第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜②

 彼らの目指す学び舎が近づくに連れ、同じ制服を着た生徒の数が周囲に増えてくる。

 それに比例して、彼らに声を掛けてくる生徒の数も、また増えてきた。


「オッス! 竜馬ちゃんねるの動画、見せてもらったぜ!残念だったな、竜司……ククク」 


「おはよう! ミンスタの動画を見たけど……二人とも元気みたいで良かった。特に黒田クン、ドンマイ! 今度、他校の女子、紹介してあげようか?」


 男子一同は、こみ上げる笑いを抑えきれず、女子の多くは、憐憫と同情の笑みが入り混じった複雑な表情で、竜司と壮馬にコミュニケーションを図ってきた。


「オレの恋愛は、見世物じゃねぇっての……」


 数分前に声を張り上げて叫んだものと同じような内容を小声でつぶやきつつ、竜司は学友たちからのを受け流そうとしていた。

 なぜ、二人に話しかけてくる面々の多くが、竜司の非常にかつな話題に精通しているのかといえば、それは、竜司と壮馬が小学生の時に登録した動画サイト《YourTube》の『竜馬ちゃんねる』および、その拡散のために、中学生になってから『ホーネッツ』という名で作成した《チックタック》と《ミンスタグラム》の共同アカウントに答えがある。

 春休み前の終業式に、クラスメートの紅野こうのアザミに告白し、見事に玉砕した竜司の落ち込みぶりを見た壮馬は、その日の午後からスマホを持って親友に密着し、撮影した動画を


『ホーネッツ1号 人生で初めて失恋しました』


というタイトルで、先に挙げた各種WEBサービスにアップロードしていたのだ。


「ツライ想いは、言葉にして吐き出した方が、楽になるって言うよ……」

「ミンスタのストーリーズなら、一日で動画も消えるし、大丈夫! 竜司の貴重な青春の一ページなんだ! ボクたちの活動記録として動画に残しておこう」


という壮馬の口車に乗せられて、動画をアップすることに同意した竜司だったが、傷心のため、付き合いの長いの性格の悪さに気が回らなかった。

 自らの想いが受け入れられなかったツラさを、滔々と語る六十秒の動画には、壮馬の巧みな編集術によって、途中から定番の失恋ソングがBGMとして被せられていたが、


「竜司のショボい失恋話が、こんなにドラマチックな映像になるなんて……」

「歌は、いいねぇ。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」


などと、旧世紀のアニメのセリフを持ち出して、失礼極まりないをつぶやく幼なじみに、反論する気力すら湧かなかった。

 そこまでは良いのだが……。

 壮馬は、その動画を二十四時間でネット上から消える《ミンスタグラム》だけでなく、十代の利用者が多い《チックタック》や《YourTube》にもアップロードしていた。

 動画の撮影とアップロードを行った日からしばらくは、傷心のためにふさぎ込み、ネット絶ちをしていた竜司だったが、数日が経過しても、学園に通う友人・知人から、メッセージアプリの《LANE》に、


「玉砕乙w春休み明けに会うのが楽しみだ!!」

「黒田クン、強く生きてね……」


という主旨のメッセージ着信が途絶えないことを不審に思い、自分たちが登録している各種動画のアカウントにアクセスし、ようやく、相方の無慈悲な所行に気付いて、即刻、公開の停止を行った。


 だが――――――。


 時すでに遅く、公開停止時、《YourTube》の再生回数と視聴者数は、ともに四桁に達しており、コメント欄には、


「祝!三千再生達成!!」

「ホーネッツ1号=三千回振られたオトコwwwww」


などの文字が踊っていた。

 多くの失恋動画と同様に、動画内では、失恋した相手についての言及は一切しておらず、偶然とは言え、


「ところで、相手は、どんな娘なんだろう? 気になる」


というコメントが書き込まれた直後に、動画を公開停止にすることができたので、それ以上、竜司の想い人であった紅野アザミに対する詮索は行われなかったようではあるが――――――。

 三学期までのクラスメートたちには、その相手について、おおよその検討がついているだろう。

 新学期を迎えるにあたって、黒田竜司の懸念事項の一つ目は、現在すでに、その渦中にあるように、学園中から、失恋ネタをイジられることであり……。

 もう一つは、相手からすれば、とばっちりでしかないカタチで、迷惑を掛けることになってしまった前年度のクラスメート・紅野アザミに謝罪するため、顔を合わせなければならないことだった。


(もし、二年のクラス分けで、紅野と別のクラスだったら……なんとか今日中に謝って、あとは明日から、お互いに無関心を装えるかも知れないが……だが、もしも、同じクラスになってしまったら……!?)


 そんな恐怖心を抱きながら、トラブルの元凶になりかねない種を蒔いた相方とともに、校門を抜けて、駐輪場に自転車を停め、新学年のクラス分けが貼り出された校舎前の掲示板に向かう。

 掲示板に貼られたクラス表を視認する直前、両目を、ギュッと閉じ、


(南無三…………)


と、仏・法・僧の三宝にすがるような想いで、目を見開き、自らの運命を確認しようとするが、


「あっ! ボクも竜司も、紅野さんと同じクラスだ!!」


 隣に立つ友人は、アッサリと絶望的な答えを口にする。

 その一言に、心が折れそうになりつつ、自らの瞳を掲示板に向けると、確かに、


 ・黄瀬壮馬

 ・黒田竜司


の名前のあとに、


 ・紅野アザミ


の名が記されていた。

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