落ちこぼれ魔法使い異種族通訳者通訳者となる！ ～どうも初めまして。 異種族通訳者のアリスと申します！～

どっちが魔王ですか？

「ふっふっ！ ここであったが百年目！ 今日こそお前を……」

『なっ……お前はセシリア！！ どうしてここに！？』

「……ちょっおい！！ 俺のことを無視する……」

『いやなに。 偶然たまたま、魔王くんの元に会いに行く機会ができたものでね。 仕事がてら手合わせでもしてみようかなと』

「いや、だから俺のことを……」

『なん……だと……！？』

「………………」

　あーあ。

　あんまりに自称勇者さんを無視して話を続けるものだから、黙り込んでしまったではないですか……。

　それはそうとして……セシリアの魔族言語も大分上達しましたね……。

　能力を使っている私すらもそのうち凌駕しそう……これが天才ですか。

　そーんな光景をぼんやりと見つめていた私に、魔王さんが気がつきます。

『なっ！ お前はアリス！ 助かった！ 連れをどうにかしてくれ！』

『えぇ……』

　目頭に涙を浮かべて必死に懇願する魔王さん。

　そんなに怖いですかセシリアが。

　一応そういった所の線引きはちゃんとできていると思っているのですが……。

『ふふっ。 そう怯えることはないさ。 私は殺さないように嬲るのが得意でねぇ……』

『ひぇぇぇ！』

　……あ。 やっぱりできていないかもしれない。

　悪魔のような笑みを浮かべるセシリアを諦観しながらも、私はこっそりとセシリアに耳打ちをします。

「ねぇ？ 今日は勇者さんのお仕事優先だからさ。 ……ね？ 我慢しよう？」

「ふむ……それもそうだね。 この楽しみは今度の機会に取っておこうか」

　いつか試すことは確定なんですね。

　ご愁傷さまです魔王さん。 合唱！

　魔王さんの絶望が決定しましたが、そんなことは私に関係ありません。 それでは今度こそ勇者さんのご登場を……

「……あれ？ ねぇセシリア。 勇者さんは？」

「ん？ 勇者くんなら……ほらそこに」

「……どーせ俺なんか。 故郷で土いじりしてる方が似合ってるんだべ」

「……」

　私の視界に映る、明らかに肩を落として部屋の隅っこでいじいじするセシリアさん。

　……なにやら方言のようなものが混じっていますが気にしないです。

「勇者くーん？ ほら出番さ。 魔王と戦うんだろう？」

「セシリアさん……。 俺はダメだ。 アリスのやつに金を払うから今回の依頼はもういいと言ってくれ……」

「……ふむ。 そうか」

　やれやれと首を振るセシリア。

　今更ですけど、なんでセシリアは「セシリアさん」呼びなのに私は呼び捨てなのでしょうか？

『アリスよ。 今の状況を説明して欲しい』

『ん？ そうですね……銀貨一枚で手を打ちましょうか』

『……しっかりしているな。 仕方ないから頼む』

　近くにいた獣人の少女さんから銀貨を受け取り、私はここに至るまでの経緯を包み隠さずにお話しました。

『……とまあこういうわけで。 今現在あの勇者さんは落ち込んでいるのです』

『ふむ……まぁ話が済んだのならば早く帰ってく……』

『帰る？ そんな無粋なことを言わないでくれよ。 ……私と戦おうじゃないか』

『んな……なぜだぁぁぁ！？』

『ふふっ。 魔王くんだって戦いたいだろう？ さて……やろうか！』

　偉く攻撃的で獰猛な笑みを浮かべて、セシリアは杖を構えました。

　戦いの火蓋が今……切って落とされます。