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「鷹崎紫陽(たかさきしよう)、あなたを待っていたの。あなたたちは、これからのスマホと人間の共存生活にとって、大切な存在だから」
「お前も、動画の内容に感化された奴だったのか」
「それは違うわ」
隼瀬は紫陽の言葉をバッサリと切り捨てる。そして、芝居がかったような話し方で、紫陽たちに質問する。
「感化される前から、私はあの方のもとで秘密裏に働いていたの。私の両親の職業は知っているかしら?」
『知らない』
「あら、三人全員に即答されるとは、予想外だわ。てっきり、あやのさんは、私の家族構成とか、詳しく調べているのかと思っていたけど」
「調べるまでもない。お前なぞ、我の敵になりえないからな。それで、お主のことを説明するだけなら、帰ってもいいか?我たちも暇ではない。今後のことなどを話し合っておきたい」
自分の両親を知らないと即答された隼瀬は、特に落ち込んだ様子もなく笑っていた。ただし、顔は笑っていたが、目の奥には冷たい光が宿っていた。それに対して、あやのは彼女の様子に気付かないのか、平然とこの場から離れたいと言い出した。紫陽とすみれは、あやのの行動の意図がわからず、黙って二人の会話を見守っていた。
「私たちから逃れられると思っているの?さっきも言ったけど、私の両親は」
「それでけん制しているつもりか。それなら、さっさと我たちを取り押さえるよう、廊下の連中に伝えたらどうだ?最も、それができるのなら、な」
「な、何を言って。あんたたち、そこの、三人を」
あやのの言葉に一瞬、隼瀬は動揺を見せるが、すぐに廊下に潜んでいた自分の仲間に命令しようと口を開く。しかし、その言葉は途中で力尽きてしまう。
「か、身体が、ど、どうして」
「やはり、お前もわれわれ側の人間に成り下がっていたか。これは面白い」
突然、隼瀬は息苦しそうにし始め、教室の床にうずくまる。呼吸が荒くなり、あやのを見つめる顔は紅潮している。さらには左手を押さえて呻きだす。
「い、いいいい、痛い。わ、私のからだに、なに、を」
「簡単なことだ。スマホに寄生された人間を一時的に動けなくすることなど、我にとって容易いことだ」
バタバタバタ。
廊下で床に何かが倒れる音が複数聞こえた。驚いて視線を廊下に向けると、そこには数人の男女が苦しそうにうずくまっていた。
隼瀬の優位だった状況が一変した。あやのは一体、彼女らに何をしたのだろうか。紫陽とすみれが恐る恐る視線をあやのに移すと、にっこりとほほ笑まれる。
「一度スマホに寄生された人間は、いくら我らと縁を切ろうと手を切断しても、完全に我らを体内から追い出すことはできない。体内には我らの残骸が少なからず残る。そうなれば、我らスマホが出す電波でそいつらを操ることは可能だ」
この場にいる人間全員に聞こえるように、声を張って説明するあやのに、紫陽たちはおろか、床にうずくまる隼瀬、廊下にいた隼瀬の仲間の背筋に冷たい汗が流れ落ちる。周りの様子に気付くことなく、あやのはさらに物騒なことを口にする。
「そう言うことだから、お主たちはしばらく、その場にはいつくばっているといい。まあ、ここで殺すこともできるが、さすがにそこまでしては、我たちの存在が目立ってしまう」
「あやの、お前は今、操れるのはスマホに寄生された人間といったな。それってつまり、隼瀬は」
あやのの言葉に恐れを抱きつつも、紫陽は隼瀬に抱いていた違和感の正体を確かめるため質問する。
「以前、スマホに寄生された人間)で間違いないだろうな。本物そっくりに見えるが、彼女の左手は義手だろう。精巧に作られているが、我の目はごまかせない」
「隼瀬は、スマホに寄生されていた……」
紫陽は、幼馴染の回答を聞いても驚くことはなかった。今までの隼瀬との教室でのやり取りは、スマホを持っていない同士の会話だった。そんなクラスで貴重な存在だったはずの彼女がなぜ、スマホに寄生されたのだろうか。
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