第2話 ヤンデレ?

王様との謁見が終わった俺たちはそれぞれの部屋に案内され、少し休憩した後にメイドさんが運動着らしい動きやすい服を用意してくれて、それに着替えて訓練場で自分の能力を確認する運びとなった。


 訓練場は小さめなコロッセオのようなところで、訓練場自体は広く観客席もある。ここではスポーツ大会や剣術大会も行われるところらしい。


 そんな訓練場ではノースリーブのシャツを着た、体躯のよいスキンヘッドの男が真ん中で何か大きめの水晶を脇に抱えながら仁王立ちしていた。




「よくきたな! 勇者たち! 俺はおまえたちに戦闘の基礎を教える教官であるレイモンドだ!よろしくな!」




そう言って教官は、ウインクをしながら歯を出してニッカと笑った。キラリと光る八重歯がまぶしい。




「早速であるが、この世界似来たならばおまえたちには、勇者としてふさわしい能力が備わっているはずだ。今から君たちのステータスを見せてもらう。一人ずつ手をそこに置いてくれ。まず誰から行く?」




「あたしがいくわ!これこそ異世界転移の最初の醍醐味よね!」




そう言って堂野前が水晶に近づく。おまえもうオタクなの隠さなくなったな。




堂野前の手が水晶に触れると、水晶が光り空中にステータスが映し出された。




名前:堂野前


種族:人間


職業:剣聖


スキル


女神の加護


 ・異言語理解 


 ・身体能力大幅上昇


剣術9


徒手空拳3


火属性魔法5




なにこれすっごく強そう。


「みてみて!あたし剣聖だって!」




堂野前はうれしそうに福井と紫月に近づきながらぴょんぴょんと跳ねている。


実際堂野前は剣道部の主将だし、このスキルというのは結構自分が過去にやっていたことを参考にしているのかもしれない。




「ほーう、さすが勇者だな!普通の人はスキルは多くて3つなのにもかかわらず、4つ持っているとは!さらにスキルのレベルも高い。」




「スキルのレベルはどれくらいまであるのですか?」


と紫月が聞く。




「最高レベルは10だ。レベルが7を超えるためには、血反吐を吐くような努力と長い年月が必要になってくる。普通の人のスキルの平均は2だ。練習をして3になるといったところだな。」




なるほどだとしたらそのスキルレベルの高さこそが勇者補正というわけか。






「次は僕がやるよ。」


と福井が言う。言葉では冷静そうにしていながらも顔が紅潮しており足取りもまるでスキップしているように見える。




名前:福井


種族:人間


職業:勇者


スキル


 女神の加護A


  ・異言語理解


  ・身体能力大幅増加


  ・魔力大幅増加


剣術7


徒手空拳6


火属性魔法7


水属性魔法7


風属性魔法7


土属性7


光属性7






「な、なんだこれは……」




教官は絶句している。それもそうだろう。この世界に来たばかりの自分たちにもわかる。これは異常だ。それに女神の加護も堂野前とは違う。なんかAついてるし……これは職業が勇者としての特別扱いなのだろうか。




「これが勇者かおそろしいな。まぁいつまでもびっくりしている訳にもいくまい。次に行こう。さて残り2人だが……どうする?どっちから行く?」




「次は私がいくわ」




「おう!たのしみだな!」




名前:紫月


種族:人間


職業:闇魔導女王


スキル


女神の加護


 ・異言語理解


 ・魔力大幅増加


徒手空拳5


杖術5


闇属性魔法10


愛ゆえに10




なにか恐ろしいものが見えましたが気のせいでしょう。


もうほら福井とかちょっと目背けてるし。あの堂野前だって触れたくないのかなにも言わないし。よし、何も見なかったことにしよう。さてつぎはおれのばんだなーどんなすきるあるかなー






「おお!おまえもすごいな!やはり異世界人はつよいな!ところでこの“愛ゆえに”っつうスキルは何だ?見たことがないぞ?」




きょおおおおかあああああん!触れてはだめだ!戻ってこれなくなるぞ!(戒め)




「それは私がたっくんを愛しているからだと思います。」




「ほう。勇者のことを?」




「はい。たっくんとは今まで幼なじみでしたが今回の件を機に、関係を進めたいと思っています。もちろん今までも関係を進めるための行動をとってきました。たっくんに群がる虫を追い払ったり、お昼のお弁当を作ってあげたり、たっくんの部屋の中にある巨乳もののエ○本を幼なじみスレンダーものに交換したり、たっくんがお風呂に入っているところに一緒に入って行ったりもしましたが、残念ながらたっくんの態度は変わることはありませんでした。そもそもたっくんに群がる虫が多すぎるんです。たしかにたっくんが魅力的で他の男などたっくんを知ってしまえばすべてがジャガイモに見えてしまうのはわかるのですがそれでも多過ぎるのです。もう少し自重という言葉を覚えるべきだと思います。あなた方はまだたっくんと出会ってから少ししか立ってないでしょう。私はもう生まれてこの方ずっと一緒にいるのですよ。あなた方よりもずっとたっくんのことを知っています。食べ物の好き嫌いに女の子の好みに今まで見てきたアニメ、身長や体重にいたるまで。というかもうあたしとたっくんは婚約しているんですよ。遊園地に二人とデートした後にレストランで食事を食べた後に私の目の前に指輪を出して『君のすべてがほしい』とプロポーズされました。えぇ?私ですか?もちろんよろしくお願いしますと言いましたよ。そのときのたっくんのかっこよさといったらもうキャー!// そしてその後私たちはホテルにいってお互いの初めてを捧げ合いました//そのときのたっくんはとてもかわいくて//プロポーズされた時とのギャップがすごすぎてもうずっと見ていたかったです//そしてその後は子供の名前を一緒に考えたり、老後の話をしたりしました//それから……「わかった!もうわかったから!」




「教官、まだ始まったばかりなのですけど」




「おまえが勇者のことが好きなのはよくわかったから!このままだと日が暮れちゃうから!」




問題はそこではない。今まで紫月の妄想(?)が垂れ流されるにつれて堂野前の顔がだんだんと真っ赤になっているのである。しかもどういう原理かわからないが、堂野前の体の周りの空気が夏の猛暑日のようにゆらゆらと動いているのが見て取れる。




「達也……そんなことしてたの?!」




「し、してない!僕は何もしてない!僕は無実だ!」


まるで犯人が裁判で無実を叫ぶような感じになってしまったがここでさらに火に油が注がれる。




「たっくんやったよね。」




「僕がやりました。」




自白しちゃった。まあ自白したくもなるオーラだったな。


それから堂野前が福井に詰め寄っている横で、紫月が追加で妄想を垂れ流し、またそのことで福井に詰め寄るという地獄のループがおきている。


教官は俺に目配せをしてくる。あれを止めろと言いたいのだろう。いやだよ。なにがいやであの中に行かなければならないのだ。




でもさすがにこれ以上は話も進まないし、さっきから福井にもチラチラ助けを求めるように見られているし、俺も自分のステータスを見たいので、渋々止めることにした。




「あー、あのうもうそのあたりでやめてあげてもいいんじゃないでしょうかね」




「なによ!部外者は引っ込んでなさいよ!」




「いやあこれ以上やられると話進まないので、ねぇ、別にあなたも紫月言うことを真に受けている訳でもないでしょう?」




「ええ、まあそうね。たっくんがそんなことするはずないもの」




「えっ じゃあなぜこんなことを?」




「たっくんの困っている姿を見るのが楽しいからよ」




ああ~そういう、ほーん


福井ご愁傷様だ。君の周りの女の子はやべぇのしかいないようだ。




「ほら、あんたのステータスも早くみせなさいよ!」




いわれなくても、そう思ったが口には出さないでおこう。




「へいへい」




俺は水晶の上に手を置く




名前:長谷


種族:人間


職業:剣士


スキル


女神の加護


 ・異言語理解


剣術3


魔法使いの素質






「……」




「……」




「……」




「……」




「そうだ!そうだな!これが普通だ!いやー安心したなぁ!」




教官やめてくれその言葉は今の俺に刺さる。




「……なんというか……その……悪かったわね」




同情するならスキルをよこせ。




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