悪は滅びた……どうせそのうち還ってくるけど。編

第168話 しばらく放置で

それから、宝物庫の外の通路や、地上への階段など

しつこく三人で探し回ったが、スズナカもジョニーもルネも居なかった。

とりあえず宝物庫に皆で集まってこれからどうしようか話し合っていると

宝物庫奥の古びた宝箱がガタガタと動いて中からジェーンが顔を出してきた。

「あっ、あいつは!?」

怯えた顔のジェーンに、もしかしてタジマもどきのことかと思って

その特徴を告げると、怯えた顔で何度も頷いた。

「ここに居たんですね……」

「てっ、展示されてたから触ろうとすると、いきなり殺気を浴びせられて

 そ、それで隠れてた……正直、あれは無理……」

ジェーンにさっき起こったことを説明すると

「……道連れにそのタジマもどきを封印したってことはない?

 アイちゃんだけこっちに逃して」

「ジョニーとミイさんごとですか?あの自分大好きな二人が?」

あり得ないような気はするが、無いとも限らない気はする。

「または……修正者に単純に負けたとか……」

「そっちの気がしてるんですよね……」

しばらく二人で俯きあった後に、ジェーンがようやく宝箱から出てきて

「天帝国に帰ろう、王様にも報告しないと……」

王様とはナナシのことだろう。私が頷きかけると

ナバーンが近づいてきて

「……こんな時にすまないが、アイ殿、ジェーン殿、余の歓待を受けてもらいたい。

 このままだと、ナンバ一帯の天帝国への印象が悪くなる」

チラチラとジェーンを見てくる。

やはり毒殺されたという嘘は見抜かれていたようだ。私は頭を下げて

「そうですね……天帝教皇代理として、

 ジョニーのアホの尻ぬぐいはしっかりやって帰ります」

あのアホは騒音をまき散らして、そして異次元で戦って消えた。

スズナカも混沌操作のために布教するとか言って

実は修正者と私たちを戦わせることが目的だった。

もしかして……二人とも消えて、この星は……平和になった?

ということは、修正者のお陰?あれ……スズナカってよく考えたら

個人的な欲望のために宇宙の平和を乱す、真の悪の元締めなのでは……?

しかも、膨大な力を持つ割に、いつまでも人として成長しないアホも消えたので

あれ……ちょっと待ってよ。私が一人でコツコツと神として混沌操作をする方が

もしかして色々と捗るんじゃないの?

え……?まさかのあの二人が全ての災いの元凶……?

思わずジェーンの方を見ると、彼女は私の耳元で

「……確かに事態がクリーンになったわ。案外このままでいいかもしれない」

「とっ、とりあえず、国王陛下、よろしくお願いします」

「ああ、天帝教皇は心配だが、まずは両国の平和のためにしっかり式典を行おう」

ナバーンは胸を張って頼もしくそう言った。

ジョセフは腕を組んでずっと何かを考え込んでいる。


それから三日ほど、ナバーン主催のナンバ王室による大歓迎会が行われ

私は天帝国代表として、国王の高齢の母親とも会見をしたし

あらゆる貴族や民間の代表者たちと話をして

そしていくつもの会議にも出席した。

毒を飲んで急死したということになっていたが

その後すぐに駆け付けた私の回復魔法によって

ギリギリ蘇生して助かったという設定に塗り替えられたジェーンが

常に横にいて補佐をしてくれたので、難しい話も難なく乗り越えた。

それに、都合よく復活したジェーンのことも、ジョニーの騒音ライブについても

事あるごとに常にナバーンが公の場で話題に出して擁護してくれたので

そういう意味でも、まったくストレスなく三日間の歓迎会を乗り越え

さらに、ジョセフが自ら

「ホムンクルスの国全体の運用についての責任者になりたい」

と言ってきたので、私とジェーンでナバーンに推挙すると

あっさりと了承されて、これからナンバ国のホムンクルスについての問題も

次第に解決されていく流れになった。


国王であるナバーンに盛大に送迎されながら、黒船が停泊している港まで付くと

「これでアイ殿ともお別れか。

 正直言って余は天帝教皇の破天荒さも好きであったぞ」

手を差し出されたので、強く握り返して

「国王様、また何かあったらすぐに駆け付けますから。

 楽しかったです。ありがとうございました」

ナバーンは苦笑いして

「アイ殿が居られるのなら、これからも天帝国、いやあちらの大陸は安泰であろう。

 ついていきたいのだが、母上がうるさいのでな」

「名残惜しいですが、では……」

ジェーンが濃く船へと手を翳して

横壁にハッチを開けてタラップをシュルシュルと降ろしていくと

背後で見守っていた大歓声が上がり、私たち二人はタラップを上がっていく。

外交大成功したなぁ。よかったなーと思いながら船内に戻り総船室に二人で行くと

スズナカが居た……なんてことはなく、ジョニーの方も船内に気配はなかった。

ジェーンがいきなり笑い出して

「あの二人、ほんとにこの世界に要らなかったんだね……あははは」

「……二人には悪いけど、これで色々と冷静に世界を創りなおせそう」

スズナカとジョニーさえ居なければ、何もかも上手くいっている気がするよ!

いつの間にか黒船の自動操船を学んでいたジェーンに

天帝国への自動航行を頼むことにした。


途中で巨大生物に絡まれることもなく、あっさりと天帝国東の港へとたどり着いた。

タラップから降りると、すぐに現地の高官と衛兵たちが駆けつけてきて

私とジェーンは多少黒船の停泊についての支持を与えた後に

空を駆けて首都へと帰っていった。

宮殿に戻ると、ナナシが出迎えてくれたので

会議室に移動して、ジェーンと共に今までの経緯を話すと

興味深げに継ぎはぎの顔の両目を開き

「……そうか、つまり、スズナカは消えたのか。ジョニー君と共に」

「修正者に負けたみたいです。私もですけど」

ナナシは少し考え込んだ後に

「だとするならば、今のこの宇宙は修正者側の意志によるものとなっているな。

 スズナカの支配から交代しているはずだ」

「……なんか、あの二人には悪いんですけど

 消えた後にすっごい上手く行ってますし、この星自体も

 これから平和になる予感しかしないんですけど」

ナナシは両目を閉じて、少し何かを感じようとする仕草をすると

「……少し混沌粒子の動きを探ってみたが

 我々を害するような意志は見当たらない。

 修正者からすると、スズナカ、ジョニー君、そしてルネの三体のみが

 不要と判断したようだな」

私は大きく息を吐いた。安堵のため息というか、やっと自分の人生を生きられそうな

そんな今までの不幸を吐き出す様なため息だったと思う。

ここまで長かった。まさかの修正者に私が救われるとは思ってもみなかったが

私としては宇宙外に行きたいとか、もっと好き勝手生きたいとか

そんな希望も野望も一切なく、ただ平和に皆と生きていきたいだけだ。

「……混沌を処理しないといけませんね。

 一応、モチモッチスウィーン教の神はまだ現存しているはずです」

「探さなくていいのかね?」

ナナシの言葉に一瞬、私は固まった。

「誰をですか?」

「二人をだよ」

「あの、しばらく放置でよくないですか?どうせ死んでませんし

 下手したら自分から帰ってきますよ」

ナナシは苦笑いして頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る