第6話
ダヒと相談して、戦闘服は今俺が着ている物をベースにして制服風の格好に決めた。魔法の服を着ると甲冑さながらの防御力を得られるらしいのでなるべく肌を出さない方針で、膝丈のプリーツスカートはチェック柄、黒のハイソックスを履いてセーラー服風のシャツは半袖、その代わり腕は二の腕まで覆う手袋で守る。靴は動き易さを重視してローファーではなくスニーカー系にして、変身道具はいつでもどこでも隠し持っていられる様に指輪にした。頭部を守る為に何か装飾があった方が良いとダヒが云うので、最初はリボンやヘアゴムを考えたが、ショートヘアの子が仲間になる可能性も考慮してヘアピンにする。
デザインは今後仲間になる子達によって微妙に変わる可能性もあるが、基本的には色違いと云う感じになるらしい。俺は地味系の茶色を希望した。ダヒは最後まで「リーダーは赤! 次点でピンク!」と主張していたが、じゃあ契約しない、と強気に出る事で封じ込めた。
変身方法は指輪を右手の中指にはめると云うもの。右手中指の指輪には邪気から身を守る、意志を強くするなどの意味があり、悪性の妖精を相手にする事、魔法を使うには意志の力が重要だと云う事からそう決めた。
ダヒには普段は魔法で姿を消して俺の側に居てもらう事にした。意思の疎通は指輪が側にありさえすれば頭で考えるだけでダヒに届き、またダヒの云いたい事も俺に届くと云う。
指輪はアンティークゴールドで五ミリ幅のリングに、直径十五ミリ程度のリング型の石座が乗っていて、その石座にはクラックが虹色に輝いて見える水晶のコインがはまっている。クリスタルには強い浄化の効果があり、魔除けの道具として知られている。そして別名アイリスクォーツと呼ばれるレインボークリスタルの名はギリシャ神話の虹の女神イリスに由来し、希望と幸運をもたらすとされ、より強いヒーリングパワーを持つと云う。
「君は人間にゃのに、そう云う事に詳しいんだにゃ」
純粋に感心した様子でダヒが云う。
「人間界にはスピリチュアルと云う言葉があってな。精霊とか魂とか精神とかって意味なんだが、そう云う概念を悪用して知識や不思議な力の無い人を騙す悪い奴らが居るんだよ。そう云うのに騙されない為にスピリチュアルについて勉強していた時期があるんだ」
「ニンゲンって大変にゃんだにゃあ」
一通り話し合いも終わって、ふっと沈黙が降りる。するとタイミングを見計らった様に階段を上がって来る足音が微かに聞こえた。咄嗟に人差し指を口の前に立てて黙る様にダヒに合図する。ダヒは前足で口を塞ぎながらこっくりと頷いた。
「夢、起きてる?」
母親だった。
「うん、起きてるよ、ママ」
なるべく十三時間の間に見た夢ちゃんを装って応える。
「お昼ご飯作るから、そうね、三十分もしたら出来ると思うから、降りて来てね」
「分かった。お昼ご飯はなあに?」
「夢の好きなオムライスよ。ちゃんと半熟のたんぽぽにするからね」
母親はドア越しに嬉しそうに答えた。
「やったあ! ありがとう、ママ。もうちょっとしたら行くね」
母親は、待ってるね、と云って階段を下りて行った。完全に足音が聞こえなくなるのを待って、俺とダヒはふーっと息を吐いた。
「大分十歳女児の喋り方が板について来てるにゃ」
揶揄う訳でも無く、感心した様子でダヒが云う。
「まあ、目が覚めてからそこそこ日が経ってるからな。いつか夢ちゃんが目を覚ますまでの間、要らん心配をかけない様に一層気を付けないと」
「……君、人が好いって良く云われにゃい?」
ダヒが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……優しいとは良く云われる」
良い人過ぎて異性として見られない、とも良く云われたっけ。
……ちょっと泣きたくなってきた。
「そう云えば、ダヒは食事とかどうするんだ?」
気分を変える為に訊くと、ダヒはにっこり笑った。
「食べる事は好きだけど別に食べにゃくても大丈夫だにゃ」
「じゃあ人の目が無い時は分けてやるよ」
云うと、ダヒは無邪気に喜んだ。
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