第172話 歴史の修正者対歴史の修正者
私は生まれ育った……いや、この体の生まれ育った村をスズナカと離れて
馬に乗って、四日ほどかけて二人旅をして王都へとたどり着いた。
石造りの建物の並ぶ中規模程度の城下町が宮殿を囲う王都は
その周囲をそれほど高くない中身が土の城壁が長々と囲っていた。
馬で人々がそれほど通っていない城門を潜る。
「なんか閑散としてますね」
「うん。私が混沌粒子を操ってこの国の経済を傾かせてるからね」
「……さらっととんでもない悪事を述べないでください」
「大丈夫よ。国民はいじめてないから。
この国都の金持ちどもを大損させてるだけだから」
「弱体化して乗っ取るつもりだったんですね……」
スズナカは馬の上から閑散とした市場を眺めて
「そしてー当然私の本体も封印されてるから
そっちも歴史の修正者が代理で入ってるわ。
つまりー本来はハーティカル対私の戦いだったのが
両者とも居なくなったので!
歴史の修正者対歴史の修正者の不毛な代理戦争が
現在、行われているということですね!あっはっは」
ツインテールを揺らしながら笑い出した。
な、なんか……絶対またろくでもないこと企んでる……。
というか、この人わざと修正者に負けたんじゃ……。
スズナカがニヤニヤしながら
「"窓"用に解説しますけどー、"歴史の修正者"は宇宙の自然現象です。
時空が大きく不自然な歪み方をすると、色んな姿で直しに駆け付けます。
"修正者"は恐らくは宇宙外から、この宇宙へと介入してきている力です。
似たような言葉ですけど、違いますからねー」
何もない場所を見ながら話しだした。
とうとう頭がおかしくなったのかと思いたいが
絶対そんなことはないだろう……むしろ正気のままでないと
私が元の時代に還れないかもしれない……。
そんなことを考えていると、いきなり私の頭の中に
勇者よ……教会に行くにゃ……教会に神の啓示が置いてあるにゃ……。
また雑な神のメッセージが頭に降りてきた。私が言葉を発する前に
「あ、教会でしょ?行きましょうかー」
スズナカが馬首を横の路地に向けたので、私も自分の馬をそちらへと進ませる。
緑あふれる公園のような場所の中心に屋根だけの建物があり
その下には人と同じほどの石像を真ん中にした噴水が水を湛えていた。
その噴水の中から、スズナカは濡れた薄い石板を拾った。
私がのぞき込むと、そこには
"王は金がないにゃ。まずはここから東の廃坑道を探索すると
めっちゃ金が採れるルートがあるにゃ"
と雑な字で彫られていた。スズナカがため息を吐いて
「思ったより雑だわ。確か、ハーティカルはもっと頭上から光が差……」
と言いかけた時に、噴水の水が光り輝いてはじけ飛んで
私たちは水浸しになった。
「……あー……これで、神の奇跡をやったつもりですね……」
私が服を絞りながら言うと、スズナカは苦笑いした。
すぐには廃鉱山へと向かわずに、私たちは閑散とした国都を見回って
宿をとった後に、翌朝馬に乗って東南の山脈内の廃鉱山へと出発した。
二時間ほどで麓までたどり着き、馬を林につないで私たちは山道を登りだす。
この体の持ち主は、ずば抜けた体力があるようで
私は今までハードな魔法の修行や生活の最中に息切れを殆どしたことがない。
スズナカの身体も似たようなもので、殆ど走っている速度で山道を登って
雑木林に隠されていた廃坑道の入り口までたどり着いた。
そこからは、指に灯した炎魔法の明かりだけで、中へと進んでいき
かなりの奥へと進んだところで、スズナカから腕を引っ張られる。
辺りを照らすと、半透明のぼやけた人型に囲まれていた。
「レイスよ。この坑道のガスによって死んだ鉱夫の慣れのはてね。
どうする?」
「どっ、どうするって……倒すしか……」
私が両手に魔力を集中させようとすると、スズナカはスタスタと
半透明のぼやけた人型に近寄っていき、何とその一体を大口を開けて吸い込んだ。
唖然としているとスズナカは全ての人型を吸い込んでしまい
「あー美味しかった。本来の歴史では、レイスと苦闘を繰り広げるんだけど
ちょっと、エネルギーとしてもらっちゃいましたー」
「……いや、楽できたんならいいですけど……」
そういえばこの人は、人じゃなかった……ということを思いだして
脱力しつつ、爪に火を灯したスズナカについて行く。
坑道の掘りかけの脇の穴に私たちは入っていく。
奥へと進むと、一瞬頭がクラっとした。体に力が入らなくなる。
そのまま倒れ込むと、スズナカが慌てて私の身体を仰向けにして
そのまま口づけしてきた。
何かが体の中へと流れ込んで、そして意識がはっきりしてくる。
スズナカは唇を拭きながら立ち上がり
「ごめんごめん、アイちゃんにレイスのエネルギー入れ忘れてた」
「さっき吸ったやつですか」
スズナカはニコリと頷いて素早く進み始める。
何となく唇を奪われたことに釈然としないものを感じながら
私はとりあえずついて行く。
さらに進み、薄くなっている岩壁を二人でアイスボムをぶつけまくり崩すと
その中には、嘘のように壁が全て金色に輝く大空洞が現れた。
スズナカが大笑いしながら
「ハーティカルがこの場を無理やり金鉱に変えたのよねぇ。
こんな鉱床ないって!あははははは!」
辺りを見回す。私は何事もなくたどり着いたことにホッとする。
金塊を砕いて持って、国都まで戻り、
この国の首脳陣に金鉱の存在を伝えようとするも
何のコネもない私たちは宮殿で門前払いを食らい
スズナカが冒険者ギルドへと私を連れて行った。
街と同じく閑散としている冒険者ギルドには目つきの悪い
中年のギルドマスターがカウンターの奥に暇そうに座っていた。
スズナカはカウンターへとポーンッと削って持ってきた金塊を投げると
「マスター、盗賊ギルドと繋いでよ」
と言った。
「え、あの……それ、宮殿に……」
と言った私にスズナカは小声で耳元に
「本物のアイの通った道を辿ってるだけよ。
門前払いされた彼女は、自暴自棄になって宮殿に忍び込もうとした」
あ、そういうことか……黙っていると、金塊を右手の中で確かめていたマスターが
「まあ、いいだろう……こっちだ」
カウンターの脇を開けて、私たちを奥の扉を開けていざなう。
奥の部屋のさらに床に設置された隠し扉を開いたマスターは
「二人で入ってくれ。あとは知らねぇ」
と言って、部屋から出て行った。下へと伸びている梯子を下りていくと
地下通路が触手のように何股にも伸びている場所へと出る。
スズナカは迷うことなくそのうちの一か所へと入り進んでいく、
私もついて行くと、通路の横壁の扉を開いて中へと入っていった。
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