度も自分に言い聞かせる。


 私の心を揺さぶる言葉をかけてくる彼が嫌い。


 私に向けるあの優しい顔が嫌い。


 私の少し変化にも気づいてくれる彼が嫌い。


 困っている時に助けてくれる彼が嫌い。


 もうすぐ罰ゲームが終わる。……罰ゲームが終わったら彼とはただのクラスメイトの関係に戻るのだ。


 だから特別な感情は抱いてはいけない。なのに……彼はそんなことお構い無しに私の心をぐちゃぐちゃにかき乱してくる。


 そんなことはしないでほしい。


 少しでも嫌いとは反対の感情が表面上に出てしまうともう抑えるのも難しくなってきてしまう。


 だから表情には決して出さず彼には冷たく接しないと……。


 こんな罰ゲームで人の心を弄ぶような最低な人、彼には相応しくない。彼にはもっと真っ直ぐで誠実な人がお似合いなのだから……。私が彼に好意を持つことなんて許されないんだ。



「…………ぁ」


「あっ……お、おはよう瑠香さんっ!」


「…………………………………………おはよ」



 駅で待っていてくれた彼と挨拶をする。


 ここから学校まで彼と他愛のない会話をしながら登校するのが最近の日課だ。


「瑠香さん、昨日やってたあのテレビ見ました?」


「………………見た」


 ……暖かい。この時間がいつまでも続けばいいのに……。








 終わり

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