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紫陽とすみれ、あやのの三人は、紫陽の高校に行くことにした。すみれはまだ中学生だが、こんな状況なので、誰も高校に中学生が紛れ込んでも文句は言わないだろう。それに、今、一人になるのは危険である。念のため、紫陽とあやのは制服に着替えることにした。すみれには、紫陽の学校指定のジャージを着てもらうことにした。
「ぶかぶかだね。でもまあ、折り曲げれば何とかなるから大丈夫。短パンだから、足下はなんとかなるけど、ウエストが緩いから絞っておこう」
すみれが着替えを終えて、三人は家を出た。
「電車が運休しているな」
「ニュースで言っていたことは、本当だったんだね」
「さて、これからどうするのだ?」
仕事ができる人間がいないため、電車は完全に運転を停止していた。駅まで向かったが無駄足となってしまった。
「頑張れば、自転車で高校に行けるけど」
「ええ、でも、途中坂とかあるんでしょ」
「高校に行けば面白いものが見れるかもしれない、と言ったら行く気になるか?」
あやのの言葉に紫陽たち兄妹は興味を持つが、自転車を使ってまで行くまでには至らない。そんな二人の様子を見て、仕方なさそうに、彼らにとっておきの情報を提示する。
「昨日、家に来ていた隼瀬とかいう女が学校でお前らを待っている。朝、我が話したことを忘れたか?」
『じゃあ、行ってみよう』
紫陽たち兄妹の声がその場でハモりを見せた。昨日は追い返してしまったが、いったい、どんな用事で家までやってきたのか気になっていた。
「手のひらを返したような態度の変化だな。では、自転車で高校まで行くことにしよう」
駅までは自転車で来ていたので、三人は自転車を使って学校に行くことにした。あやのは朝、いったん自宅に戻って自転車を持ってきたため、三人とも自転車を使うことができる。
自宅から高校までは二駅分の距離であるが、自転車でもギリギリ通うことができる距離だった。途中、すみれの言う通り、坂道があるがそこを乗り切れば、残りは平坦な道である。1時間もあれば高校にたどりつけるだろう。
三人は、人や車が走っていない道路を自転車で駆け抜けていく。家や駅の周辺だけでなく、他の場所でも、人や車の姿を見かけず、一夜にして町全体から人がいなくなってしまったかのように見えた。
「雨が降りそうな天気だな」
自転車で走行中、紫陽がふと空を見上げると、どんよりとした曇り空が広がっていた。
「学校も休みらしいな」
「なんか、誰もいない学校って不気味だね」
「おはよう。すでに朝礼の時間は過ぎているけど、今日は臨時休校だったかしら。ああでも、私以外にも、臨時休校の連絡が来なかった人もいたのね」
町に人が歩いていないように、学校にも人の気配がなかった。もしかしたら、校門が閉まり、校内に入れないかと危惧したが、校門はいつも通りに解放されていた。
普段の喧騒が嘘のように静かな廊下を歩いて、紫陽のクラスに足を踏み入れる。するとそこには、一人の生徒が教卓に座って足をぶらぶらと揺らしていた。教室に誰かが来るのを待っていたようだ。
「学校からは臨時休校の知らせが入っていたんだな。知らなかったよ。電車が止まっていたから、もしかしたらと思ったけど」
「わざわざ電車が止まっていたから、自転車で高校まで来たの?それはご苦労様。それで、教室に私しかいないわけだけど、この状況をどう思った?」
「一人とはまた、ずいぶんと、我をなめているな。どう考えても、お前ひとりではあるまい。廊下からお前の仲間の殺気がだだもれだ。そもそも、お前が我たちを高校に呼んだのだろう
に、白々しい」
紫陽と隼瀬の会話を邪魔したのはあやのだった。彼女の言うことが本当だとしたら、やはり、高校に来たのは間違いだっただろうか。紫陽とすみれには廊下に人がいるかどうかはわからない。もし、廊下にいる人間が紫たちを襲ってきたら。
「あやのさん、ずいぶん人の気配に敏感なのね。その通り、こんな異常な状況で、一人でのこのこ高校に来るわけないじゃない。あやのさんたちも、妹さんと一緒に来ているでしょう?お互い様よ。いまどき、何が起こるかわからないから、用心するに越したことはないわ」
「それで、用件はなんだ」
とりあえず、目の前の彼女の機嫌を損ねることがなければ、廊下の人間が紫陽たちを襲うことはないはずだ。彼女の出方を慎重に伺いながら、同時に彼女から情報を集めることにした。
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