第4章〜白草四葉センセイの超恋愛工学Lesson1〜⑥
その仕草が功を奏したのか、彼女は、安堵したような表情を見せ、
「そっか……。ありがとう、黒田くん」
と、感謝の気持ちを言葉にしてくれた。
その一言に、自分の気持ちが、スッと楽になったことに気付く。
この程度のことで、彼女に無断で、自身の失恋に関する動画をネット上にアップロードしてしまったことに対する償いができるとは考えていないが、紅野アザミ自身が本来打ち込みたいと考えている活動に集中してもらえるなら、多少なりとも、彼女の役に立つことが出来ている、と考えて良いだろう。
それに、なにより、紅野アザミのソロパートを聞くのが楽しみなのは、本当だ。普段は、さほど興味を引かれることのない他のクラブの活動も、親しく話す仲のクラスメートの活躍の場となれば、関心の度合いはケタ違いだ。
彼女の『見せ場』を盛り上げることに少しでも貢献できるなら、嬉しい限りである。
まぁ、クラス委員の仕事で手が足りなくなれば、ネットへのアップロードの共犯者(個人的には、ヤツが主犯だと言いたいところだが)として、壮馬に手伝わせれば良い、と思案する。
そんなことを考えながら、「いや、そんなに大したことじゃないから……」と、照れた表情で答えると、紅野アザミは「ううん」と、柔らかな表情で首を振り、
「黒田くんに相談して良かった! 私も出来る時は、キチンと委員の仕事をするつもりだから、困ったことがあったら、いつでも言ってね!」
と、明るい声を返してくれた。
「あぁ! 紅野の演奏、楽しみにしてるから練習がんばってな」
そう声を掛けると、朗らかに「うん!」と、彼女はうなずき、
「頼りにしてるよ、いいんちょサン!」
やや冗談めかした口調で言ったあと、オレの二の腕あたりを軽くポン、ポンと叩いた。
「おう、任せてくれ!」
こちらもサムズアップをしながら、快活に答え、
「それじゃ、早速、まとめた書類を職員室に持って行って来る。紅野は、そのまま部活に向かってくれてイイから」
と付け加える。すると、彼女は、
「ありがとう! 実は、今週の新入生向け部活紹介で、早速、ソロパートがあるんだ……。曲目は、『ニュー・シネマ・パラダイス』。黒田くんは、映画を観るのが好きなんだよね?この曲、知ってる?」
と、自身の演奏の場を告げ、こちらに質問を投げかけてきた。
「あぁ、良い曲だよな! 映画も観たことあるぜ! ただ、壮馬ほど古い作品に興味があるワケじゃないから、あの印象的なテーマ曲以外、映画の内容はあまり覚えてないけどな……」
苦笑しながら答える。
「そっか! じゃあ、私たちの演奏も楽しみにしてて! 黒田くんたちも、部活紹介に参加するんだよね?」
「おう! オレと壮馬は部活の紹介側じゃなくて、動画の上映担当だけどな」
「そうなんだ。その時に時間に余裕があったら、ぜひ演奏を聞いてほしいな」
紅野アザミは、そう言ったあと、チラリとスマホの時計に目をやった。
「あっ、こんな時間……それじゃ、今日はお言葉に甘えて、お先に失礼させてもらうね」
「おう! じゃ、先に職員室に書類を持って行ってくるわ。あとのことは、こっちで済ませておくから……。練習、がんばって!」
そう返答して、プリント類をまとめ、教室をあとにした。
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