第11話
季節外れの台風十六号が日本列島に接近していた。俺は夕方からのパソコン教室のために用心のためにいつもより早めに中野の自宅を出た。首都圏の交通機関には本当に頭が下がる。だいぶ雨風が強まっているというのにほとんどが平常通りの運行だった。
渋谷のスクランブル交差点で信号待ちをする。雨で傘が破けてしまいそうだ。原宿方面の道路から歪んだギターと激しいドラムの音が聴こえて来たと思うや否や、大型トラックが交差点に進入してきた。「クラウドバースト」というイギリス出身の新人バンドを宣伝していた。車体の側面に大型モニターが付いていて、日本先行シングルと銘打たれた『虹を待つ人』のプロモーションビデオを繰り返し流していた。
新人の外国人バンドにしては珍しく大がかりな演出の宣伝カーに信号待ちの人ごみは釘付だった。学校や会社から帰宅途中の連中が立ち止まって思い思いに携帯電話で写真を撮っている。付けまつげと太いアイラインでけばけばしい化粧をした女子高生たちがスマートフォンを片手にはしゃぐ。おおかたツイッターにでもアップするんだろう。ロックにてんで関心の無さそうな中年のサラリーマンまで携帯片手にトラックを追っていた。
彼らの宣伝は大成功、といったところか。
トラックは俺の目の前も通り過ぎた。モニターの中にギターを弾くあいつがいた。撥ねた泥水が俺の足元に引っかかった。
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