crucial 大切なことを探す旅

@y_kaiki

第1話 嘘

「今日は買い物か何ですか?」


「いや、その、今から陶芸展にでもいこうかなって」


 もちろん俺に話しかけられたのではない


 そこにいる女性が話しかけられた。でも俺の気持ちとしては「きゃー」っとなっている


 ほら、誰かがチンピラにからまれているじゃん。こういうのだよ


 なんかここらへんは人通りが多いし、19時という時間帯が味方? をしてくれたのかもしれない


 というわけで、眺めることにする。彼氏のふりをして助けるのでもなく


 別に怖いからというわけではなく、ただ単に面白そうだからだった


 俺は他人の不幸の蜜を味わうことにする。あれだからな。実際にそんな言葉があったとしても試してみないことには本当にあるのかがわからないし……。


 まあ、どうやってその女性が切り抜けていくのかが気になるのがでかいけど


 結構ナンパされるって聞くけど、実際にどうやって乗り越えているのかは見たことがないからな。


 まあ一応動画だけとっておくか


 そう言って胸ポケットにスマホをしまう


「え? 陶芸? ……うーんもし……よかったら、陶芸について教えてくれない?」


 「え? 何この男?」


 お、心のなかで語ってくれるんだな


 ……と言うか陶芸って聞いて男性少し帰ろうとしたよな? 迷ったよね?


「いや、ちょっと本当に忙しいんで……」


「そ、そうなんだ。それより君、〇〇(ピー)48に出てきそうだよ」


 それ褒めているのか?


「あ、ありがとう」


 褒めだったんだ


「お仕事はモデルとか?」


「違いますよ」


「じゃあキャビンアテンダントとか?」


「それも違いますけど」


「じゃあ、コンビニバイト?」


 いきなり下がるな


 「な、この男。私の職業を当てた? まさか占いでもやっているのか? 相談に乗ってもらおうかな……別に相談に乗ってもらうだけならナンパされたって言わないし? 私軽い女じゃないし」


 ……こいつもこいつでバカだな


「あってます」


「お、やっぱり。コンビニバイト大変でしょ? 変な客が30分おきぐらいに来るし、店員の人はまるで自分が人生の先輩であるかのように振る舞ってくるしね」


 自分のこと言ってるのかな?


 「な、また当たった? やっぱりこの人……」


 バカなの?


「陶芸なんかいかないで、少しラーメンでもいかない?」


 あーあ、本心出ちゃったよ。陶芸なんかって言ったら怒られるよ? マイナーだとしてもその人にとっては好きなものなんだから


「今なんて言いました?」


 ほら、


「ラーメンなんか食べませんよ! 私の体重何キロだと思ってるんですか? ダイエット中なんですよ? 信じられない」


 怒るとこそこ?


 でも、これで怒ってなかったらおめでたく、食事をゴールインだったのになー


 なんか少し残念がっている俺がいる。


「いや、ラーメンじゃなくても……そうだ、そばはどう? そばって結構健康に良いらしいよ(どっかの記事で読んだ気がする……)」


 そうだ、頑張れおじさん。


「何言ってるんですか? そばもだめですよ。さっき食べ放題の店でたくさん食べてきたのでもう何も食べられないですから」


 ダイエットどこ言ったし


「そ、そうなんだ……じゃあ陶芸の展示会に行っても……いってらっしゃい。楽しんできてね」


「ま、まあ」


 いや、あの男の会話は別に悪くはなかったとは思うんだけどな……うまいわけではなく、下手なわけでもなく。


 ナンパでいろいろなものが身につくと思ったけど、ナンパの上手さって、勇気を出して行動できることしかいかせなさそうだな。それ以外で一番欲しかったコミュニケーション能力じたいは上昇しなそうだし。あの会話をどうやって他の人との会話に活かすかって言われたら難しいよな……。


 良いことを学べたし、帰るとするか?


「ちょっと君。まちなさいよ」


 さっきの女性が話しかけてくる


 おっと? 俺がナンパされるの? まさか見てたのバレた? いや、逆ナンだよね? ぎゃぐなんだよね?


「君。なんでそこでずっとニヤニヤしてるの? 普通は助けるでしょ⁉」


「いや……楽しくてさ。ところでごめん。普通ってなんだ? 教えてくれ」


「いや……普通は普通だから普通なのよ」


「いや、わからねーし……」


「いいの? そんなこと言っていると通報しちゃうよ?」


「何その法律? 聞いたことないけど?」


「何君? 他の国出身なの? この国では他の人が嫌なことにあっているのに助けないとそれは違法なんだよ?」


「そんなのどうやって嘘を確認するんだ?」


「何言ってるの? 嘘って何よ? それより今の状況わかってる? 私にあなたの心臓を握られていると言っても過言じゃない状況なのよ? 大人しく私に従ったほうが良いんじゃない?」


 なるほど、この世界は嘘という概念がない国なのかな?


 俺が旅をしている理由でもある多様性。いろいろな価値観を知れるのは面白いんだけど、たまにこういうのがあるから困るんだよな……


 でも、幸いなことにこの子の頭が可哀想な子だ。


「……そもそも君いやな顔をしてなかったじゃん」


「……なっ。いや、それはその……あれよ」


「それに、そんな脅しをしたら違法なんじゃないのか?」


「いやそんなことは……あるわね」


「お前バカだな。普通に考えたら分かるんじゃないのかな?」


「なっ……普通ってなんだし……」


「いやだから、普通は普通だから普通なんじゃないのか?」


「……好きなことを一回してあげる」


「は? バカなの? 死にたいの?」


「違うし。何かお願いを聞いてあげる。それでいい?」


「そうか、ならちょうどいいし適当に案内してくれ。さっき君が言った通り


「名前はなんていうの?」


「悠真。君は?」


「アカリよ。呼び捨てでいいよ」


「そう。じゃあ案内しろ、おバカさん」


「ちょっと? 名前で読んでないじゃない!」

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