第6話 禁呪連発

「シンフォニックドラゴンバスター……」


ミッチャムが呆然と空を見上げながら言う。

「そ、それ光魔法の最上級よ……ね……」

偉大なるうちの親ですら撃てなかった伝説の超魔法を

ジョニーのアホは軽々しく撃ってしまった。

アホはニヤニヤしながら近寄ってきて

「ふん。天才だからな。アイ、抱いてやってもいいぞ」

と肩を落とす私に言ってくる。

「い、いや、それよりもジイ、これ、マズいよね……」

「そうですな。王国魔法警察が……」

とミッチャムが言った瞬間に


「貴様らは包囲されていーる!!

 王国法第二百十二条違反!!

 ランク5以上の攻撃魔法の住宅地内の使用により全員逮捕する!!」


箒に乗って灰色の制服を着たガチムチの魔法使いたちに

私たちは、いつの間にか空から包囲されていた。

ちょび髭の隊長が、恐ろしくいかつい顔で十数メートル上から

私たちを見下ろしている。

ジョニーはニヤリと笑って、私の肩をたたくと

「潰すか?俺なら簡単だろう」

余裕の顔で、魔法使いたちに両手を掲げるが

私が慌てて止める。

「あんたの力だと、みんな一瞬で殺しちゃうって!!

 いいから、私とジイに任せてよ」

「しょうがないな。拗れたら潰すぞ?」

私は必至でジョニーの両手を握って下げさせながら

「ここは、ネルファゲルト家の敷地内です!

 王国特別法で、ランク5以上の魔法を放っても良いはずではありませんか!?」

空に向かって必死に叫ぶと

箒に乗った魔法使いたちはゲラゲラと笑ってくる。

ちょび髭の隊長が見下した表情で

「戦犯の家にそんな法がまだ適用されていると思うのか!?とっくに適用外だ!!」

私に上から言ってくる。

「くっ……」

私はその場に力なく、座り込む。

そうか、両親が死んでもう何年も経った。とっくにこの国は……。

ミッチャムが額に欠陥を浮き上がらせながらも笑顔で

ジョニーの耳元に何かを囁いた。

ジョニーはニヤリと笑うと空へ向けてまっすぐに両手を掲げ


「セイルトゥムーン!!

 汝ら、我が意のままに染まれよ!!」


そう叫ぶと、辺りの空気が一変した。

私が呆然と眺めていると

ちょび髭の隊長や、ガチムチの男女の隊員たちが

箒にまたがったままフラフラと降りてきて

そして、箒をその場に投げ捨てると

ちょび髭の隊長が、不思議そうな顔で辺りを見回し

「はわーここはどこですかー?はわー怖いですー」

といきなりかわい子ぶり始めた。

他のガチムチ隊員たちも

「はわーなんで呼ばれたんですかー」

「むむー?私達って誰なんですかーむむー?」

「うわーん、筋肉硬いよーいやだよー」

一斉に幼女のようなしぐさをし始める。

魔法警察は国家公務員の中でもエリート中のエリートで

決してそんなことをするような人間はなれないはずだ。

なんなのこの景色……。

「ジイ……これって……」

「洗脳魔法です。ケイオスマジックの一種で禁呪ですよ。

 私が詠唱方法を教えました」

「きっ、ききき禁呪……しっ、死刑になっちゃうよぉ」

禁呪とは効果がエグい上級魔法の総称で

撃つためには国の許可が必要なのだ。

当たり前だが、住宅街で無許可で撃つと死刑である。

というか戦場で勝手に撃っても余裕で死刑かもしれない……。

力が抜けた私の肩を叩いたミッチャムは、優しく手を握りしめ

「お嬢様、私はもう我慢なりません。

 ここ数年のお嬢様と我が家へのむごい扱いと、

 亡き旦那様、そして奥様への扱い

 もうテルナルド王国は以前の気高き姿を喪いました」

「……うぅ……」

確かにそうかもしれない。

「お嬢様、ジョニーさんを連れて亡命しましょう!

 そして他国から、この腐ったテルナルド王国を打ち据え変革するのです!」

「えっ……」

思っても居なかったことをミッチャムが言い出す。

ジョニーはニヤニヤしながら

「このおっさんが、一番やべー奴だな。

 アイ、よく考えた方がいいぞ。アニメではこういう奴はだいたい最後に裏切る」

と私にわけの分からないことを言ってくる。

ジョニーは無視しつつ

「でっ、でも、亡命なんて……」

ハードルが高すぎる。きっと途中で捕まって

いや、捕まらなくてもジョニーが魔法で暴れて沢山の人が死ぬだろう。

ミッチャムは額に血管を浮きだたせたまま

笑顔を力づくで作り

「ジョニーさんにもう一つの禁呪を使ってもらいます。ワープ魔法です」

そう言ってきた。


「ほう、つまり俺はワープもできるのか

 女の風呂とか、銀行の金庫に入り放題だな!」

とまた変な踊りをし始めたジョニーは無視して

「わ、ワープって……そんなのできるの?

 それ、ケイオスマジックでも……」

「そうです最上位魔法です。なので一度使ったら

 さすがのジョニーさんもしばらく動けなくなると思われます。

 けれど、一刻の猶予もありません。

 魔法警察の増援が来る前にワープする国を決めなければ」

「とっ、当然、セルム竜騎国はダメでしょ?仇の国だし」

「そうです。シルマティック公国が

 いいと私は思うのですが」

「あの、小国に……?人がいい公爵が治めてるけど

 ……大丈夫かな……セルムとルシアナ帝国に挟まれて、明日にも滅びそうだけど」

私が迷っていると、ミッチャムは意を決した顔で

ジョニーの耳元に何かを告げる。

ジョニーはすぐに頷いて私の右の二の腕を掴んできた

「柔らかいな。筋トレしたほうがいいぞ?」

いきなりセクハラ発言してきたアホに

「……女の子の身体は柔らかいの!!

 そんなことより、ジイ……」

私が声をかけようとしていると

ミッチャムはすでに屋敷へと走り始めていた。

「……へっ……ジイは……?」

「あとから追いつくとか言ってたぞ。行くぞ、俺の伝説の始まりだな」

ジョニーはニヤニヤ笑ってそう言うと


「ワンダーワーズ!!我、移動せんと欲す!

 行先、シルマティック公国首都モルスァーナ!!」


空に向かって大きく叫び、辺りの景色が急速に掠れていった。

私はミッチャムの名を呼ぶ暇もなく

辺りの歪んだ空間につつまれて、ワープ魔法で連れていかれていく。

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