第1話 勇者召喚

 目が覚めるとそこは、豪奢な作りの大広間だった。床は一面大理石でできており、その大理石の広間を二分するように道路一車線分くらいの広さの赤い絨毯がまっすぐ奥に伸びている。伸びた先の、階段を上った先には高そうな椅子に背筋をピシリと伸ばして座っている王様っぽい人がいた。ただ太っている訳ではなく、鍛え上げられた体で白髪混じりの赤い髪をオールバックにしているなんともイケオジな人だった。王の横にはこちらも赤を基調としたフルプレートメイルをきてでかいハルバードを持った近衛兵がこちらを見ている。そして宰相っぽい好々爺が階段の下に控えていた。しかしそれよりも気になるのが自分たちの足下には炭?かなんかで床にでかでかと魔方陣が書いてあり、その周りには古い壺や、地球では見たこともないような動物の頭蓋骨、禍々しいオーラを放つ漆黒のシミター等々なかなか触ったらまずそうなものがところ狭しと並んでいる。




っていま頭蓋骨動いたよ! カタカタって! ちょっとだれも見てなかったの?! 




これはまさに異世界転移というやつか! どうしようこれは帰れるのか?自分にだって友達はいないが家族はいる。それにたまったアニメも見れていないし、コミケにもいかねばならないというのに! それにあれか! 召喚されたということは戦わされるということか?! いや俺は人を殺したくないし殺されたくないぞ! いや待て落ち着け、急いては事をし損じるというやつだ、使い方あってるかな?ここはまず現状把握として自分のステータスを見るべきだな。




「ステータ「うぅーん……ここは、どこ……? ってマジでここどこ?!」うるさ……」




うるさいのが目を覚ましたようだ。そのままずっと眠ってくれてたらよかったのに。




「これって……異世界転移ってやつじゃないの?!」




しってるんかい! おまえ実は隠れオタクか?! そうだろ!そうなんだろ!




他の二人も目を覚ましたようだ。




そこで召喚された全員が目を覚ましたところで王様っぽい人が宰相っぽい人を手招きして、耳打ちをした。それを聞き終わった宰相っぽい人はこちらを向いて言った。




「うぉっほん!この方はこの国の王、アルマロイド・E・クルサイトである!君たちを急に呼び出したこと悪く思うと王は仰せられている!」




そして王はまた宰相に耳打ちをして、




「王は君たちの力が必要だとおっしゃっている!今現在、この国は未曾有の危機に瀕している!隣の帝国が最近、王国の国境付近に兵を集めていて、戦線布告はまだ出されていないがいまにも戦争が始まろうとしている。帝国の戦争のやり方は極悪非道である。男は皆殺しにして、女子供は一通り楽しんだ後に、奴隷として国に持ち帰って一生働かせている。きみたちの良心に問いかけたい。ぜひ一緒に国を守ってはくれないか。と仰せられている!」






王様しゃべらないんかい!






「あのう・・王様しゃべらないんですか?」




「王はとても偉大な方である!神にこの国の統治者として選ばれているのである!ゆえに!貴殿らはお姿が見えているだけでもありがたいと思うのである!」




さいであるか。




「しかし少し変であるな文書によれば勇者は3人のはずなのであるが……」




そう言って宰相はこちらを少し哀れな目で見てくる。


そんなことを言われても俺は勝手に呼び出されたんだが? おん?




続けて宰相は言う




「まあでも、異世界から来た者は皆一様に希少なスキルや体質を持つ者ばかり、気を落とすことはありませぬよ」


といって笑いかけてくれた。


いや、フォローはありがたいけど戦わないよ俺は。




そこで自分はちょっと遠慮気味に手を上げた。




「む、どうした?何か質問があるのであるか?」




「はい、あのう自分人殺しというか……戦いとかそのようなことは苦手で……しかも自分まきこまれたみたいですし、帰らせていただくことって……」




それを聞いた王様と宰相は申し訳なさそうな顔をして、


「申し訳ない、君たちを帰すことはできないのである。」




「はぁ?!あたしたち帰れないの?!」




堂野前がかみつく




「本当に申し訳ないのである。しかし我々も手段を選んでいる余裕はなかったのである。その代わり城にいる間は最上級の客人としてもてなすのである。それにちゃんと訓練をつけるのである。安心してほしいのである。」




すると今まで黙っていた紫月が、


「でも、私たちは全く戦いの方法などは知りませんよ、一ヶ月でなんとかなるんですか?」




「それがなんとかなってしまうのが勇者なのである。異界から召喚した勇者は非常にまれなスキルや知識があるのである。ゆえに対外的には勇者が死んだことは一度としてない。」




なるほど闇が深い話だ。もし勇者がしんだとなれば、軍の士気および国民の士気は下がってしまうかもしれないから、表向きは死んでいないことにして裏で死んだことは隠し等してきたのだろう。




すると何を狂ったか堂野前が、


「やるわ、罪のない人が殺されるのを見ているだけなんてできない!自分にそんな人を救える力があるのならなおさらよ!どちらにしたって帰れないならやるしかないわ!達也もやるでしょ?」




「えぇ…… ぼ、ぼくは……」




ちらちらと福井が俺をみてくる。こっち見るなって。




「やるわよね」




「やります」




意思よっわ!もうちょっと頑張れよ。そのままじゃこの先も尻に敷かれたままだぞ福井少年。




「麗葉はどうするのかしら?」




「たっくんがやるならやる」




「おお!ありがたいのである!これで我々は救われるのである!」




こうして俺たちは帝国と戦うことが決まってしまった。


ただひたすらに死なないことを祈るばかりだ。




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