あの人の。

七山

第1話 幼馴染の女の子



「れんー?奈々ちゃん家にこれ届けてちょうだい」


テレビの前でゴロゴロしてると母さんが台所からそう言った。


「やだよめんどくせぇ…」


「隣なんだからいいでしょ。ほら早く行ってきて」


白い袋を持たせて母さんは俺を外に放り出した。


『ミンミンミン』とセミの鳴く声がうるさい。

白い袋を手に提げて両耳を塞ぎながら俺は奈々の家に向かった。


「おばさーん!母さんから届けもーん」


鍵の掛かってない扉を開けて玄関で叫んだ。


「おばさーん!」


「………」


おばさんは出てこない。が、次女の花恋かれんが階段の上からじっと見ている。


「おい花恋、おばさんいねーのか?」


「何勝手に入ってきてんだよ!」


「気にすんなよなぁ。幼馴染なんだからよ」


「馴染んでなんかないし!」


幼馴染と言われるのが気に食わない花恋はぷいっと後ろに振り返り自分の部屋に帰って行った。


「確かに、馴染んではないかもなぁ…」


頭を書きながらブツブツと独り言を呟いて蓮はリビングへと入っていった。


リビングで椅子に座って待っていると奈々と三女の美波みなみが入ってきた。


「あ、蓮!今日も来てたんだ!」


手を繋いでいた奈々の手を離してこっちに来る。


「うっす美波。母さんの使いっ走りだよ」


テーブルに置いていた白い袋を指さした。


「何これ何これ!」と美波は袋の中身が気になり中身を覗き始めた。


そんな様子を見ていると奈々がつんつんと頬っぺをつついてきた。


「な、なんだよ」


「今日決勝でしょ?」


「まあな」


「じゃあ試合終わってからデートね!」


ニコニコと笑いながら言った。

「約束ね?」と念を押すように言ってから「試合見に行くから!」と去り際に言いスキップするようにリビングを出ていった。


いつの間にか袋に夢中だった美波はその場に立って俺の方をじっと見ていた。


「今日もラブラブやねぇ」


「うっせ」


さっきのニコニコとした純粋な笑顔ではなく

ニヤニヤとした純粋ではない笑顔だ。小2とはとても思えん…。



家に帰ると時間はもうすぐ正午を過ぎるところだった。


「蓮ー?そろそろ時間よー!」


「わーってるよ!てか母さんが行かせたんだろ!」


蓮はぶつぶつ文句を言いながらバックにユニフォームとスパイクを詰め込んだ。


今日は決勝。残り一つ勝てば全国大会。俺の計画プランが成功するまでもう少し。まずは全国優勝だ。


『グゥ〜…』


俺のお腹が悲鳴を上げた。

これは救助しないと今日の試合に支障が出ちまうぜ…。


「昨日の残りあるかなぁ…」


冷蔵庫の中を見て幻滅する俺の気持ちをわかる人は今この時間何人いんだろな…。

冷蔵庫の中身は焼かないと食べれない肉ばっかだ。


「母さーん!」


『……』シーンとした沈黙が続く。


店の方にいんのか?

蓮はそう思い店の方に顔を出した。


「あら蓮、まだ行ってなかったの?」


「飯!俺の昼飯ないのかよ」


店の中で騒いでいると厨房にいた親父がヒョイっと顔を出した。


「なんだ飯ねぇのか!!ちょっと待ってろすぐ作ってやる!」


手を動かしながらうるさい店の中でも聞こえる声でそう言った。


うち、九条家は食事処九条と言う名前で料理屋をやってる。なんでも近所では結構評判のいい店らしい。


よく隣の奈々たち葉月はづき家も夜ご飯を食べに来る。


おじさん、おばさん、奈々、花恋、美波の五人で家族揃って来る事もあれば三姉妹だけで食べに来る事もある。三姉妹の時は俺も同じ席で食う事が多い。


「チャーハン出来たぞ蓮!熱いうちに食っちまいな!」


親父がそう言ってカウンターに大盛りのチャーハンを置いた。


「さんきゅー」


チャーハンスプーンで勢いよく口にかっこんだ。口の中がまんぱんになったところで水を入れて喉を通す。それを4回繰り返し完食した。


「ごちそーさん。行ってくるわ」


「おう!今日も勝ってこいよ蓮!!」


親父が厨房から料理をしながら言った。


「インタビューでは恥ずかしい事言わんでね…。母さん色んな人から言われて恥ずかしいわ」


お盆を運びながら母さんが。



「蓮ちゃん今日勝てば全国やろ?」

「そりゃすげぇな!よっ!有名人!」

「全国見に行くから今日勝てよ!!」


常連のお客が昼間からビールを飲んで言った。


俺はみんなにグータッチをしてもう一度「行ってくる」と言い家の方に戻りバックを背負った。


「よっしゃ!行こーぜ!!」


バチん!!と両頬を叩いてボールと共に家を出た。うるさいセミの音も気にならない。今はもう試合の事だけを考える。


道路をドリブルで駆け抜ける。

そして葉月家を越えようとした時ガラッと二階の窓が空いた。


「れーーーん!!今日絶対勝ちなさいよー!!」


奈々が勢いづけるように大声で言った。


「おーう!」と一声そう言って俺はドリブルで道路を掛けた。



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