第188話 入れ替わった
永遠にも感じるような数分間、誰も喋らないまま立ち尽くしていると
いきなり、部屋の中で停止したままの姿で完全に忘れていたミルンの声が響く
「あーっ!そうか、そういうことか!わかったぞ!」
「み、ミルンちゃんが動いた……え、つまり、ジョニーが溶けると
停止していたミルンちゃんが動くということ?」
ミルンは私を見ずにまずは自分の胸を揉んだ。
「そ、そうか、これが女か……そうか、そうだったんだ……」
「あ、あの……ミルンちゃん?」
ミルンはいきなりガッと顔を上げると、私に詰め寄って
「おい、この展開の真の狙いを分かっているのか?
転生ものの始祖である転生したらケルベロスゾンビでしたの主人公の
ポロン・マーベロンは途中から女になるんだぞ?しかし中身は47のおじさんだ。
つまり、おじさんや男が若い女に性転換するということが重要なんだ。
恐らくこれは、ゲームでは最初は自己投影していてイケメンキャラを使うけど
最終的に慣れてしまうと女キャラを使ってしまう的な
そういう感覚の小説への投影的な何かに近いと思う」
「そ、その、小難しいこといってそうで、実は何も言ってない感じは……」
ミルンはニヤーッと何度も別人で見たことのある不敵な笑みを浮かべて
「俺だ。還ってきた」
いや、ジョニーが還ってきたのはいいんだけど……。
「ジョニー、ミルンちゃんは?元の身体の持ち主は?」
「わからん。俺がこの体に入ると同時に
何か元々あったものが散っていく感触はあった」
「あわわわわ……散ったって、それミルンちゃんの人格を壊して
あんたが、ミルンちゃんの中に入ったとかそういうのなんじゃ……」
ミルンの身体を乗っ取ったジョニーはニヒルな顔をして
「仕方がない犠牲だ。主人公である俺のために
しょうもないジャンキーで匂いフェチでエロ絵師が犠牲になったわけだ。
社会的には小さな犠牲だぞ。そんな生き物むしろ社会に必要ないだろ」
「……あんた、必死に更生しようとしている薬物中毒者の方々と
匂いを楽しむことが趣味の方々と
芸術のためや、人を愉しませるためにエロい絵を描いている皆様に
今すぐ全力で土下座でもして謝りなさい……」
ミルンの身体の襟をつかみながら、睨みつけると
「ふっ……知らんな。属性をつけられすぎたミルンは
もはやキャラ崩壊を起こしていた。
つまりアニメに存在できるかどうかギリギリのラインを越えてしまっていたんだ。
そして、そんな壊れたキャラを再利用する、これこそこのクソアニメ的展開だぞ」
「いいから、早く、ミルンちゃんのその身体から出ていきなさいよ。
そのままどっかへ永遠に消え失せなさいって!」
私がミルンの身体を掴んで、必死に揺らそうとすると
ルナーやセイ、ナナシにジェーンに一斉に取り押さえられる。
「は、離して!!どう考えても、駄目でしょ!
このアホに女の身体とか与えたら、ろくなことしないって!」
ジョニーは早くも自分の下半身を覗き込んで確認し始めた。
「や、やめて!それ、人の身体だって!」
ジョニーはニヤリと笑うと、自分の身体を指さして
「ふっ、このクソアニメのゆるゆる設定を忘れたのか?」
邪悪な顔でニヤリと笑うと、瞬く間にミルンの身体を
いつものパンツでマント姿のアホな姿の元の自分の身体に変化させてしまった。
唖然としつつも、何で思いつかなかったのだろうかと私は自分の頭の悪さを呪う。
私の力でもミルンの身体を変化させられたはずだった。
ジョニーがミルンの胸を揉んで下半身を眺める前に……うぅ……。項垂れていると
ルナーが私に寄り添ってきて
「とにかく、ジョニーは戻ってきた。ミルンもそのうちどうにかなるだろう」
「……ま、まあそうだといいけど……」
本当にそうかは分からないけど……そうだと思おう。
ミルンの身体を乗っ取って、自分の身体を再生させてしまったジョニーは
「ああ、修正者から伝言があるの思い出したぞ。
虫になったときに何度も聞かされてた」
「……とりあえず言ってみて……」
私が項垂れながら促すと、アホは得意げな顔で
「破綻を吸収したジョニー君は以前より強化されている。
その力をもって、宮殿地下にある地下迷宮の最深部へと進みなさい。
そこには、スズナカへと繋がるものが隠されている。
案内はナナシ君とジェーンさんがしてくれるだろう……偉そうだな」
「修正者の言う破綻って、ミルンちゃんのことだったのね……」
私がそう言うとジョニーがニヤニヤ笑いながら
「ま、キャラ崩壊とかいうレベルじゃなかったからな!
完全に脚本家の稚拙さの犠牲による破綻だよな!
便利キャラ作ろうとしたら、人格破綻者になりました的な感じのな!」
一人で盛り上がっていた。
ジェーンが冷たくなったストレッチャーの上のジョニーの身体を見ながら
「で、完全にあっちは死んだけど、どうすんの?」
ジョニーに真面目な顔で訊いてくる。
ジョニーも真面目な顔で
「焼却処分だな。生き物の遺体はちゃんと処理しないと菌が発生して
病気のもとになるのを知らんのか?」
ジェーンは「はぁ?」といった顔をした後に
「あのねぇ、修正者がスペアとして残していったのよ?
完全に遺体になる前に、あんたたちの力で変化させるとか
そういう発想はないわけ?修正者は恐らくは誰かを使い潰して
あんたを復活させるとか、そんなことするようなやつじゃないでしょ?」
「つ、つまり、ミルンの身体にするということか?」
ジョニーのアホが呆けた顔でそう言ったのと同時に私は
ストレッチーの上で開胸されて血まみれのまま、真っ白になっている
ジョニーの姿をした体に手を翳して、ミルンの身体に変えていた。
すぐにミルンは目を開けて、慌てて上半身を起こし
「……あれ、なんで全裸……というか、凄く頭がはっきりしてて
なんで、皆さんいるんですか……」
ルナーから投げ渡されたシーツで体を包みながらミルンがそう言うと
室内にホッとした雰囲気が漂い始める。
「ほら、さっさと降りて、ちょっと片付けてくるからね」
ジェーンはミルンをストレッチャーから降ろすと
少し照れた顔を隠すように不機嫌さを装って、扉を開けて
そしてすぐに出て行った。
「え、あの、これってなんなんですか?
私、ベッド脇に居ましたよね?」
不思議そうな顔のミルンに私が事情を説明している間に
ジョニーとナナシとセイは部屋から出て行ってしまった。
先に帝都地下迷宮の入口へと行くらしい。
「そうなんですか……天帝教皇様が私の身体を貰って
私が天帝教皇様の身体に……入れ替わったということですね?」
「なんか、ごめん……すごく、ごめんなさい」
ミルンは満面の笑みで
「いえ!そんなことはありません!なんか、私、久しぶりに
世界が綺麗に見えています!匂いにも過敏じゃありませんし!
それに、絵を無暗に描きたいとも思わなくなってて!
つきものが落ちたように……」
「も、もしかして、薬も、もう?」
「はいっ!大丈夫そうです!飲まなくても不安じゃないかも」
ミルンはスッと立ち上がると、一礼して、軽やかに室内から出て行った。
私は一人取り残されて、何とも言えない気持ちになる。
もしかしてミルンって、スズナカと修正者との戦いの犠牲者だったの?
さっき、ジョニーに身体を与えるためだけに
何度も私たちに改変されていたわけ?
それらも修正者に操られたから、私たちが私たちの意志だと思いながらやったの?
「……」
考えてもわからん!!
とにかく、私も皆を追おう……しかし、何か無力感が凄い。
弄ばれてるというか……いや、違うかなぁ、そもそもスズナカが余計なことしなくて
宇宙最強の存在として満足していれば良かったのに。
いや、でも、私も生まれないのかな……あの人がこの星を侵略しようとしてなければ
そもそもテルナルド王国が存在しなかった可能性があるし……。
ああああ!やっぱり考えてもわからん!
とにかく、ここまできたからには最後までやりきるしかないよ!
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