第8話 ノース

私は今更、とても大事なことに気づいてしまう。

偉い人たちの円卓の会議室、ワープの指定先は確か

シルマティック公国首都モルスァーナ……。

そして首都に住む支配者と言えば……一人しかいない。

「あっ、あの……もしかして……」

慌てて、情けない顔で座り込んでいるおじさんの隣に私も座り

その顔を恐々と見つめると

「ん……ああ、私……いや、僕がノース・シルマティックだよ……」

私は次の瞬間、額を床につけて土下座していた。

ノース・シルマティック公爵と言えば、シルマティック公国の領主様だ。

ひゃああああああああ……今度こそ死刑に……死刑になっちゃうよおおおお……。

「こっ、これは私とジョニーのアホが失礼しました!」

しかし、私に返ってきたのは意外な言葉だった。

「やめてよ。僕みたいなダメ中年領主に頭を下げるのはさ」

「えっ……?」

顔を恐る恐る上げた私に、公爵は大きなため息を吐いて

「君も知ってるだろう?我が国は

 西隣のセルム竜騎国に攻められて領土を年々削られ

 東隣りのルシアナ帝国には同盟の維持と引き換えに脅されて

 毎年、多額の貢物を取られてる。このままだと国がなくなる」

仕方なさそうな顔で言ってくる。

「……」

事実なので私に言えることはない。

ここが間違いなくシルマティック公国なら弱小国だ。

公爵は自らの言葉に一人頷くと、再び私に

「だけど、君たちがここに……」

と言いかけたところで


「話は聞かせてもらった。安心しろ、両方の国は俺が滅ぼす」


いつの間にか起きて、私の後ろに立っていたらしい

ジョニーのアホの発言に目を取られる。

私はすぐに振り返ってアホに向けて

「あんたさぁ、めったなこと言わないでよ!

 戦争なんかに巻き込まれたら、沢山人が死ぬんだよ!

 私の親だって……」

本気で文句を言うと、何とジョニーのアホは私の言葉に気おされるように

その場に座り込み

「くっ……俺の傷は予想より深かったようだな……」

とシリアスな顔でかっこつけだした。

「だっ、大丈夫なのかい?」

公爵が立ち上がり、ジョニーを介抱しようとしだしたので

私が遮って

「まだ魔力が戻ってないのにかっこつけてるだけだと思います。

 ちょっとジョニー!肩かすからもっかいベッドに行こ」

「優しいな……抱いていいぞ。力のない今ならお前の思うがままだ」

アホのアホ発言を無視して、オロオロする公爵と共に

何とか力ないジョニーをベッドに再び寝かせた。

「とにかく、公爵様、今後のことは

 ジョニーが回復してからでよろしいでしょうか?」

私は姿勢を正して、公爵に頭を下げる。

ミッチャムはここには居ない。私がしっかりしなければ。

彼は自信がなさそうな顔で

「う、うん、いいけど、どこにも行かないでよ?

 望むものはできるかぎり全て与えるから……」

「お、女……裸のか、かわいい女三人くらいと……あとアニメ見れるテレビと

 動画見たいから大きめのタブレットも……ポテチとコーラも……く……れ……」

力なく意味不明なことを言ってくるジョニーを遮りながら

「公爵様、魔力回復食を用意できますか?

 よければ、精力の付く肉なども……」

「わ、わかった。裸の女の子はいいんだね?」

「そ、それが、一番大事……ふごっ……」

私は、ジョニーの顔に枕をかぶせて黙らせてから

「裸の女の子はいりません!回復食をよろしくお願いします!」

頭を深々と下げる。公爵は了解してすぐに出て行ってくれた。


枕をジョニーの顔から取ると

「そっ、そんなに俺のことが好きか……他の女に嫉妬するとは」

アホがまたアホなことを言ってくる。

「寝ろ!アホ!」

私が一喝すると、ジョニーは気絶するように

スースーと寝息を立て始めた。

ホッとすると同時に、ものすごい不安感が私を包み始める。

ど、どうしよう……なんか、大変なことに巻き込まれる予感がしてきた……。

ミッチャム……はやく、早く助けに来てええええ……。






 
















 


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