帝王

帝王は造られた。

ただ、統治するために。



ある皇帝は、自身が統べる帝国を永遠のものにしようとした。

しかし、帝国は大きくなりすぎていて、人間が治めるのはもう限界だった。

ここまで何とか形を保ってきたのは、ただ皇帝の能力とカリスマ性が人並外れていたからにすぎない。


そして皇帝は、自身の跡を継ぐ帝王を造る。

帝国を治めるのに必要なあらゆる能力を詰め込んだ、精巧な機械人形を作り出したのだ。


皇帝は死んだ。

死後、造られた帝王が帝国を統治する。


帝王の能力に不足は無かった。

ただ帝国を統治するために演算をし続け、最適解の選択をし続ける。

しかし、それは帝国を維持すること自体を目的としていて、その国で生きる民のことは、帝王の演算式に含まれてはいなかった。


そのズレは百年は顕在化しなかった。

帝国の平和は百年間続いた。

しかし、小さなひび割れが徐々に大きくなっていくように、造られた帝王の統治には、少しずつ狂いが生じていく。


小規模な反乱が起きる。制圧される。

帝国はまだ続く。

反乱は幾度も起こる。制圧される。

帝国はまだ続く。

民が逃げていく。

帝国はまだ続く。

戦争が起こる。飢饉が起こる。疫病が広がる。

帝国はまだ続く。

民がいなくなる。




誰もいない帝国。

廃墟となった都の中心で、帝王は一人、まだ演算を続けている。

帝国が滅びた今となっては、演算の目的はすり替わった。

何を間違えたのか。

どうすればよかったのか。

その答えを求めて、帝王は演算をし続ける。


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