第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜⑦

 始業式が終了し、休み時間になると、竜司と壮馬のもとを訪ねる女子生徒がいた。


「黒田クンに、黄瀬クンだよね……?」


 今日のクラス内、いや学園中の話題を独占しそうな転入生の来訪に、二人は、


(なぜ、白草四葉が、自分たちに声を掛けてくるんだ?)


 怪訝な表情で、お互いに顔を見合わせる。


「あっ、ゴメンね。急に声を掛けて……自己紹介の時にも話したように、《ミンスタ》や《YourTube》に動画をアゲてる人たちと話したいな、って思ったから……もしかして、迷惑だった、かな……?」


 手のひらがつかない形で、両手の指を合わせ、綺麗な形の顎を引きながら、少し上目遣いで問い掛ける女子に、


「いやいやいやいや! トンデモナイ!? 白草さんに声を掛けてもらえるなんて、光栄だよ!! ねぇ、竜司?」


 四葉の嬌声とも取れる声色に反応した壮馬が、親友に呼びかける。

 転入生の突然の来訪と、友人からの問い掛けという二重の不意打ちを食らった竜司は、どうにか、


「お、おう……そうだな」


と、返事を返したあと、自分たち二人に視線を送る新たな同級生に問い返した。


「わざわざ、オレたちに声を掛けに来てくれるなんて、何か用か? 白草」


「うん! ちょっと前から、高校生ユアチューバーとして活躍してる二人に注目してたんだけど……春休みにアップしてた動画のことが気になって……」


 四葉の言葉に、竜司の顔色は一瞬で青ざめ、一方の壮馬は、「おやおや……」と口に出しそうな表情で、ニヤリと相好を崩した。高校一年が終了した後の春休みに、竜司と壮馬が、《竜馬ちゃんねる》にアップロードした動画は、例の失恋動画一本だけだったからだ。

 当然、彼女が口にした『春休みにアップしてた動画』とは、黒田竜司が、カメラの前で醜態をさらした失恋ソング付きのムービーのことを指すことになる。


「結果は、残念だったかもだけど、あんなに一人のヒトを想えるのって、素敵だな……って思って。だから、?って、気になっちゃって……もしかして、このクラスに居たりするのかな?」


 邪気の無い笑みを浮かべながら問う四葉の声に、竜司の心臓は、早鐘を打つように動揺し、口の中がカラカラに乾いていくのを感じる。


「い、いや……それは……」


言葉に詰まりながら、


「プライベートなことだし、相手のこともあるから……ノーコメントだ」


ようやく、それだけを口にする。

 その答えに、先ほどまでの天真爛漫といった表情を崩した転入生は、


「そっか〜。残念……さっき、、黒田クンが失恋した相手を知ってる?って聞いたんだけど、同じような答えだったから、直接、本人に確認しようと思ったんだ」


などと、遠慮会釈の無い発言を続ける。

 彼女の言葉の冒頭に、昨年度、ともにクラス委員を務めた同級生女子の名前が出た途端、図星を突かれた竜司の顔には驚嘆の色が浮かび、そのことに気づいた壮馬は、「あちゃ〜」といった表情で苦笑する。

 さらに、特に悪びれた様子もなく、


「ゴメンね〜。いきなりこんな質問をしちゃって……さっきも、紅野さんの隣の席の……」


と、話し続ける四葉に、壮馬が助け舟を出した。


「天竹さん?」


「そうそう! 彼女にも、『プライベートな話題にクビを突っ込むのは、良くない』って、忠告されたんだった……わたしって、良く周りから《天然》だ、って言われるから……もし、気になることがあったら、遠慮なく注意してね」


 天衣無縫という言葉を体現するかのような表情で語る転入生に対し、すっかり意気消沈してしまった竜司は、「あ、あぁ……」と、言葉少なに返答するのが精一杯だった。

 コミュニケーション能力に長けているのか、それとも、ただ単純に話し好きだけなのかは定かでないが、白草四葉は、なおも語り続ける。


「このあとの時間は、クラス委員を決めるんだっけ? わたしは、転校して来たばかりで慣れないことばかりだから、クラスの委員には、去年からの仕事に慣れているヒトが就いてくれるといいな! そう思わない?」


 問い掛けられた竜司が、またも、「あぁ、そうだな……」と、短く言葉を返すと、


「ありがとう! これから、一年間ヨロシクね、黒田竜司クン!」


 賛同を得たことに満足したのか、さわやかな笑顔を残して、転入生は自分の席へと帰って行く。

 彼女の後ろ姿を見ながら、


「いや〜、まさか、あの白草四葉が、《竜馬ちゃんねる》に注目してくれていたなんて……ボクたちの活動も、まんざら捨てたモノでもないかもね?」


 自分たちの投稿してきた動画が認められていると感じたのか、壮馬は、嬉しそうに相棒に語る。


「オレは、あんな動画で注目されたいなんて、思わね〜よ」


 やや不貞腐れた感じで反論する竜司に、彼はフォローを入れた。


「まあ、なんにしても、注目してもらうのは、イイことじゃない?」


「まったく、オマエは……自分自身に被害が無いからって、無責任なこと言いやがって……」


 竜司がボヤくと同時に、チャイムが鳴り、新学期のクラス委員などを決めるホームルームの開始時間を告げる。

 教室の後方で、転入生の応対を行った彼の平穏を揺さぶる小さな事件は、そのホームルームの時間に発生した――――――。

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