これまでの大罪人の娘 第肆章 武器商人の都、京都炎上の章
『相続』
これは、親から子へ権力や富を受け継がせる制度のことを言う。
その子が、権力や富を受け継ぐ資格を有しているかどうかは関係ない。
この事実は……
◇
1573年、春。
5万人を超える大軍が織田信長の居城である
これは補給などの後方支援を行う人間を入れた数ではない。
純粋な戦闘要員として、敵の人間を
城下町を秩序正しく整然と
岐阜城の
「わしが、室町幕府に代わる
まるで意味がない。
そんな中途半端なやり方で、乱れ切った世を変えることなどできようか!
もっと『徹底的』にやるべきじゃ」
「どう徹底的にやるのです?」
「実力ある者が、実力を磨く努力を怠らない者が
「世を作り変えると!?」
「考えてもみよ。
どうなったか?
確かに
ただし!
相手から奪った領地や財産のほとんどは……
大名一族とその家臣、兵糧や武器弾薬を扱う商人ばかりが得ている。
なぜ、こうなったと思う?」
「それは……
『
「
実力もなく、実力を磨く努力すらしない愚か者が、ただ
「……」
「奴らに権力や富を持つ『資格』があると思うか?」
ここで
「信長様。
一つ、教えて頂きたく存じます」
「申してみよ」
「今、相続によって権力や富を独占している者たちはどうするのですか?」
◇
「京の都を、焼き討ちにせよ」
居並ぶ者たちに大きな衝撃を与えた。
「な、何と!?
京の都を灰に!?」
「驚く必要がどこにある?
実力ある者が、実力を磨く努力を怠らない者が
今、権力や富を独占している者どもから力ずくで奪い取るしかないではないか」
「そ、そうは申しましても」
「まさか。
そちたちは……
権力や富が、恵みの雨のように天から降ってくるとでも思っているのか?
それとも。
誰かが贈り物のように与えてくれるとでも?
そんな『甘い』考えだから、権力者や富んだ者どもに
信長は
「そちたちは、どこまで他人に利用されれば気が済むのか?
いい加減に目を覚ませ!
権力が欲しいのなら、
富が欲しいのなら、富んだ者から力ずくで奪い取って我が物とせよ!
それだけの『覚悟』もないのなら、家に帰って母の乳でも飲んでいろ!」
さらに
「このことをよく覚えておけ。
今、権力や富を独占している奴らのことよ。
なぜか分かるか?
実力ある者から、実力を磨く努力を怠らない者から権力や富を
「確かに……
盗人は、奴らの方じゃ!」
「実力ある者が、権力や富を持つ資格のない奴から力ずくで奪い取ることの何が悪い?
むしろ『正しい』ことではないか!」
「そうじゃ、その通り!
権力や富を持つに
京の都を焼き討ちにすることへの『罪悪感』が兵士たちから薄らいでいくのを感じ取った信長は……
長く続いた演説を終えて出発を決める。
「全軍、出撃!」
◇
演説が終わった後。
「
灰になさるおつもりですか?」
「千年も経っておらんがな。
せいぜい800年ほどじゃ」
「そうだとしても。
京の都を焼き討ちにするなど……
あの
一方で明智光秀と
「猿[秀吉のこと]」
「はっ」
「そちの意見を申せ」
「では、恐れながら」
「うむ。
さっさと申せ」
「それがしは、こう考えております。
これほど長い年月の間……
京の都が
「どうして、だと?」
「はい」
「そこに
「果たして、それだけでしょうか?」
「他に何かあると?」
「『銭[お金]の力』だと思います」
「銭の力?」
「柴田様。
誰もが知っていることですぞ。
京の都が、何で一番儲けているかを」
「何で儲けているのじゃ?」
「
京の都だけでも土倉を
「『
そんなにもいるのか」
「いかにも。
あの
随分と高い利息で民に銭[お金]を貸し、利息を払えなくなれば武装した者に踏み込ませて家の中の物をことごとく奪い、足りなければ家を取り上げ、妻や子供までも奪う暴挙に出るのだとか。
奪い取られた妻や子供は、男の欲を満たす道具として売られる運命が待っています。
「し、しかし!
やり過ぎではないか?」
「柴田様。
高い利息で銭[お金]を貸す集団のことを、なぜ『土倉』と呼ぶかご存知でしょう?」
「担保としたモノを貯める目的で、奴らが築いた土色の
それがどうした?」
「そう、その通りです。
そして。
その
「だから、銭[お金]を貸すための担保としたモノであろう」
「どんなモノでしょうか?」
「どんなモノ?
開けてみなければ分からんわ」
「柴田様。
今は
戦の世で大量に流れるモノといえば、まず兵糧や武器弾薬……
違いますかな?」
「そうだとして、それがどうした?」
「要するに。
京の都にある倉の中には、莫大な兵糧や武器弾薬があるということになります」
「それで?」
「その
京の都の商人が、勝って欲しいと思う側に流したらどうなりますか?」
「何っ!?」
「兵糧や武器弾薬を得られた側は圧倒的な優位に立てます。
当然、
あるいは……
争っている両者に軍資金の銭[お金]を貸し、
まさに『戦いの黒幕』の誕生ですな」
「……」
「
必要に応じて、
これが銭[お金]の力の正体なのです。
「ちょっと待て。
勝手に流して良いものではあるまい?」
「『だから』、高い利息で銭[お金]を貸しているのです」
「だから高い利息で?
おぬしの申している意味が分からん」
「高い利息にすれば、利息を払うだけで精一杯となるではありませんか。
担保の元となっている『
「それは、つまり。
最初から元金が返済されないのを分かった上で、銭を貸しているということか?」
「そういうことです。
万が一、元金が返済された場合は……
買って補えばいいだけ。
担保のモノすべてを眠らせておくよりもずっと効率的では?」
「……」
「
1つ目は、相手に高い利息を払わせ続け、
2つ目は、兵糧や武器弾薬を使って戦いの黒幕となり、さらなる荒稼ぎをすること。
しかも。
儲けの一部を裏で幕府に収めているのだから……
『
「何っ!?
あの室町幕府が、儲けの一部を裏で受け取っていると?」
「まさか。
ご存知なかったので?
権力者も、富んだ者も、腐り果てて
どちらも徹底的に焼き尽くして灰にすれば、この
「……」
「いずれにしても。
我らのため、民のため、世のためになることです」
「
おぬしは、無関係な人を殺すことに何の
「無関係な人とは?」
「京の都に住む人々の中で……
誰が
「はっきり申しますが。
区別など、できるわけがないでしょう。
どうせ土倉で富を築き上げた
「無関係な人を巻き込んでも皆殺しにせよと申すのか?」
「ならば……
民を
加えて。
「……」
さすがの
◇
鶴の一声が掛かった。
「猿[秀吉のこと]、もう良い。
止めよ」
「はっ」
「わしも猿と同じ思いではあったが……
『半分』だけと致そう」
「……」
「どうじゃ?
これで納得してくれないか?」
「承知致しました」
◇
1573年4月2日。
信長は京の都の
「嵯峨だけ『限定』して焼き討ちにするとは……
さすがの信長も、京の都を焼き討ちにする度胸はないらしい」
こう
そして運命の4月3日夜を迎える。
鼠一匹逃げ出せないほどに上京を厳重に包囲した5万人の軍勢に対して、信長は一つの命令を下す。
「権力や富を持つ資格のない上京の
実力ある者から、実力を磨く努力を怠らない者から権力や富を
明日に掛けて『略奪』を許すゆえ、奴らから遠慮なく奪い取れ!」
と。
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