終末

@arup

第1話

一時の気の迷いだった。そうとしか考えられない。あの人が自殺なんてするわけがない。


午前1時半、この時間にはもう酔っぱらいしかいない。駅には帰るところをなくした人で溢れている。楽しいのか辛いのかわからないような顔をあげる。チラと目をやるが目は合わせない。普段駅で通りかかる何か厳かな目をしている人たちもこんなにも無気力で自堕落になれるわけだ。それはある意味自由でもある。なんせ何をする必要もないんだから。誰に期待されることもない、それは自分さえも。この自堕落な自分を許せているということだ。僕はそうはいかなかった。


僕は大した意味のないこの生活に区切りをつけるとする。今日まで怠惰でいれなかった僕は今日、ここにいる誰も知らないほどの怠惰を抱くわけだ。誇らしい。恐れを感じないなんて言えるわけがない。昨日の夜は震えが止まらなかった。しかし今はもうそうでもない。僕はもう死んでいるからだ。


26年死ぬか生きるかを悩み、先月の25日をその日と決めた。3ヶ月ほどどこで死ぬか悩み先月僕は死んだ。実際は当日になって仕事が長引き、死ぬのはせめて安らかにとか言い訳をつけて帰ってきたわけだ。しかし僕はその日死ぬと決めたのだから僕はもう死んだ。


長い静寂を経て始発の電車が来るはずだ。駅のベンチはやけに冷たく感じた。夜が低く唸るような声をあげる。何だかそれが心地よい。かじかんだ指で缶コーヒーをすする。やっぱりうまいなあ…悔しくて涙がでる。「2番線電車が参ります。」無情にも静けさを切ってアナウンスが響く。…もう時間だから、、缶をゴミ箱にゆっくり入れるとホームの端に立った。空気がこんなに冷たいなんて、息が喉を通るのがわかる。脈は心臓を打ち鳴らす。電車が汽笛をならす。大丈夫、私は息をしている。私は立っている。私は生きていた。


ふと「一歩踏み出そうよ」と言った父のあの瞬きもせず、目を見開いた顔が浮かぶ。あっ、

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