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「ピンポーン」
今日は来訪者が多い日のようだ。今度は誰だとインターホン画面をのぞき込むと、そこに映りこんでいたのは、紫陽たちの母親だった。手には買い物に行った帰りなのだろうか、両手にビニール袋を提げている。両手がふさがっているから、カギを開けて欲しいということなのだろう。
「今開けるから、まっ」
「やめておけ」
両親の帰りを信じて疑わず、素直にドアのカギを開けようとした妹の手をあやのがつかんだ。いきなりの行動に、妹のすみれが首をかしげて彼女を見上げる。
「お母さんが帰ってきたんだよ。買い物帰りだから、両手に荷物を持っているのは見てわかるでしょう?私たちが開けてあげる必要があるよ」
「本当に彼らがお前らの母親なら、な。よく見てみろ。それと、今から我がお前らの母親のスマホに電話をかけるから、よく反応を見るんだな。紫陽、母親の番号を押してくれ」
あやのは紫陽に自分の左手を差し出した。そして、玄関前にいる女性が持っているスマホの電話番号を入力するよう指示した。
「今、家の外にいるのが、オレ達の親ではない、とでも言いたいのか?」
「我の言葉が信じられないのはわかるが、証拠はある。電話をかけて見れば簡単に証明できる」
言われたとおりに、紫陽は差し出された手の中にある、彼女と一体化しているスマホに、母親のスマホの電話番号を入力していく。自分の携帯に登録されているので、電話帳を開いてそれを見ながら、間違えないよう細心の注意を払う。妹は心配そうに成り行きを見守っている。今日の出来事が影響しているのか、ドアを開けたい意志を必死で押さえているように見えた。ドアのカギの前に向かっている手を反対の手で押さえつけていた。
「賢明な判断だ。ここで開けるような人間はごまんといるが、開ける意思を止めているのは褒めてやる」
どこか上から目線な彼女の言葉に、妹も軽い口調で言い返す。
「本当は、一番怪しいのは、あやのさんだと思うんだよね。あやのさんが私たちを利用したいがために、今朝の野次馬とか、お兄ちゃんのクラスメイトとか、今外にいる両親とかを悪く言っているのかな、とか」
「そう思ってくれても構わない。では、電話をかけるぞ」
ごくりと兄妹二人は、彼女の様子をじっと見つめる。あやのは、入力された画面にある通話ボタンをスマホに寄生された反対の手でタップする。玄関に着信を知らせる機械音が玄関に響き渡る。
「ほら、出ないだろう?これが一つ目の証拠だ」
いくら経っても、電話がつながる気配がなかった。ずっと電話がつながる前のプルルルルルという音が部屋に響き続ける。インターホン画面からは、玄関前にいるはずの母親が電話に出る様子は見られなかった。
「母さんが電話に出ないのは、家に忘れたから……」
「その可能性もあるだろうが、それなら、家の中で着信音が響くだろう?」
「も、もしかしたら、あやのさんの携帯番号が登録されていないから、見知らぬ番号で取らなかったとか?」
電話に出ない母親について、言い訳のように電話に出られない事情があるのだと、紫陽とすみれは訴えるが、二人の間で不安は募っていく。
「インターホン越しに、もう一度よく見てみるがいい。果たして本当に玄関前にいるのはお前らの母親か?お前らの母親はスマホに寄生されていたのか?」
彼女に言われたとおりに、改めてイ二人はンターホン越しに見える母親の様子を確認することにした。
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