第12話 兄弟姉妹たち

翌朝、私たちは寝室に運ばれてきた朝食を取った後

機能案内してくれた老年のメイドが

まとめて持ってきてくれた着替えにそでを通す。

当然同じ部屋でのことだったが、今度はメイドが厳しい目線で

「ジョニー様、女性の着替えの時、殿方は目をそらすものでございます」

そう言いながら、私とジョニーの間に立ちふさがってくれたので

私は素早くパジャマから、その女性用軍服のようなパンツスタイルの服に

スムーズに着替えられた。

そしてメイドと共に、あからさまに残念そうな顔のジョニーを着替えさせた。


その後すぐ、そのメイドと共に

最初にワープしてきた円卓の置かれた会議室へと連れていかれる。

「メイド長パウリーヌ、お役目ご苦労」

円卓の奥から、わざとらしい威厳のある声を作って公爵が声をかけて来た。

円卓にはぐるっと囲うように、老年手前くらいの女性が二名、そして

屈強そうな中年の男性が三名が真面目な顔をして座っていた。

私たちはパウリーヌと呼ばれたメイドにいざなわれ

公爵の少し後ろの椅子に並んで座る。

彼女は一礼して扉を音もなく閉めると、退出していった。

公爵が軽く咳払いをして、また威厳のある声で

「皆、昨日の話は聞いた通りだ。

 私の隠し子二名が、実にご迷惑をかけた。

 それは親として深く謝罪する」

誰も責めるそぶりもなく、軽く会釈するだけだ。

浅黒い肌の屈強そうなスキンヘッドのおじさんが、ニヤリと笑って

「兄貴、あんまりにも女に縁がないからゲイだと思ってたよ」

と野太い声で発言すると、皆がニヤニヤと笑って

公爵は苦笑いしながら

「あのさぁ、僕がママ一筋なのはみんな知ってるでしょ?

 それに、この子たちが実子じゃなくて、隠し子って設定なのは

 別に説明しなくても頭のいいみんなには分かるでしょうよぉ……」

私たち二人以外、全員が大爆笑して、私は唖然とする。

よ、要するに公爵はマザコン中年で、この場に居る重臣っぽい人たちは

みんな私たちが、隠し子じゃないのを知ってるってこと?

白髪の痩せた理知的な雰囲気の女性が笑いながら

「あんたさぁ、昔から脇が甘いのよ。そんなんだからセルムからも

 帝国からも舐められるのよ?

 で、その子たち使って、ママはどんな悪だくみをしてるわけ?」

だんだんわかってきた。この場に居るのは公爵であるノースの兄弟姉妹たちらしい。

公爵は仕方なさそうな顔で

「アイちゃんとジョニー君がいいなら

 明日にでも西部紛争地帯のボルニック峡谷で

 竜騎国の赤鎧たちを追い払ってもらおうかなって」

あれ……?なんか怖いこと言ってない?

発言できそうもないので黙っていると、隣のジョニーが立ち上がり

「おい、おっさんとおばさんたち、俺は今すぐに世界皇帝になりたいんだ。

 さっさと、この無限の魔法力を使わせろ。

 アニメではもっと第一話から闘うぞ。こういう会議シーンは要らないやつだ。

 子供が見てたらチャンネル変えたり、動画見始めるぞ」

意味不明なアホコメントをしてしまった。私が慌てて立ち上がり

「すっ、すいません。このアホ、何もわかってなくて……」

ジョニーを座らせようとすると

先ほど発言した浅黒いスキンヘッドの男が

「嬢ちゃんいいじゃないか。どうせこのままだと我が国は滅びる。

 その子の、その無暗な覇気は好きだぜ。

 俺はサウス・シルマティック。ママの末の息子で西部戦線の指揮官だ」

なんと自己紹介してきたので

私がジョニーを押さえつけつつ

とりあえず深く頭を下げると、公爵が手を上げて

「サウス、ママによるとセルムには力を、帝国には頭を使えって言ってたよ。

 この二人をネタにってことだと思うけど……」

申し訳なさそうに私に目線を送ってくる。

「う、あの……ちょっと、発言してもいいですか?」

私が円卓を恐々と見回して言うと、皆、面白がった顔で頷いてくれたので

「私、戦争で両親が竜騎国に殺されまして、あの

 だから、仇ではあるんですけど、でも、両親が殺された後、私

 とっても大変な思いをして、だからジョニーが魔法で人を殺したりとかは……」

感極まって涙目になっていると、公爵が急に涙声になって

「……アイちゃん、座ってよ。君の話は、皆、諜報部に聞いてもう知ってるから

 僕だって、他国の兵でも、例えドラゴンでも殺したくないんだ……」

「アイ……俺が抱きしめてやろうか?俺ならお前の悲しみを癒せる」

下心丸出しのアホに首を横に振って、私は座り込み涙をぬぐう。

いきなりサウスが爆笑し始めて

「兄貴、それ戦地指揮官の俺の前で言うなっていってるだろ。

 だから、うちの国は弱いんだよ。

 できる領主なんてのは末端に手を汚させてなんぼなんだよ」

そう言うと、ニヤリと笑って

「まぁ、俺はそんな兄貴が好きだからいいんだけどよ。

 じゃ、セルムの赤鎧たちをぶっ殺さずに峡谷から退かせればいいんだな?

 自分で言ってみて、頭がおかしいこと言ってると思うけどな!」

また爆笑し始めた。ジョニーがまた立ち上がり

「おい、よく焼けたおっさん!お前、いいやつだな!

 気をつけろ、そういうやつはアニメ序盤に死ぬぞ!」

ニヤニヤしながら指をさして、また失礼発言したので、黙らせようとすると

サウスが笑いながら首を横に振り

「いや、いいんだ。ジョニー!てめぇとはバカ同士気が合いそうだな!」

「俺はバカじゃない。すごい奴だ。おっさんも別にバカじゃないだろ?

 アニメではそういうバカを装ったいいやつの体育会系キャラは多いからな」

サウスはまた爆笑し始めた。公爵が申し訳なさそうな顔で

「あの、ということだから、さっそくで悪いけど

 明日にでも、西部戦線に行ってもらえるかな?

 サウスに任せれば、何とかしてくれると思うからさ……」

「いや……あの戦争は、私は……」

私が渋っていると、ジョニーが珍しく諭すような顔で

「アイ、いいか?バトルアニメにはドキドキする戦闘シーンが必要だ。

 俺の魔法力で、視聴者を楽しませないといけないんだ。

 そうしなければ円盤は売れないし、サブスクの視聴数も少なくなる」

まったく意味不明だが、妙に真剣なジョニーに

「……何か、大切なこと言ってるのかもしれないけど

 でも、戦争は……」

公爵が渋る私に向けて、何と深く頭を下げて来た。

慌てて円卓を見回すと、彼の兄弟たちも黙って頭を下げてきている。

「ほら、アイ、見ろ。これはお前の負けだ。

 俺の戦場デビューという運命には逆らえない」

「うぅ、だけど……」

シルマティック家の兄弟たちは頭を上げる気配はない。

私がうんと言わないとこのままなのだろう。

……私だってバイトを通じて社会のことは少しは知ってる。

これは世慣れた大人たちに私とジョニーが丸め込まれつつある状況だ。

ここで私は、ジョニーの転送魔法で別の国に逃げるという手はある。

でも、ジョニーはきっと納得しないから魔法を使わないだろう。

それに、少なくとも公爵や兄弟のサウスは悪い人間ではないと思う。

ミッチャムもまだ来そうもないし、

ジョニーが城を壊したのを許してくれた借りもあるし

ああ、ダメだ。まだまだ子供だなぁ……もう断れない。

私は仕方なく

「ひ、人殺しをジョニーにさせないなら……ちょっとくらいは……」

と言ってしまう。

次の瞬間、シルマティック家の兄弟姉妹は一斉に頭を上げてホッとした顔をした。

公爵は椅子から立ち上がり、ジョニーと私の手を取り立ち上がらせ

「みんな!アイちゃんとジョニー君を大事にして

 我がシルマティック公国を盛り上げよう!」

そう言うと、私たちは拍手に包まれた。

ニヤニヤしているジョニーの隣で、これでいいんだろうか……と私は思う。

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