国見ヶ丘古墳の謎 🔮

上月くるを

第1話 古墳山にさまよえる魂魄




 人も歴史も謎めいていたほうがいいよね。

 なぜ? が実物以上の魅力を招くからね。


 ふとそんなことを思ったのは、てっぺんの案内に人名が見当たらなかったからだ。

 「当時、この地方を支配していた豪族の墳墓と推定されます」とあるだけで……。


 遠くから見れば、まるでお椀を伏せたような。🍥

 または宇宙からの飛来物が舞い降りたような。👽


 明らかに人工の匂いがプンプンする古墳山は、里山を背負う東方を除く三方を見晴らす絶景の地として、桜が咲く季節を中心に、市内外からの観光客に人気がある。




      🌸🍃




 頂上に小石を敷き詰めた長方形があり、その中に千数百年前の人物が眠っている。一般的な棺の対角線を少し引っ張ったほどの大きさで、大した規模とも見えないが、その小石の3メートル下に「いる」と言われると、思わず後ずさりしたくなる。💦


 自分が支配した地域を居ながらにして(笑)眺められることから「国見ヶ丘」とも呼ぶと記されているが、それはよかったね~とか、それほどまでして権力に固執したかったのかな~とか思うより、なんだかご苦労なことだね~……あわれみを感じる。


 だってそうだろう、ふつうなら肉体の消滅によって、それまで成して来たすべてをご破算にしてもらえるのに、なまじ豪族なんかに生まれたがために、未来永劫に悪行(のない人間はいないはず)から解き放たれないなんて、ザンコクに過ぎやしない?




      🌗✨




 名前も明らかでない権力者は、標高700メートルの人口山の頂上の小石の下で、いったい、どれだけの昼と夜を重ねて来たのだろう……空想好きなぼくは、太陽と月に交互に照らされ、星ぼしのざわめきを聞いているしかない魂魄の悲しみが、痛い。



 ――もういい、もうもう、たくさんだ。

   名もない一塊の土に還らせてくれ。



 ひとりの人間として当然のことを切望したくても、頼める相手がいないんだよ。

 自ら望んだわけでもないだろうに、古墳という永遠の牢獄に閉じこめられ……。

 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る