第六十六節 非凡な人とは、どんな人か
「
人々が、
「……」
秀吉の問いに、
これに対し、秀吉自身の答えは単純明快であった。
「『銭[お金]の力』で成り上がったからじゃ!」
と。
◇
秀吉の話は続く。
「一見すると……
銭[お金]で成功した者は、人々から
ただし!
銭で成功した者に付いて行くのは、同じく目先の銭が欲しい強欲な者だけよ」
「……」
「しかも。
表面では
腹の底では、こう思っているのじゃ。
『偶然うまくいっただけでは?
単に、運が良かっただけではないか。
どうせ汚い方法を使ったんだろう?
一度、偶然うまくいっただけで人生の成功者面されても痛々しいだけよ。
いずれ失敗するに決まっている』
とな」
「要するに。
銭[お金]で成功すれば『有名』にはなれるが、人々から好かれるわけではないと?」
「うむ」
「し、しかし!
秀吉殿。
人々から好かれない理由は、ほとんどの者が銭[お金]を稼ぐ実力が『ない』からでは?」
「……」
「ほとんどの者が貧乏人に甘んじているのは、
それが『辛い』から成功した者を
「一つ。
はっきりしている事実がある」
「事実?」
「大いなる成功を収めながら、同時に人々から大いに好かれる者も存在しているではないか」
「……」
「同じ成功を収めながら、これほどまでに『差』が出るのはなぜじゃ?」
「銭[お金]の力で成功したかどうかだと?」
「そういうことよ。
人々は、ちゃんと分かっているのじゃ。
銭を稼ぐ実力を持つ者と……
真に
「では……
非凡な人とは、どんな人なのですか?」
「常に『相手の立場』になって考えられる人こそが
人々から好かれるか、好かれないかの分かれ道はそこよ。
うぬら
「……」
「勘違いするなよ。
常に相手の立場になって考えるのは、『弱さ』じゃない。
むしろ、
「……」
「相手の立場になって考えられれば、相手の動きを正確に読むことができる。
常に相手よりも先手を打ち、ときに一流の策略で相手を圧倒することもできるのじゃ。
逆に。
相手の立場になって考えられなければ、相手の動きを読むことができない。
「……」
◇
秀吉の話は、さらに続く。
「初めて信長様とお会いした日。
信長様は、ちょうどご自身の
いつになく上機嫌でおられた。
『親の教育が素晴らしいのもあったのだろうが……
わしは、常に相手の立場になって考えられる
これから手元に置いて大切に育てるつもりじゃ。
一つ心配があるとすれば、勝手に連れて帰ったことを
ははは!』
とな」
「続けて、こう申された。
『そちには優れた才能がある。
この娘と同じく、常に相手の立場になって考えられる才能がな。
わしの家臣となってその実力を存分に振るって欲しいが……
ただ、商人の出身であることは伏せた方が良いだろう。
銭[お金]の力で成功したと誤解され、人々から嫌われるかもしれん。
そうじゃ!
百姓の出身であれば、誰も銭の力で成功したなどとは思うまい?』
とな」
「何と!?
『わざと』、百姓の出身と偽っておられるので?」
秀吉は
「すべて。
うぬらの『せい』で、わしは、
「我らのせいとは?
どういうことです?」
「『常に相手の立場になって考えること』
これは
モノをよく知る
それが……
あろうことに!
相手が欲しがっていれば、相手にとって良くないモノでも平然と売って銭[お金]を儲けようとする
それどころか相手の無知に付け込み、巧妙に
加えて。
うぬらのように、わざわざ
常に買う側の立場になって考え、正直に
商いをする者が皆、銭のことしか頭にない屑ばかりだと思われ、職人や百姓よりも下に見られているのじゃ!」
「我ら
自らの手で自らの地位を
「当たり前じゃ!
うぬらには、その自覚すらないのか!
うぬらの薄汚いやり方のせいで、わしは……
これからもずっと
「……」
「うぬのような
「……」
「
うぬには利用する価値もないわ。
加えて。
凡人のくせに、
そのせいで我が
愛娘を抹殺した上京の商人どもと、愛娘を守れなかった武田を徹底的に滅ぼすことをな」
「……」
「『東』などは徳川殿や武田殿に任せ、『西』へと兵を進めて
うぬらのせいで武田が
この無能な役立たずどもがっ!」
「そ、それは……」
「ところで。
うぬは『同族嫌悪』という言葉を知っているか?」
「同族嫌悪?
それは何です?」
「もういい。
もう死ね」
「お、お待ちを!」
「こやつらを一人残らず撃ち殺せ!」
鉄砲の発射音が次々と
◇
しばらく後のこと。
秀吉に内通していた
「秀吉殿。
申し訳ござらん。
「で、ござるか」
「
筆頭の山城屋も、黒幕の丹波屋も、それがしが必ず探し出してご覧に入れましょう。
今後は、それがしが銭[お金]の力で秀吉殿のさらなる成り上がりに全面的に協力いたしますぞ!」
「それは頼もしい」
「約束通り……
皆の命は助けて頂けましょうな?」
「そうしたいところだが……
一つ、問い
「問い
「おぬしは……
抹殺した
「それは何度も申し上げていることでござる。
黒幕は、
「うむ、うむ。
それは分かっておる。
ただ、
どうしても気になることがござってな。
おぬしは……
これから抹殺しようとする女子が、どんな娘なのか全く気にならなかったのだろうか?」
「そ、それは」
「要するに、おぬしは……
その娘が
「えっ!?」
「
おぬしも
「
それは、どういう意味で?」
「言葉通りの意味でござるよ。
残念ながら……
生かしておくだけの価値がない」
「えっ!?」
「一族の者たちの命は助けてやろう。
ただ……
おぬしは、今ここで死ね。
すまんな。
安心しろ、先に地獄へ行った
「なっ!?」
秀吉の最後の言葉よりも早く、後ろから突き出された刀が
「こ、これは……
一体?」
事態を飲み込めないまま
「次は
包囲が未完成であるとの『嘘』を信じるとは、あやつも
【次節予告 第六十七節 天下人を激怒させた書き込み】
何十年か後。
天下人となった豊臣秀吉は、とある『書き込み』を見付け……
周囲が凍り付くほどの怒りを顕にします。
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