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「なあ、鷹崎はスマホを持っていなかったよな。スマホのない生活って、どんな感じなんだ?どうやって毎日を過ごしているんだ?」
「誰かと連絡を取りたいときとかどうしているの?明日の予定とか、宿題とか、打ち上げの連絡はどうやってするの?」
一人机に突っ伏し考え事をしていた紫陽の周りに、いつの間にか人が集まり始めていた。あるものは真剣な表情で、あるものは興味深そうに紫陽に質問する。自分の周りに人が集まるとは思ってもいなかったが、とりあえず、質問されたことに答えていくことにした。
「どうやって過ごすとか。別にお前らと変わらないと思うけど。学校の宿題やって、終わったら図書館で借りた本を読んだり、録画したテレビ見たり、本屋で買った漫画読んだりしているけど」
「連絡を取り合う必要はないだろ。宿題は自分でやる箇所をメモすればいいし、打ち上げなんて、学校で用件を伝えてくれればそれで事足りる。そもそも、オレは打ち上げとかクラスで何かするのに参加したくないから、どうでもいい」
紫陽が質問に答えたにも関わらず、その回答に対してすぐさま反論が返ってくる。
「紙媒体の本とか久しく読んでないな。大抵、スマホで電子書籍を買ったり、無料のサイトで小説も漫画も読めたりするし。ネットで見逃し配信があるから、アニメもドラマも録画していないな。そうか、紙媒体を使う、か」
「連絡取れないとかありえないでしょ。だって、もしかしたら、連絡取れないせいで、裏で何言われているかわからないし。家でも繋がれないとか、仲間外れにされちゃうよ!」
「オレがどう過ごしていようと、お前らに関係ないだろ?いったいどうして、クラスの奴らみんなでオレのところに集まってきたんだ?」
せっかく答えたのにそれを頭ごなしに否定される。気分を害された紫陽はそもそも、自分の周りになぜクラスメイトが集まってきたのか気になり、問いかける。
「それは、鷹崎君がスマホを持っていないからでしょう?みんな、スマホを持っていないあなたが物珍しいのよ。それに、スマホを持っていないということで、やつらに寄生される心配がないから、うらやんでいるの」
紫陽の問いかけに答えたのは、周りに集まってきたクラスメイトたちではなかった。クラスにいた、スマホを持っていないもう一人のクラスメイトだった。
「何を楽しそうに話しているのかと思えば、スマホの話し?」
隼瀬あきらが紫陽たちの会話に興味を示したようだ。クラスに二人しかいない珍しい存在が自分たちに近寄ってきたため、クラスメイトたちの興味は彼女に移っていく。
「そうそう、そういえば、隼瀬さんもスマホを持っていなかったよね。いま、鷹崎君が家に帰ってスマホなしで、どうやって生活しているのか聞いてみたところだよ」
「隼瀬さんも、鷹崎と同じで家に帰って宿題やって、紙媒体の本を読んだり、テレビを見たりしているの?」
「中学の同級生とかは連絡取らないの?」
紫陽に質問攻めしたように、今度は隼瀬を質問攻めにする。しかし、彼女はクラスメイトの予想を覆すことを話し始めた。
「みんなには話していなかったけど、私は先日、スマホを買ったの。誰かさんと違って、もう、スマホを持っていない高校生ではないわ。鷹崎君にも見せたでしょう?それとも、もう忘れてしまった?私が家に」
「ストップ。思い出した。そうだった。隼瀬もお前らと同じ、スマホ持ちの普通の高校生に仲間入りしたんだった。そうだった。悪い、ちょっとトイレ」
隼瀬は、自分がスマホを買ったことをクラスメイトに説明する。そして、先日、紫陽の家を訪ねたことを話そうとした。さすがにつき合ってもいないのに、自分の家にやってきたことがばれるのはまずい。紫陽は慌てて彼女の言葉を遮り、その場を離れるために席を立つ。
クラスメイトの興味は完全に紫陽ではなく、隼瀬あきらに移っていた。そのため、紫陽が席を立っても、それをとがめる者も、追いかける者もいなかった。
「この時期にスマホを買うなんて、勇気あるね。隼瀬さん。今時、スマホを手放したくて仕方ない人ばかりなのに」
「でも、スマホは便利でしょ。これを使わない手はないと思ったの。もしかしたら、寄生されずにうまく使える方法もあるかもしれないしね」
「チャレンジャーで驚いたな」
教室を出る直前に聞こえた会話に耳を傾ける余裕もなく、廊下に出た瞬間に、紫陽は床に崩れ落ちる。
「あいつ、何を考えてやがる」
わざわざ、紫陽の家に行ったことを話して何がしたいのだろうか。よくわからなくて、つい独り言が零れ落ちる。
「ナンカゲンキナイケド、ドウシタノ?」
廊下でいつまでも座り込んでいるわけにもいかない。とりあえず、トイレにでも向かおうかと立ち上がる。すると聞きなれた声が紫陽にかけられる。
「あやの。手は!学校に来て大丈夫なのか?」
顔を上げて、目の前に現れた幼馴染の姿に驚く。今日も休みかと思っていたが、学校に来ることができたのか。彼女は紫陽の驚いた顔にあきれたような顔をしているように見えた。
「わたしはすでに、鵜飼あやのではない。彼女の所持しているスマホである。ちょうどお前に用事があった。これから時間はあるか?」
彼女の口から発せられた言葉は、動画で見た、機械音に似ていた。
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