天使

天使は造られた。

ただ、願望の結実を望む人にとって。


始まりは一人の、少し頭のネジが外れた科学者の思い付きだった。

『優れた人間の魂は、死後も保存されなくては、世界の損失だ』。

そんな強迫観念だった。


不幸にしてその科学者は、願いを叶えるための才知を有していた。

その目的を果たすデバイスとして、人造の天使を作製した。


生命活動を停止する目前の人間を感知するアンテナ。

即座に空間転移を行うための翼。

その人間の脳内に蓄積された記憶をスキャンする瞳。

過去の行為から、その人間の価値を自動的に判定する頭脳。

そして、一定以上の価値を持った人間の記憶データは、まるごと保存される。


かくして、人の魂を保存する天使を作製し、科学者は満足した。


天使は問題なく稼働した。

ただ、天使は誰の記憶も保存しない。


天使が保存するほど価値のある個人など、初めからいなかったのだ。

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