第74話 神様の第一回ハーレム会議

 夕食後。


 私とリリム、ミレイユ、ディアネットの4人は、私の部屋に集まっていた。これからのことについて話し合いの場を設けたのだ。


 まず議題に上がったのはエレオノールのことだった。


 結局、エレオノールは答えを出さなかった。迷っている、もしくは葛藤しているように見えたが……果たして何を考えていたのか。その答えはエレオノールにしか分からない。


「エルは入んないのかな?迷うってことは、ハーレムに興味はあるってことっしょ?」


 リリムの言葉にも一理あるな。ハーレムが嫌なら迷わず断ればいい。もしくは、パーティの和を乱さない為に角の立たない断り方を探していたという線もあるな。


「仕方ないのかもしれないわね。だって、エルはボルトを信仰しているもの」

「なるほどな……」


 ミレイユの言葉に、私は納得した。しかし、リリムとディアネットには、意味が分からなかったのか、不思議そうな顔をしている。まぁ一般人にとって、自分の信仰している神以外の神など、あまり詳しくなくても仕方がないか。


「秩序と制裁の雷神ボルトは、地母神マールの夫神でな。一夫一妻の神なんだ」


 そして神話では、ボルトは様々な困難や試練、誘惑に打ち勝ち、葛藤しながらも己の意思を貫き、一途にマールを愛している姿が描かれている。そしてその信徒も、一夫一妻のいわゆる男女のストレートな恋愛観を持つ者が多い。だが、意外にも同性愛やハーレムについて理解を示す者も多かったりする。


 お堅い性格のボルトと自由奔放と云われる私だが、実は、ボルトと私は仲が良いのだ。雷の発生には風が大きな役割を果たしているからね。なにかと絡む機会は多い。そのせいかどうかは知らないが、ボルトの信徒と私の信徒の仲も良好らしい。


 そのため、恋愛事に関して全くスタンスの違う両者だが、お互いに理解を示すことが多いといわれている。


 エレオノールも、同性愛やハーレムについて、ある程度理解を示したが、彼女自身がハーレムに加わるかというと、難しいかもしれないな。


「なるほろねー。神様にもいろいろあんだねー」

「まぁな。神にもいろいろと考え方に違いはあるんだ」

「ルーがそこまで神々について詳しいなんて、なんだか意外ね」

「博識…」


 まぁ普通は聖職者や学者でもないかぎり、そこまで詳しくはないだろうからな。ミレイユが意外に思うのも無理はないか。ちょっと詳しく話しすぎたかもしれない。


「ほら、私はワールディーを信仰しているだろ?だから、ワールディーとその周辺について多少知ってるだけだよ」


 自分で自分を信仰していると告白するなんて、なんだかナルシストにでもなった気分だな。


「まぁ、エレオノールについては保留だね」

「異議なーし」

「そうね。あまり急かしてハーレムに反対されちゃったら困るもの」

「分かった…」


 皆の了解が得られたところで、もう1つ了解を得ることがある。


「それでなんだが、エレオノールの前ではこれまで通り振る舞おう。具体的に言えば、エレオノールの前ではいちゃいちゃしないようにする」


 エレオノールに疎外感を感じさせないためにも必要なことだろう。ただでさえ彼女の立場は孤立している。孤独感を感じさせないように配慮しなくては。


「りょうかーい」

「普通は人前ではしないものよ?」

「残念…」


 他にもいくつかの決まり事を作り、第一回ハーレム会議とでもいうべき会合は幕を閉じた。



 ◇



 ベッドとクローゼット、机と椅子しか家具の無い、個性というものがまるで感じられない殺風景な部屋が、私の部屋だ。以前、ミレイユの部屋を殺風景と評したことがあるが、それより更に酷い。ミレイユの部屋を嘆く前に、まずは自分の部屋を整えた方が良いのかもしれないが、それも考えものだ。なにせ私は、ミレイユやディアネットを始め、パーティメンバーの部屋に入り浸っているからね。寝る時でさえも彼女たちの部屋で寝ているくらいだ。私にとって自分の部屋は、私物を置く物置程度の意味しか持たないのである。


 そんな憐れな扱いを受ける部屋の中に、今日は人が居る。私とリリムだ。


 先程までミレイユとディアネットも居たのだが、彼女たちは、私と「おやすみのチュウ」をした後、それぞれ自室へと帰ってしまった。


 気を利かせてくれたのかな?


 今日は、リリムが私のハーレムに加わった記念すべき日だ。そんな日くらいリリムと私だけの2人の時間が持てるように気を利かしてくれたのかもしれない。


「2人っきり…だね……」


 リリムがポツリと呟くように言う。顔を赤らめて少し俯き、視線を泳がせてモジモジとしている様は、普段の元気なリリムを知っている者ならば驚くかもしれない。ものすごく態度だ。普段の態度とのギャップのせいか、リリムがとてもか弱い女の子に見える。


「リリム……」


 私は、リリムの肩に両手を置き、背伸びしてリリムにキスを迫る。ミレイユやディアネットとキスした時、リリムが羨ましそうに見ていたのを私は知っている。リリムとは初めてのキスなので、軽いキスがいいだろう。いきなり舌を入れたら、驚いて委縮してしまうかもしれない。驚くリリムの顔を見たい欲求にも駆られるが、まずは無難にジャブからいこう。


「待って!」


 もうすぐで唇が触れ合うというとこで、リリムがキスを拒絶するように、唇と唇の間に手を挟んだ。


「嫌…だったか?」


 まさかとは思うが、一応リリムに確認する。間近で見るリリムの顔は、真っ赤に染まり、その綺麗に整えられた双眸をハの字にして困った表情を浮かべていた。


「違くて!まだ心の準備が!それに、あーし今こんな格好だし!」


 リリムの格好を見下ろすと、ぶかぶかの大きなTシャツをワンピースのように着ているとてもラフな格好だった。いつものリリムの格好だし、別におかしなところはないが……。


「あと、えっと、その……とにかく待ってて!」


 そう言うと、リリムは私の手を振り払い、走って部屋から出ていってしまった。


「えー……」


 これは……どう見るべきだ?ひょっとして私はフラれたのか?でも、ハーレムに加わると言ってきたのはリリムの方だ。この短い間に心変わりでもしたのだろうか?女心と秋の空とも言うし……いや、あれは元々男心と秋の空だったか?


「どうするかな……」


 リリムは待っててと言っていたし……。


「待ってみるか……?」


 1人残された部屋に、私の呟きがやけに寂しく響いた。

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