恋愛能無敵型追放系ダメカワピンク救世主伝説/ピンク髪ちゃんが後方保護者面前作主人公魔王と盲信ヤンデレお嬢様蜘蛛属性に挟まれて救世主になって褒められるやつ
人藤 左
前夜
「魔女め」「悪女め」「毒婦め」
妙に行儀のいい侮蔑を背に受け、三年ほど世話になったパーティをあとにした。
手切金として一ヶ月はギルド併設の宿舎で暮らせるらしいチップを押し付けるように渡され、受け取ってしまった手前、ボクは軽々しくここに戻ることはできない。もっとも、ボクの顔の良さに嫉妬してまともに損得感情もできないパーティなど、こちらから願い下げなのだ。レベル詐欺のクエストを受けて痛い目を見るといい。
「…………」
一歩、また一歩と拠点から離れるたびに、不安が募ってきた。
物心ついた頃から蝶よ花よ期待の星よと担がれてきたボクは、この分厚い人望からか容姿に優れているからか、ソロの期間というものがない。厳密には二秒三秒、パーティ間の所属を移動するときくらいは独りだったのだが、当て所もなく、というのは。うん。
◆◆◆
街の外れにあった元・拠点から歩いて数十分。石畳の街並みをぼやぼや通り過ぎ、中央街のど真ん中もど真ん中、北部統括ギルドへと辿り着く。
扉を開くと、まずはレストランを兼ねたエントランスだ。正面には受付、左手側には依頼書が貼り付けられている。
「いらっしゃいませ。あら、パルマさん。お一人なんですね?」
受付のジュリー姉さんが首を傾げて訪ねてきた。
「まぁ、ボクくらいになるとね。そろそろソロにも挑戦しようかなぁ? って感じで」
「まぁ! まぁまぁまぁ! あのパルマちゃんが立派になっちゃってまぁまぁまぁ!」
うぇ。
ジュリー姉さんは、ボクが子供の頃から受付の席に就いている。馬鹿みたいに大きく結われたおさげ髪からわかるように、大変柔和で温厚な性格だ。ボクがこうして若干ショゲつつ独りだってことに聡く気づいて、ぱぱっと助けてくれるのでは、と期待しないでもなかったが、仕方ない。
「それでその、しばらく宿舎に泊まろうかと……」
「まぁまぁ! ……それでしたら裏の食堂受付までお願いします。登録予約されたい依頼がございましたら申し付けください。届き次第ご連絡差し上げます」
「……あ、はい……」
え。
えぇ……。
いや、当然なんだけど。
当然なんだろうけれどさ。
突然ビジネスライクな距離感になってめっちゃ傷つく。
とりあえず登録予約依頼の用紙……受けたい内容の依頼がきた場合、こうしておくと一週間は優先的に斡旋してくれるらしい……のチェックボックスを埋めて提出。
「はい、確かに承りました」
ちなみにこの用紙を提出するために手数料として300チップを取られる。手切金が15万だったので大した出費ではないのだが、こんなんで金取るのか、という不満はなくもない。
◆◆◆
食堂受付側はいつ来ても騒がしい。
昼から大酒を浴びる屈強な男たち、くだらない女たちを侍らせているつまらない男、武勇伝を語り明かす戦士たち。
彼らはまだいい。関わりたくはないが、それだけだ。
ダイニングの端、活気と喧騒から大きく外れた隅の方がそこはかとなく暗いのは、照明の都合だけではない。
安い酒とつまみで時間を潰し、心の空無を埋めようとする敗者たちだ。パーティからあぶれ、ロクにクエストもこなせず、日々の飲み食いと登録予約費を稼いで凌いでいる連中。よくない。ああいう手合いは本当によくない。
嫌なものを見た手前、ボクは受付のおっちゃんにフルーツの盛り合わせといつもの果実酒、宿の申請をした。宿もまた最大一週間ごとの更新だったので、とりあえずそれで。
テキトーに空いてる席に腰を下ろし、ソロデビュー記念の宴をはじめる。
開始である!
「サイコー!」
一杯目の果実酒を飲み干したボクは、その辺をトコトコ歩き回っている女中さんにおかわりを頼み、よくわからないけど美味しいオレンジ色の果物に齧り付く。
……。
「そもそもがだね! ボクを追い出して奴らになんの得があるってんだい? ねぇ、ねぇ⁉︎
「嫉妬だよ嫉妬。ボクの顔とスタイルが良くて嫉妬してさ、うん、誰かよくない噂を流したんだろうねぇ。そうだろうねぇそうだろう。えへへ。
「これからどうしよう」
……。
目が覚めた。
頭が痛い。
おそらくギルドの宿舎だろう。
酔い潰れたボクはそのまま、何者かによって当座の根城であるここに運び込まれたらしい。枕元にはその旨と昨夜の宴の請求書。
「荷物!」
というかお金!
跳ね起き、机の上に置かれたリュックを確認する。
異常なし。
「よかったぁ……」
安堵と二日酔いで、そのままへたり込んでしまった。レンガ造りで床は冷えるので、這うようにベッドへ。
毛布にくるまってぼーっとしていると、九時くらいを告げる鐘が鳴り響いた。
「うぅ……」
つらい。シンプルに頭痛と吐き気がつらい。
二度と酒に溺れないぞ、と強く誓ったボクは、身だしなみを整えて一階へ降りる。
◆◆◆
――そんなこんなで、二週間。
ボクはギルドの中を往復する生活を続けた。
依頼は特にない。
「どうなってんのジュリー姉さん⁉︎」
あまりにないので、ジュリー姉さんに突っかかってしまった。
「パルマちゃんの登録予約の内容がちょっと、ね……」
「濁さないで!」
「そう? えっとねパルマちゃん、この条件の仕事って滅多にないよ。わかるでしょ? だからもう少し現実的な……一度、掲示されてる案件を見てみて、できそうなものから受けてみるのはどうかしら」
「……わかった」
ざっと羊皮紙の依頼書に目を通してみる。
『ウロコイヌの討伐』『森に出没するイワトカゲの調査』『ハネヘビの捕獲』……。
これらは危険度Cに分類されている。ソロで受けるとなるとそこそこ危険な部類だと、ジュリー姉さんが付け加えてくれた。
どれどれ……。
依頼の多くはC、ないしはDランク。害獣駆除を主とした荒事が目立つ。こういった需要と供給の釣り合った依頼は掲示板中央、目につくところに貼られている。
上の方にはBランクの依頼書。Cですらキツそうなので、この辺は見なくてもいいだろう。
下の、本当に隅の方に、Eランク。雑事だ。やれその辺の排水溝が詰まっているだの、草刈りだの、ちょっとしたペット(魔物)の世話だななんだの、こんなのギルドに頼むなよってカンジのものばかりである。
Eランクをフイにして、受付から遠い方。新着なのか、貼るときに間違えたのか、気にしないと見ないような端に、その依頼書はあった。
「ジュリー姉さん、これは?」
ランクDにしては破格も破格、達成報酬30万……C上位からB最下位くらい……の依頼書。さすがになにかの間違いでは? と訝しんだボクは、ジュリー姉さんに尋ねた。
「それは……」
言い淀むジュリー姉さん。
あのその、ともたもたしているジュリー姉さんは非常に可愛らしく、なんで結婚できないんだろうと疑問を抱き、
「さすがにその歳でそのモジモジっぷりはどうなの?」
……言っちゃった。
「……こちらのクエストですが、」
「待って待ってごめん! 急にスンッてなるの、いつも傷ついてるからね⁉︎ ごめんってば許して!」
「冗談ですよ。パルマちゃんがたまに口を滑らすのはわかってますから。それでですね、こちらのクエストなのですが……」
そうして、ジュリー姉さんはつらつらと説明を始めてくれた。
◆◆◆
依頼主はここ北部統轄地区……ゲニヴ・ジースっていう国の北にある小さい共栄領地、らしい。北って言ってもややこしくて、ゲニヴ・ジースの中心がその領土のかなり南にあるから、地図で見ると右下に位置している……の三名士のひとり、ゲゴ・ラクスさん。
依頼内容は『ほら穴に秘蔵しているものの確認と、その報告』。このあたりがかなり細かくて、まぁ秘蔵品の確認だからだろうけど、予めゲゴさんの面接を受ける必要があるらしい。その後、成果如何に関わらず仔細に報告すべし、とかなんとか。失敗する奴いるの、これ?
注意事項は『アルキケダマの生息』『緘口』。アルキケダマっていう平均2メートルくらいの獣が近くに営巣しているんだとか。ボクたち冒険者の間では、このアルキケダマを狩れるかどうかで一人前かが決まるくらいだ。楽勝楽勝。
もう少し色々聞きたかったけど、内容が内容なのか、ジュリー姉さんも詳しく聞かされてないらしい。
そんなわけでボクは、意気揚々と依頼を受諾し、明日の面接に控えて宴を開いたのだった。
……。
「あ、ども。パルマです」
翌日。騒がしい食堂の端で、二日酔いの頭を下げた相手こそ、酔狂とも言うべき依頼人のゲゴ・ラクスさんだった。
ゲゴさんは老紳士という言葉が似合うほど清潔な身なりをしていて、白髪を後ろに撫で付け、顎髭から口髭に至るまでビシッと切り揃えられていた。
「はじめまして。依頼したゲゴ・ラクスです」
声渋っ。
若い頃はさぞかしモテたんだろうな。
「ども。どうも」
そんな彼のオーラに圧されてか、ボクはぺこぺこと頭を下げるばかりだ。
「さて、今回は私の依頼を受けてくれる、ということだが……」
「あ、はい」
「なぜ、この依頼を?」
うわ、めんどくさ。
「なぜって、報酬がいいからかな。……です」
「はは。なるほど、なるほど。注意事項には目を通してくれたかな?」
「あー、はい。周りに言いふらさないことと、あと……アルキケダマ? がいるんですよね?」
「その通り。キミのような冒険者ならともかく、私のような老人では少し危険でね。先祖には悪いが、代理で様子を見に行ってほしい、というのが依頼の内容だ」
……? なんかヘンだな。
「ん……それって、ゲゴさんも同行したらダメなんですか?」
「これでも結構忙しいからね。だからこそ高い金を積んだのだ」
「失礼しました。で、終わったらまた後日報告でしたよね?」
「そう。キミは賢いね。ギルドから終了の報せを受けたら、できるだけ早くここに足を運ぼう。その時は、是非キミの冒険譚を聞かせてほしい」
鼓舞するようなゲゴさん。ちょっと胡散臭いけど、こう言われちゃ期待に応えるしかないだろう。
「このボクに任せといてよ! ……です。
そうだ。ほかにどんな人が受けたんですか? この依頼」
「……なに?」
ゲゴさんの眉が、ちょっとだけ、ピクリと跳ねた。
「や。だから……ですから、先祖? の方の何か、確認ですよね? 今回が初めてってことはなさそうかな、って。つい。すみません……」
「ああ、いやいやいや、気にしないでくれ。……そうだな、そうか。有名どころだと、アムテキレス・アヨロイルマさまにご協力いただいたことがあるな」
「アムテキレスさまに⁉︎」
とんでもないビッグネームが飛び出したものだ。
大国ゲニヴ・ジースの領主にして、四方の防人がひとり、“玄武の長者”シタテルド・アヨロイルマ。その一人娘であるアムテキレス・アヨロイルマが、この依頼を!
「あれはアムテキレスさまが武者修行としてここにきたときだったな……。依頼達成の暁には、特別にキミに聞かせてあげよう」
「ありがとうございます! それでその、いつから始めたら?」
「そうだな……今日から3日でどうだろうか」
「いいよ! ……です」
◆◆◆
初依頼を承ったボクは、意気揚々と市街に繰り出していた。
アルキケダマとはいえ、丸腰は心許ない。
ボクの装備は籠手みたいな大きさのバックラーのみ。あとは野営とかに使えるナイフとかロープとかで、……これでは多分、ちょっと。ちょっとなぁ。
「カワイコチャン! ヤスクシクヨ!」
肉串美味しい。
「美人さんやねぇ。サービスしとくよ」
お酒美味しい。
「綺麗どころには貢ぐのが作法ですわ」
剣をもらった。
寝床に戻り、眠気にも負けずいただいた剣を観察する。
儀礼などに使う装飾剣だが、モノとしては本物だ。ナップザックいっぱいの頂き物の果物を捌くのもナイフより出来て、思わず食べきれない量を切ってしまったので下の食堂へお裾分けして、前のメンバーとも少し当たり障りのない話をして、ねた。
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