第73話
おれが不在の間は、ブルームが先頭に立ち、散発的に襲撃してくる魔物を始末しながら前進していた様子である。
騎士や魔術師、第零の精鋭たち合計四十人弱が、エネス王女の指揮下で左右に流れてきた魔物を叩いている。
エステル王女とアイシャ公女は
ちなみに大魔術師リアリアリアは、少しだけ宙に浮いて、滑るように移動している。
飛行魔法を超絶技巧で駆使しているようだった。
おれと、おれの斜め後ろを飛行して魔力を供給してくれていたシェルが、隊列に戻る。
離れている間の出来事は、リアリアリアのすぐ横にふわふわ浮いている青白い水晶、
「その端末、魔法で持ち上げられるなら、もっと早くやって欲しかったなあ」
この端末を入れた鞄を森に入るときから背負っていたエステル王女が、リアリアリアに愚痴を吐く。
リアリアリアは口の端を吊り上げて「なんでも魔法で解決できる、というものではありませんよ」と返事をした。
「だいいち、エステル、あなたの体力よりわたしの魔力の方が貴重でしょう?」
「そうだけどね! ぐうの音も出ない正論だけどね!」
一行は風のように森を駆ける。
このままのペースで走れば、ほどなく森の外に出られそうだった、が――。
:アリス、いい知らせと悪い知らせがある
あっ、ディアスアレス王子がコメントしてる。
悪い知らせ……聞きたくないなあ。
「いい知らせからお願い!」
:テルファとムルフィを応援に向かわせた。間もなく合流できるだろう
「それは本当にいいお知らせだね! ……で、とっても聞きたくないけど……悪い方って?」
:六魔衆
「ちょっとちょっとぉっ! 六魔衆がなんでそんな湧いて出てくるの! いや……うわあ、そっか。それだけのモノだもんね……」
:待って待って待って、どういうこと
:一体でも手に余る六魔衆が三体!? アリスちゃん、なに運んでるの!?
:もう終わりだよ……うちの国は
:そこまで確認しているのに、途中で止められなかったの?
:六魔衆をどこの軍が止められるんだよ!
コメント欄が騒がしい。
これまでは、
原作でも、仲が悪いし。
今回は事情が違う。
あいつらが崇める存在、信仰の対象たる魔王。
その首が狙いだとするなら、手を組んでくる可能性は充分にあった。
だからこそ、セミはこの魔王の首を五百年に渡って封じたのだろうしね……。
その在処が判明したら、魔王軍は血眼になってとり返しに来るだろう、とわかっていたから。
で、実際。
血眼になってとり返しに来ている、というのが現在の状況なわけだ。
残る六魔衆四体のうち三体が、いまここに集まろうとしている。
無理ゲーがすぎるんだけど!?
:聖教本部が、残る聖僧騎士六人を六魔衆の迎撃にまわすと連絡してきた
あ、これは王様だ。
:まことですか
:うむ、我が国の上空で迎撃する許可を出した
飛行魔法が発達したこの大陸において、国に無断での領空における武力行使は、たとえ聖教といえどもいい顔はされない。
そのあたり、向こうはきっちりとスジを通してきたということか。
いや、そもそも大陸東部に存在する聖教本部とのホットラインがあること事態、一年前では考えられないことなんだけど。
ともあれ。
ブルームと同じくらいの戦力が六人、迎撃にあがってくれるとは僥倖である。
聖教は今回、本気も本気だ。
いや、でもいくら聖僧騎士だからって、六魔衆を二体相手にして勝ち目があるのか?
:聖僧騎士は一体の足止めに徹し、もう一体は通すとのことだ。アリス殿、申し訳ない、との言伝である
「いや、充分! 一体だけなら、やりようがある!」
聖教としては二体とも相手にしたかっただろうけど……。
無理なものは無理だ。
無理を通して失敗するよりは、片方だけでも足止めしてくれる方がずっといい。
一体だけなら、まだなんとかなるかもしれない。
そもそも今回、襲ってきた相手を倒す必要はないのだ。
リアリアリアが手にする魔法のポーチから、聖教が用意する封印の箱まで魔王の首を移す。
それがどこにあるかわからなくなれば、相手も敵地に長居するわけにはいかないだろう。
まあ、その際、八つ当たりで町のひとつふたつ焼かれる可能性はあるし、最寄りであるテルダがその対象となる恐れはあるが……。
ことは大陸規模の災いだ。
いまは、少しでもマシな選択を続ける必要がある。
「できれば
:観測班から最新の報告、
あっはい。
まあ、贅沢はいうまい。
:テルダで住民の避難が開始
:なるべく時間稼ぎを、とのこと
:こちら聖教本部出張所、聖教第二騎士団、第五騎士団がテルダに向かったとのこと
次々とコメント欄に報告があがる。
各地のエージェントが端末に繋げているのだ。
というか聖教本部の出張所、正式には春くらいから稼働するって話じゃなかった?
もう端末を持ち込んでたのか……。
状況は整いつつあった。
敵は来るが、状況は最悪ではない。
「
端末の文字を睨んでいたリアリアリアが、口を開いた。
「
大魔術師は、淡々と語る。
おれから得た知識ではなく、あくまで聖教から提供されたデータや諜報機関が調べた情報がモトであるようだ。
「五つの首を持つ巨大な竜。それが
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