迷惑ヒーロー

夜星ゆき

第1話 出会い

ただ、憧れていた。


キラキラした出会いに。

華の高校生活に。


でも、私にはそんな素敵なことはなくて。

こんなもんか、って諦めかけてたとき。

君が、現れたんだ。



「はぁ〜、今日も今日とて学校だぁ」

いつもと同じ時間、いつもと同じ通学路で、いつもと同じセリフを言う。

なんにも、変わらない。

「はぁ〜」

今日何度目かのため息を、そっと空気に混ぜる。

私が通っている八雲やぐも高校は、割と進学校なのもあって、授業の進度がとてつもなく早い。雨が降るのと同じくらいの頻度でテストがあって、休んでいる暇はないし、部活なんて、テニス部に所属してはいるけど、参加できた日のほうが少ない。

「高校生活、もっと楽しいと思ってたのになあ……」

もちろん、のんびり歩いている時間なんか到底ないので、足早に大きなクスノキの横を通り過ぎた。

正確には、通り過ぎようとした。

「つまんない顔してるね!」

声と一緒に、クスノキの上から、何かが降ってきた。

とっさに腕で顔をかばうけど、逆光で良く見えない。

な、なに!?

大きな塊は、私のスレスレのところを通っていく。

ドサッではなく、スタッという思ったより軽い衝撃音に、あれ?と思って、音の方向を見ると、そこにはうすい黄色のパーカーを着た男の子がいた。着地の衝撃で、フードが肩にストン、と落ちる。

とにかく、驚いた。

こんな小柄な子が、とか、なんて綺麗な顔なんだろう、とか、そんなことよりも、なによりも。

「つまん、ない……?」

つまらない。

私が高校1年生の夏休みを前にして得た結論は、これだった。

図星、だった。

「だいじょぶ〜?」

テテテっと近寄ってきて、のぞきこんできた彼の綺麗な金色の瞳に、心臓が跳ねる。

「だっ、いじょぶじゃ、ない!」

頬に熱が上るのを感じながら、よろよろと後ずさる。

「おっと、危ないからね」

その言葉と同時、私は少しの段差につまずいて、体勢を崩した。

「ひえっ!?」

転ぶ!

痛みを覚悟してギュッと目をつぶるけど、背中にあったのは優しい手のひらの感触だった。

あ、あれ?

おそるおそる目を開くと、またも眼前に綺麗な顔、金色の、瞳。

「大丈夫かな?」

「……っ!」

彼の完璧スマイルに、私の心臓はキャパオーバーだ。

「あああああああなたは誰!?」

動揺を隠せる訳もなく、よくわからない質問が口を出た。

私、そこはありがとうじゃないの!?

「俺?そうだなあ……」

彼は私の素っ頓狂な言動を気にする様子もなく、顎に手を当てて、何もない空を、まるでそこに何かがあるかのように見た。

そして、綺麗な瞳がせわしなく左右に動き、ピタ、ととまったところで、おもむろに口を開いた。

「ハルヤ、とでも名乗っておこうかな」

彼の適当な名乗りに、身体中をはね回っていた心臓は、違和感にからめとられて少しだけ大人しくなる。

「……!?」

急に、彼、ハルヤくんの表情が険しくなる。

「……ごめん、ちょっと緊急事態」

ニコッと笑いかけてくれたハルヤくんは、私を片手でひょいと持ち上げた。

い、意外と力ある!?

私が驚く間もなく、ハルヤくんはそのままボールを投げるみたいな姿勢をとった。

「え、ちょっと……えっ?」

「大丈夫、安心してね」

何が大丈夫か全然わからないけど、私にはもう綺麗な青空しか見えない。


「絶対守るから」


彼の真剣な金色の瞳。

それを見た瞬間、身体が空に吸い込まれていく。

「ううううわあああああああああああ!!」

ハルヤくんに思い切り投げられたことに気がついたのは、その少しあとのことだった。

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迷惑ヒーロー 夜星ゆき @Nemophila-Rurikarakusa

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