絵画という芸術の道を志し、大成しないままくすぶる主人公の青年。ある日、彼らバイトする絵画教室の主催者であり、雇い主でもある女性に誘わるまま、とある人物の“看病”を引き受ける。そうして出会ったその人は美しくも儚げで、苛烈。正しく“才能”を絵に描いたような人物だった…。
大成しないまま燻り続ける主人公を、彼の内面に重きを置きながら一人称で描いた物語。そのため、物語全体を鬱々とした暗く重苦しい雰囲気が包みます。主人公自身も現状と自分を俯瞰的に理解しており、何事においてもどこか悲観的な見方を持っている。このことも、作品全体の雰囲気を形作っています。
けれども“夢”を諦めきれずに足掻く…足掻いてしまう主人公はとても好印象で、小説を書いている私含め多くの“表現者”が共感できるのではないでしょうか。
本作最大の魅力は先に触れた内面、心の動きの描写。例えば思い通りに表現できない鬱憤。大成している人々への憧れや嫉妬。そして、自身の実力を自覚し、嫉妬することへの疑問・抵抗があるからこそ、外ではなく中(自分)にその原因やイライラのはけ口を求めてしまう…。
それらどこか後ろめたい心の動きが陰鬱ながらも精緻に描かれおり、個人的にとても共感してしまいます。だからこそ、私がそれを願っているように、主人公がいつか花開くその時を期待し、応援してしまいます。
また、彼を雇っている女性も魅力的な人物。主人公の才能を信じ、支えてくれる。そんな気さくな“理解者”である彼女の存在が、主人公をどれだけ支えているのか。想像に難くなく、本文からもそれがよく伝わってきます。
そんな主人公が出会うのが“才能”が服を着たようなとある人物であり、そして、その人物が抱えている病気という名の“理不尽”。自分がどれだけ手を伸ばしても届かないもの持っていてなお、苦悩する存在。それらに対する心の動き、特に嫉妬心と興味が、個人的にとても共感でき、本作に引き込まれた点でした。
メタ認知が上手く、堕ちて腐る寸前で、それでも諦めきれずに僅かな可能性を追って足掻く主人公。自身も絵描きとして活動しながら主人公の才能を信じ、応援する理解者の女性。主人公が求めるものを持ちながら、彼同様に足掻く天才。3人が互いに関係した先で行き着く未来とは…。
燻り続ける表現者の内面を的確に捉え、暗く美しく精緻に描いた作品。創作をしたことがある人ならきっと共感し、飲み込まれてしまう作品。(いい意味で)注意して読むことをおすすめしたい、素敵な作品です!