頭のおかしい方でした

「……さて。 色々と話してもらいたいんですけど?」


 衛兵さん達がとっ捕まえた自称勇者さんに、私とセシリアは面会をします。

 いつ暴れ出すかもわかりませんが、あいにく自称勇者さんは武器を持ち合わせておりませんし……セシリアがいれば大丈夫でしょう。


「……ふんっ。 人類の敵に話す言葉など一言も……」

「セシリア? 派手にやっちゃって」


 ぷいっとそっぽを向いて、話す態度を見せない自称勇者さんに腹を立てた私は、隣で椅子をゆっさゆっさと揺らして遊んでいたセシリアに合図をしました。

「了解した」という短い返事と共に、右の掌の上で魔法の炎を顕現させたセシリア。

 明らかにビクッ! と肩をふるわせた自称勇者さんが、絞り出すように話を始めるのはすぐでした。


「……俺が勇者なのは知っているだろう? お前もあの場所に居合わせたのだから」

「……魔王城ですよね? 一ヶ月ほど前の」

「その通りだ。 やっとの思いで辿り着いた俺が魔王と遂に対面をした時……現れたのがお前だったんだ!」

「……はぁ。 なるほど」

「お前が訳の分からないことを始めたから、俺が魔王にペースを握られて敗北する羽目になったんだぞ! 分かったか! この人類の敵め!」

「……」


 自称勇者さんのトンデモ理論に返す言葉も見当たりませんでした。

 ええと……つまりなんですか?

 私のせいで自分が魔王に負けた、と。 そう言いたいのですね?


「……それって八つ当たりですよね?」

「……うるさいっ!」


 ドンッ! と勢いよく机を叩いた自称勇者さん。

 いきなりの行動にビックリしましたが……その後に小さく「痛い……」と呟いていたのを私は聞き逃しませんでした。


「ちなみにですが。 ひとつ質問しても?」

「……なんだ?」

「ええと……あなたってどうして勇者やられてるんですか?」


 私は率直な質問を自称勇者さんに投げかけます。

 そもそもの話として、人類と魔族が共存するようになった現在において、魔族を駆逐するための勇者という存在がいること自体おかしいのです。

 まぁ大抵の場合、勇者となる人間のパターンは大きく二つに分けられます。


 一つ目……といってもこのパターンがほとんどですが「自分の武人としての力を誇示するために勇者として魔王討伐を目指す」というものです。

 これの目的は単純明快。 ただ単に有名になりたいという自己顕示欲の強いお方々が、その欲求のままに魔王さんとの手合わせを求める、というものです。

 まぁ実際に、魔王さんを討伐できるような人間は武人として最大級の誉れを受けますから……割と見返りは悪くないのです。


 そしてもうひとつ。 こんなパターンは本当にレアですが……


「勇者をする理由? そんなもの決まっているだろう。 汚らわしい魔族をこの世から排除するためだ」

「……ですよねぇ」


 この自称勇者さんの場合は、なんとなーくそんな気がしておりました。

 そう……二つ目のパターンとはズバリ「現在の共存関係を良しとしない思想の強い人物が勇者となって、魔王さんを倒しに行く」という頭のおかし……ゲフンゲフン。

 政治に関して非常に精力的なお方々の実行するものです。

 何を当然のことを、と言わんばかりにそんな事を口にしてみせたこの自称勇者さんは、そっちの思想が強いお方だったという訳ですね。


「それについて異論がないといえば嘘になりますが……それはそうとして貴方……私の力を求めていませんか?」

「……お前の力? あぁ……確かにな」


 私の提案に自称勇者さんは不敵な笑みを浮かべました。


「お前をパーティメンバーに加えて……魔王を倒しに行く」

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