第44話 神様とゴスロリ
私は腰に両手を当て、言い放つ!
「やって来たぞ、乙女通り!」
相変わらず、ここだけ場違いなほど華やかな空間だ。甘いパステルカラーに彩られ、道行く人も女の子ばかり。女の子たちの黄色い歓声と、甘い匂いに包まれた、まさに女の園だ。一本道が違えば、武骨な冒険者の街が広がっているとは思えない。ギャップで風邪をひきそうなほどだ。
今日はダンジョンの攻略はお休みである。と言うより、しばらくダンジョンに行くのはお休みだ。理由はいろいろある。ディアネットの魔力の回復を待ったり、修理に出した装備待ちだったり、使ってしまったタスラムの生成待ちだったり。準備が万全になるまではお休みにした。
私としては早くダンジョンに行きたいのだが、パーティメンバーに無理を強いるのも忍びない。
「それで、今日は何を買うの?」
乙女通りの雰囲気に当てられたのか、目をキラキラと輝かせてワクワクしているミレイユが尋ねてくる。
「まずはぶらぶらとするか。気に入った物があれば買えば良かろう」
ミレイユに答えて、私たちは乙女通りを歩き出す。今日のお供はミレイユとディアネットだ。ミレイユは、この間一緒に買った袖なしワイシャツと赤黒のチェックのミニスカートを着ている。私も色違いのお揃いの服を着ている。ミレイユが赤黒で、私が青白だ。まるで姉妹みたいだな。ペアルックとか、長い間神として存在している私でもなかなか経験が無い。
ディアネットの服は、黒の落ち着いたワンピースだ。相変わらず黒い服が好きらしい。下着まで黒だから徹底している。黒のボリュームのある髪と合わさり、少し魔女みたいな印象を受ける格好だ。
残りの2人、エレオノールとリリムは、今日はアリスに訓練をつけてもらっている。昨日の戦闘で自分の未熟さを痛感したと言っていた。
昨日の戦闘と言うと、ニワトリの件だろう。聞けば、上級者はあえてニワトリを鳴かせてモンスターを集め、まとめてモンスターを倒すなんてことをしているらしい。それに比べて自分たちは……と思ってしまったようだ。
エレオノールとリリムが来れなかったのは残念だが、2人が強くなるのは歓迎だ。2人には是非ともがんばってもらいたい。
◇
3人で乙女通りをぶらぶらする。ウインドウショッピングというやつだ。3人で店を冷かして回る。乙女通りには、いろんな店が所狭しと並んでいるので、見ているだけでも楽しい。服に靴にランジェリー、アクセサリーから雑貨や小物、食べ物まで、とにかくいろんな店がある。その全てがかわいいのだから驚きだ。まさにここは、乙女たちの楽園だろう。
「さっきの小物、素敵だったわね。やっぱり買えば良かったかしら?でも高かったのよねー…」
「そうだなー」
屋台で買ったクレープを頬張りつつ店を覗いていると、面白そうな店を見つけた。フリルとリボンに溢れた店、なんとゴシック・アンド・ロリィタの専門店があった。いわゆるゴスロリと呼ばれるものだ。
「ちょっとルー!?ここは……」
何か叫んでるミレイユを置いて、私はゴスロリの専門店へと入っていく。店の中にはフリルやリボン、レースがあしらわれたかわいらしい服がたくさんあった。ゴスロリと一口に言っても、いろいろな種類があるようだ。私としては、白と黒のゴテゴテした服というイメージがあったのだが、シンプルなデザインの服もあるし、色も赤、青、緑、紫、ピンク、クリーム色とわりとカラフルな品揃えだ。
「まあ!かわいらしいお嬢さま方。どうぞ見ていってくださいまし」
店員もゴスロリに身を包んで華やかだ。愛想も良い。きちんと教育されているのだろう。
乙女通りは、女性客にとっては便利な商店街だが、店にとっては鎬を削る激戦区だからね。なにせ、周りがライバル店だらけだ。半端な店では生き残れない。従業員の教育も徹底して行われているようだ。
そういう意味では、ゴスロリという相手を選びそうな服で、乙女通りで生き抜いているこの店には、何か秘密があるのかもしれない。
「ルー、ここきっとすごく高いお店よ。早く出ましょ……」
ミレイユが私の耳元で囁く。ちょっとぞくぞくする。
ミレイユの言葉に閃くものがあった。もしかしたらここは、ブランド品を扱う店なのかもしれない。
値札を確認しようと周りを見渡すが、どこにも値段は書いてなかった。ちょっと怖いものがあるな。ミレイユが警戒するのも分かる。
「店員よ。この服はいくらだ?」
私は近くにあったワンピースを指して尋ねる。
「はい。こちらの棚は全品、銀貨3枚になります」
「ほう!」
「うっそ!?」
ミレイユと2人して驚いてしまった。ディアネットも声こそ出していないが、目を見開いて驚いている。そうだね、驚きの安さだね。
たしかに、普通の服に比べたら少し高いが、これだけ布をふんだんに使った服がこの値段と言うのは驚きだ。布当たりの値段で言えば、こっちの方が割安まである。
てっきりブランド物みたいな桁が違う値段が出るかと思えば、なんともお財布に優しいお値段だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます