アルル

@konohahlovlj

第1話 アルルとの出会い

 僕がアルルと出会ったのは、丁度GWで学校が休みになった日のことだった。彼は森を進んだ先にある雑草に支配された祠の中に住んでいた。

 僕は、GW中はずっと家の中にいた。別に家が好きな訳じゃない。通信系のお仕事をしている父は休みが取れないらしく、遊びに連れて行ってくれない。父に便乗した母は、パートを入れて、毎日のようにスーパーに出かけている。だから、暇な僕は畳の部屋でゴロゴロしながら漫画を読んでいた。

 普通なら、こういう時間を学校の友達と共有するのだろう。しかし、僕は小学5年生なのにいままで友達がろくに出来たことがない。学校では、ずっと除け者扱いだ。理由は簡単、僕がハーフだからだ。周りより背が高く、1人だけ青い目を持っている。皆んなには見えるものが見えて、皆んなには見えないものが見えたりする。母が完全にヨーロッパの人間だからそれも関係しているのだろう、僕の性格も少し変わっている。

 僕は特段、漫画が好きなわけじゃない。外から聞こえる子供たちの遊び声を聞いていると、僕も外に出て駆け回りたくなる。漫画も飽きてきたからころだ。飾り棚の隅っこに置かれている便箋を一つ取ると、開いているページに挟んで、漫画を閉じた。ウキウキした気分で玄関に駆け出した。人を待たせているように急いで靴のマジックテープを閉める。蹴飛ばすように玄関をこじ開けた。

 外の世界に体を放り出すと、空は晴天、庭の花や草は綺麗な色彩を醸し出しているのが見えた。しかし、僕の登場を待ち望んだ人は1人も見えなかった。その時、孤独という二文字が僕の中をカーレースのようにぐるぐる回り出した。

 とはいっても、ここで引き返してまた畳の部屋で漫画を読んでいてもつまらない。僕は気の向くままに、家の玄関にロックをかけて、いつも行く裏山に駆け出した。

 僕の家から裏山までは走って5分だ。5分というのは山の名称が書かれている縦看板が地面に刺さっているところだ。

 僕はハァハァと息切れしながら、その縦看板に手をついた。近くに人が居ないのか、周囲はしんと静かだ。子供たちの遊び声も全く聞こえない。予想以上に速く走ったのか息が落ち着くのに時間がかかった。落ち着くと、小鳥のさえずりが聞こえてきた。僕はそれに何故か安堵した。

 僕はパープル色の自分の靴をジロジロと眺めてみた。一年くらいは履き続けているが、新品みたいにテープが光沢に光る。個人的にデザインは好きだ。しかし、こんな色の靴なんか周りの子たちは持っていないだろうと思う。パープルなんてダサいなと思う。選んだのは僕なのにね。

 僕は顔を上げた。目の前には山の斜面とそこに必死に根を張っている杉の木たちが目に入ってきた。彼らに意志はないのだろうが、風に揺らされて音も出されるとちょっと不気味に感じた。我慢比べのように僕は、その恐怖に立ち向かってみた。なんだ!怖くないぞ!僕はもう子供じゃないんだ! 心の中で強がれば強がるほど、恐怖が膨らんできた。僕は心の中で数字を数えながら、謎の記録に挑戦した。あと5秒、いやあと10秒。

 結局、僕は何の前触れもなくかぶりを下げた。パープルの靴が再度目に入る。靴の横に大きめのアリが通り過ぎているのが見えた。

 僕は帰路に着くことにした。体を反転させて、来た道を引き返す。数歩歩いた時に、何処からか「ナ〜ナ〜」という鳴き声が聞こえてきた。

 僕は周囲を見渡した。しかし、声の正体は姿を現さない。

 取り敢えず、四方八方に進んでは止まるを繰り返してみた。すると、帰り道を少し引き返して、草むらが広がっている方向に例の鳴き声が大きくなるのが分かった。

 僕は、草むらの中に入り、鳴き声に近付く。目の前の景色は、常に一面の草っ原だ。草むらは僕の膝くらいまでを隠した。足元をとられそうになるのを我慢する。

 鳴き声が大きくなっていくので、僕は自信を持って進んだ。しかし、突然鳴き声がやんで、僕は立ち止まった。耳を澄ませて、鳴き声を聴き取ろうとした。しかし、聴こえるのは草が風に遊ばれている音だけだ。

 僕は慎重に前進を再開した。再開して3歩目で、僕の足元に白い何かがスタスタスタ〜と歩き出すのが見えた。僕はびっくりして、それを追いかける。それがさっきまで鳴き声の正体だと確信が持てたからだ。

 その白い生き物は人間に比べてかなり小さく見えた。草と草の間をスルスルスル〜と通り過ぎていくため、ついていくのがやっとだ。前方の景色から見て、草原はかなり先まで続いている。僕は草を掻き分けながら追いかけた。草の根に足を取られないように高く歩を進めると結構疲れる。段々ということを聞かなくなる両足に鞭を打った。

 途中で、逆風が僕を襲った。僕のスピードが弱まる。白い生き物が僕からどんどんと遠ざかるのが目に見えて分かった。僕は息切れしながら、その光景を黙って見守ることしかできなかった。  

 僕が草原を抜けたのは、逆風の1分後くらいだ。草原を抜けた先は、森が続くようだった。僕は、草原の先を進むことにした。木々が平面に立ち並ぶ景色は、草むらより小さい物を探すのに適している。

 

 

 

 

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