第一章 “最弱”のギルド 編

1 最弱のギルド

「ミヨさーん、こっちもお願いします!」

「はいはい、まだ手が回らないからもう少しだけ待ってて!」

「それ何回目ですか!?とにかく早くしてくださいね。」


今日もギルドは騒がしい。俺が働き始めた当初は、こんなにうるさくなかったのだが。ここ、ユンクレアの冒険者ギルドは、受付嬢のミヨ、鑑定士のスバル、そして支部長の俺フーガの三人だけで構成されている。これは、歴代存在してきたギルド支部の中で、最も少ない数だ。まあそれも仕方がないだろう。なんてったって、ここは“陸の孤島”と呼ばれる地域エリアだからだ。ギルドの建物は、農村の民家を改築したもの(改築と言えるのか?)で、見た目も中身もボロボロだ。俺が来たばかりの頃、ギルド本部から送られてくる予算は、毎月50000マニーだった。この国のギルドの平均予算額が月5000000マニーだから、およそ100分の1しかないということになる。ちなみに、冒険者ギルドに所属する最低ランクのF冒険者でも、月に30000マニーは稼ぐ。Aランク冒険者がこなす1つの依頼額の平均が60000マニー。比較すると、この支部の予算がとんでもなく削られていることが分かると思う。だから、高額のバックが期待できる高ランク依頼も、なかなか出来ないって訳だ。どんどん負のスパイラルを招いてしまっているこの状況を打破しなければ、この支部は取り潰しされ、他支部へと経営合併されることとなる。この問題を解決するために、俺は本部からこのユンクレアへと赴任した。



「え? コスト削減のために、支部の統廃合をする?」

「ああ。そうしないと、が合わなくてな。このご時世も相まって、不況は加速するばかりだ。いくら公営とは言え、冒険者ギルドもある意味企業だからな。やむを得んのだ。」


冒険者ギルドの総本部は、ガウル帝国にある。ちなみに、ガウル帝国は、俺らの住むウィル大陸の中で一番巨大な国だ。俺は、本部で経理部長を務めていた。話の相手は副本部長のコンキス。ヤツは所謂いわゆるカリスマで、これまで冒険者として、大陸に数々の貢献をしてきた男だ。国内外からの信頼は厚く、その手腕に間違いはないだろうと、どの国でも言われている。そんなヤツは俺の同級生で、かつて共に帝国騎士学校でその精神を学んだ。俺は奴と気が合い、卒業後も、冒険者として同じ道を歩んできた。そんな俺とヤツの大きな違いは、性格だ。コンキスは合理的な奴だが、俺は根性論の野郎だ。(経理部長なのにな。)まあ、二人それぞれやり方は違うが、共に偉いところへ上ってきた。お互いのやり方に間違いはなかったのだろう。だが、今回のことに関しては、申し訳ないがコンキスの言うことに賛成は出来ない。


「だが、たかが何個かの支部を潰したところで、何の利益も無いのでは?」

「…計算上はそうかもしれんが、そうしないと他の支部の面目が立たないのだ。」


採算が合わない分のカバーをするのは、他のたくさんの人々が利用する大都市のギルドだ。うまいやり方で、彼らはたくさん稼ぐ。今、全国冒険者協会が管理するギルド支部のなかで稼ぎがあるのは、両手の指で数えられる分しかない。そんな支部にとって、自分達の稼ぎを他の採算の合わない支部に分配するのは、なんとなく心地良いものではないだろうと、コンキスは言うのだ。


「それはそうかもしれんが、場所によってはそこに支部がないと困る地域だってあるんだぞ?」

「そうかもしれんが、少し無理をしてでも遠くのギルドに来てもらう他ないだろう。それに、大都市にある支部の支部長から、とっとと潰してくれと手紙さえ来てる始末なんだ。」

「……うーん。」

「まあ、そんなわけだから、フーガにはある支部に荷物整理のために臨時支部長として行ってほしい。そこの前支部長が夜逃げしてしまってな。どうやら、管理資金が払えなくなってしまって、他の面子に顔向け出来なくなって逃げたらしいのだ。だから、ここは経理の経験が豊富なフーガに行ってほしい。色々とやることがあるからな。………行ってくれるな?」

「…分かった。それで、そのお取り潰しの支部ってどこなんだ?」

「確か、ここから東の方角にある荒れ地の真ん中にある。最近は支部のメンバーも固定されており、本部にはそこに行ったことのある者が一人もおらん。連絡や資金受け渡しも、今は全て遠隔リモートでやってるからな。」

「名前は?」

「確か……ユンクレアとか言ったかな?」

「ユンクレア……」


取り潰しの危機にあっているのは、かつて俺が務めていた支部だった。


「……コンキス。」

「なんだ?」

「俺に、立て直しをさせてくれないか。」

「なに? 他のベテランにも出来なかったんだぞ? しかも、そのうちの一人は夜逃げしている。」

「ユンクレアは、前に俺が務めていた支部なんだ。最も、当時はたくさんの人で賑わっていたはずだが…」


俺の記憶には、お取り潰しになるような風景など思い浮かばない。でも、今はその危機にある。俺は、ユンクレアでたくさんの仲間たちに世話になった。その恩を返すという意味でも、絶対に潰したくない。一つの支部だけ優遇するなと言われるかもしれないが、経理部長として、俺だって他の支部に手を回したい。だけど、まずはユンクレアを建て直ししてからだ。ここで実績をつめば、きっとコンキスも認めてくれるだろう。


「本当に、やるのだな。」

「勿論! 何のために本部にいると思っているんだ?」

「…分かった。お前を、立て直し支部長として派遣しよう。」

「!」

「その代わり、成果を見せてくれよ。」

「おう、勿論だとも!」


こうして俺は、“陸の孤島”と言われるユンクレアに派遣されることになった。

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