Paint Plan
裃 白沙
プロローグ
用意された道具たちは想像以上にこの工程に不向きであった。鋸歯には脂と繊維がからまり、すぐに目詰まりをおこした。時折固いものにぶつかる。ねじ込むように刃を押し付けると強く引いた。管の押しちぎれる振動が手に伝わる。液体のはねる音。すり潰れる繊維の音。それでもまだ欲した形にはならない。にじみ出る液体の量は増えていた。足元がぬるぬるとし、軽くべたついている。少女は一度マスクを取るとすぐにむせ、座り込んでしまった。そこには鉄のような臭いが充満していた。
外から声がする。自分を呼んでいる。
思い通りにいかない。
液体の海に浮かぶ脂が生き物のように、より集まっては離れ、沈み。それは少女の呼吸のせいなのだが。そのまま足から、手から這いのぼって来るように。少女は体を震わせた。叫んだ。頭をかきむしり、耳をふさいだ。
額を液体がつたい落ちてくる。少女は立ち上がると、叫び、何度も蹴り飛ばした。爪に肉の突き刺さる感触とともに痛みを感じた。液体が飛び散った。少女は液体に足元をすくわれると、再び大きく尻餅をついてしまった。
まだ外から声がする。
すこし目を閉じて呼吸をしてみた。鉄臭さにはもう鈍感になっていた。どれぐらい時間が経っただろうか。少女は目を開けると、立ち上がって、今度は反対側に鋸をあてた。再び、繊維と脂のすりちぎれる音が響く。何度かその手を休めては、鋸歯につまった脂と繊維を取り、液体の中に叩きつけた。しばらくすると、再び固いものに刃が当たった。鋸を置くと傍に浮かぶ手ぬぐいを巻きつけ、強く体重をかけて引いた。結合部がひずみ、きしむ感触がする。程なく、結合部の抜け取れる音がした。一瞬、「それ」が跳ね上がり、すぐさま鈍い音を立てて液体の海に落ちた。少女はすぐさま屈み込むとその断裂面を見た。しかしそれは彼女の想像とは大きく異なった。道具が役に立たなかったぶん、その断面は素人の細工であった。少女は舌打ちをすると、「それ」を持ち上げ、叩きつけた。
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