魔王との邂逅④

このままではナナが暴走したまま帰ってこなくなりそうだと察したアイマーは、そろそろ思考に方向性を与えてやろうと、親切に質問する。


『そういえば、お主どうしてここにおるのだ?』


『え? あーうん、魔王詐欺の人にしては的を得たイイ質問だね』


『詐欺じゃないて!』


親切とは往々にして裏切られるものである。


『うーん、そっか。

詐欺じゃないんだね、よかったあ。

でもね、えっと、私がここにいる理由、さっき考えてたんだけど、わからないの』


ナナはあっさり詐欺疑惑を取り下げ、アイマーの質問に答え始めた。

だが自分がなぜここにいるのか、という質問には答えを持っていない。

なにしろナナ自身が一番それを知りたいのだ。


『では質問を変えよう。家族はどこにいるのだ?』


『え? 家族――お兄ちゃんがいるんだけど……日本に。地球の。

詐欺…じゃない魔王の人は、日本に帰る方法わかる?』


まだちょっぴり残っていた詐欺疑惑の名残も取り払って、ナナはアイマーに真剣に相談し始めた。

アイマーの真摯な態度に、ナナはようやく彼のことを信用が置ける人物として捉えたのだ。

まあ実のところ最初から信じていたのだが、騙されやすい自分を守る為に一応頑張っていたのだ。


『ようやく我が魔王だと受け入れおったか。

我とてこれでも1250年ぐらいは生きているが、そのような国も地名も聞いたことはない。

ここは惑星ピラステアの魔族領。

その首都に鎮座する魔王城の最上階、謁見の間だ。

しかし…これだけ話を聞いてもらえんとむしろ気持ちい――げふんげふん。

うむ、嫌いではない』


うっかり自分の性癖を暴露しそうになって言い直したアイマー。

だが言いなおそうとしてそのまま肯定してしまっている。

そう、嫌いではない。アイマーはドMなのだ。


『そんな……本当に地球じゃないなんて……やっぱり魔王魔王詐欺の可能性は』


『だから正真正銘の魔王代理じゃて』


『――魔王が言うにはないらしい。

だとすると早く帰らないと! お兄ちゃんに心配かけちゃう!

でもここ異世界なんだよね?

どうやって帰れば……どうしよう……』


その後もアイマーが話を聞いてみると、どうやらナナは本当に、地球と呼ばれる星の日本という国にいたようだ。

少なくとも本人はそう信じている。

スキル【伝心】で感情も伝わるため、アイマーはこれを信じることとした。


しかし、アイマーが思うに、ナナの置かれた状況はなかなか前途多難だ。

戦う力も無いようだし、自力で魔族領を移動できるかどうかも怪しい。


身体ごと異世界へ転移する方法はアイマーでも見当がつかない上に、そもそも今のナナにどうにかできる規模の話でもない。

しばらくこの世界で暮らすことになるだろう。

むしろ帰れない可能性の方が高い。


少なくともナナが生き残るためには、この世界での拠点を作る必要がある。

まずは街に行くのが良いだろう。

アイマーはそのようにナナに提案し、共に魔王城を下ることにした。



   ◇

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