2 その支部は荒れ地にあった

「こりゃまた随分と辺鄙へんぴな道だなぁ。」

「帝都からみれば、そりゃそうだろうな。」


馬車の運転手と話をしながら、自分の記憶を辿る。ところが、そこが荒れているという印象は一つも思い浮かばなかった。そこに住んでいたから、あまり気にも止めていなかったことも原因の一つであるのだろうか。


「着いたど。」

「おお、結構荒れているな…。」


馬タクシーに揺られながら三十分。そこは、やはり荒れ地だった。


「けんども、本当にこんなところにお宅らのギルドがあんのけぇ?」

「ええ……多分。」


正直、自分の記憶に自信がない。


「とりあえず、ここで下ろしていただいて大丈夫です。」

「そうけぇ? お客さんが良いなら俺も何も言わねぇけんどもよ。」


荒れ地の真ん中で下ろしてもらい、そこからは徒歩で目指すことにした。


「…ユンクレア…ユンクレア……お、これがそうかな?」


およそ十年前の案内地図に書かれている、ウェルカム看板。この、穴だらけの板がそうだろう。………随分と写真と違うけど。


「何にしても、ここは何故こんなに荒れてしまったのだろうか。……まあ、とりあえずは先にギルドを見つけよう。」



歩くこと数十分。

そこは、ボロボロの村だった。


「ここって、本当にあのユーグ村か?」


正直、自分の目を疑った。かつて俺が務めていた頃のユーグ村は、村人たちに活気があり、畑にはたくさんの作物が実り、人々は談笑し、空気のきれいな自然一杯の………ところだった。この十年で、一体何があったのだろうか。


「……早くギルドを見つけよう。…………ん?」


と、村の奥に一際ボロい建物を見つける。…………まさか、あれって。


「『冒険者ギルド ユンクレア支部』…っておいおい。こんなにボロボロだったっけか?」


とにかく、中に入ろう。



これはまたひどい。中は、ホコリだらけだった。そして、中には俯く二人の職員らしき人々がいた。そして、何かをぼやいている。


「……………支部長、どうして夜逃げなんてしたんですか。」

「……………ううっ。」


夜逃げしたのに、非常にショックを受けているらしい。俺が入ってきたのにも気づいていないからな。これじゃ、商売にもなるまい。


「…こうなったら、僕も夜逃げしようかな。」

「スバルさん! なんてことを言うんですか! 私たちがいなくなったら、それこそこの支部はおしまいなんです!」

「…で、でも。ミヨさん、僕たち二人だけの支部なんですよ?」

「それでも、精一杯頑張るんです。私たちまでが落ち込んでいたら、来る冒険者も来ませんよ。……さあ、とにかく業務にもどりましょう!」


どうやら、ちょっとは骨のある奴もいるみたいだ。これなら、まだ間に合うかもしれない。かつての、俺がいた頃のユンクレア支部に。


「…やれやれ、俺はとんでもないところに派遣されたようだな。」

「!?………どなたですか?」

「おっと、そんなに警戒しないでくれ。」


近くにあるソファに腰かける。…大分破れているが。


「俺はフーガ。冒険者ギルド本部の人間だ。」

「本部!?? ということは……。」

「まさか、とうとうお取り潰しになるなんてっ…………」


二人とも目に涙を浮かべる。


「いやいや、違うよ。俺はここを立て直しに来たのさ。」

「立て…直し?」

「ああ。俺はここの新しい支部長だぜ?」

「「!!??」」


二人とも驚いている。何がなんだか分からないといった顔をしている。まあ、無理もないだろう。こんなに急にいろいろなことがおきたら。


「まあそれはさて置き。俺は、ここを立て直しに来た。だが、お前ら二人にそのやる気がなければ、俺はこの仕事をおりようと思っていたんだ。どんな理由があるにせよ、やる気のない支部を立て直したところで、何の利益もないからな。」

「そ、そんな、やる気くらいならありますよっ!!」

「そうか。それで、そこのお前は?」

「……ぼ、僕だって!」

「ふっ…そうか。」


立ち上がり、二人の方を向く。


「ならば、まずは俺にその覚悟を示してもらわなきゃな。……うん、そうだな。あれをやってもらうか。」

「な、なんですか?」


二人とも身構える。……ふっ、良い覚悟だ。


「お前たちに命じるのは……掃除だ。」

「「…………はい?」」


二人とも、呆気にとられた顔をしている。まあ、覚悟ができてるかぁなんて言ったから、もっと危険な任務を押し付けられると思って、身構えていたのだろう。


「こんなに汚れていて、冒険者が来ると思うのか? さあ、早くやるぞ。」

「「は、はい!!」」


こうして、まずは支部の掃除から、立て直しの第一歩を踏むことになった。

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