第8話 怪しい男達

 それからは、高橋さんに紹介された人達がぽつりぽつりと来るようになった。

 今日は薬草店の人が見に来ている。花が良い状態なら薬草にも期待できるということか。

 別に売れなくてもいいやと思っていたら、「ぜひ買い取らせてください」と購入価格を提示された。わたしもネットで調べていたので、相場よりかなり高い金額だとわかった。

 

 そんなある日、三人の見知らぬ男達が訪ねてきた。


「初めまして。私は隣町で漢方薬局を経営している黒田と申します。ぜひこちらの薬草を買わせていただきたいと思いまして」

 

 言葉は丁寧だが、なんだか胡散臭い人だ。


「失礼ですが、どなたのご紹介ですか?」


「いえ、ちょっと噂を聞きまして。なんでも、こちらで採れた薬草は高い効能があるとか」


「申し訳ありませんが、ご紹介された方にしかお売りしていませんので、お引取りください」


 わたしの言葉に手下っぽい男が声を荒げた。


「なんだと!?」

「まあまあ。お嬢さんにはわからないでしょうが、今どき客を選り好みしてると商売になりませんよ。うちなら他の店の二倍出してもいい」


 笑顔で人を馬鹿にする男だ。


「いえ、お金の問題ではありませんので」


 わたしも負けじと笑顔でお断りする。


「とりあえず庭を見せろよ。こっちか?」

 

 手下達が勝手に庭の方に行こうとする。


「ちょっと待ってください。勝手に入らないで!」


「金なら払うって言ってるだろが!」


「そういうことじゃないんで!」

 

 言い争いをしていると光が出てきた。いけない。怖がらせてしまう。


「帰ってください」

 男の腕を掴むと、強く振り払われた。

「あっ」

 倒れそうになった身体を後ろから誰かに支えられた。


「大丈夫か?」

「奏多!」

 わたしを抱きかかえたまま、奏多が男達に言った。


「お前ら、不法侵入だぞ。うちの親が警察に通報したからな」

「……くそっ、おい帰るぞ」


 親玉に言われ他の二人も後に続く。去り際「また来ますね」と言われてぞっとした。  


「ありがとう。助かった」


「争ってる声が聞こえたから。もうちょい早く気づけばよかったな。怖かっただろ」


「さすがにね。警察に通報したの?」


「嘘だよ。ばあちゃん、今いないんだ」


「……あ、あの、もう大丈夫だよ?」


 わたしは、まだ奏多の腕の中にいた。


「あっ、悪い!」

 

 奏多が手を離したところへ光が抱きついてきた。


「怖かった? もう大丈夫だよ。奏多が追い払ってくれたから」


「……みいちゃんを助けてくれてありがとう」


「お、おお。なんてことないよ。久しぶりだな。元気だったか?」


「うん」


 あんなに嫌がってた奏多と喋ってる。なんか嬉しいな。


「上がってよ。みんなで甘い物でも食べて気分転換しよう」


 茶の間に通して、ちゃぶ台の上にあるだけのお菓子を全部出した。


「これ、みんな食べていいの?」

 光が目を輝かせている。


「いいよ。嫌なことがあったときは食べるのが一番!」

「わあい」

「ほら、奏多も食べて」

「じゃあ、いただきます」

 

 しばらく無言で食べ進めてから奏多が言った。


「なんか対策しないと、あいつらまた来るかもしれないな」


「そうだよね……」


「次は、ぼくがみいちゃんを守る!」


「いや、危ないからやめとけ」


「そうだよ。警察の人に言えば巡回してくれると思うから」


 すると、「味方を呼ぶから大丈夫」と言い、光がいきなり呪文のようなものを唱え始めた。

 呆気に取られているうちに、部屋の中に白いもやのようなものが漂い始め――やがてそれは白い狐へと姿を変えた。


「えっ、狐?」


 どっから来たんだと奏多が驚いている。

 白い狐は光の周りを嬉しそうに飛び回っている。どうやら実体はないようだ。


「光、その狐は?」

白狐びゃっこは、ぼくの眷属。これからは、ぼくと白狐でみいちゃんを守る」

「へえ、狐を飼ってるやつなんて初めて見た」


 どうやら奏には、あれがただの狐に見えるらしい。 


「狐じゃない。白狐!」

 光が反論する。白狐は光にべったりとくっついている。


「凄いな、光。よくそんなに懐かせたな」

「ぼく、すごい?」

「おお、凄いぞ」

「えへへへ」

 駄目だ。光は褒められると思考が停止する。

 わたしは奏多に言った。


「白狐って神様の使いなんだけど、聞いたことない?」

「いや、知らないけど」

「……ちょっと触ってみて」

「えっ、俺が?」

「ほら、早く。光、白狐を捕まえておいて」

「わかった」

「えぇ、噛みつかないか?」

「白狐は噛んだりしないよ」

 光がムッとした顔をする。


「……しようがないなあ」

 奏多が恐る恐る手を伸ばした。


「あれ?」

 白狐を触ろうとした手が宙を切る。何度も繰り返して、ようやくわかったようだ。


「もしかして……」

「言ったでしょ、神様の使いだって」

「じゃあ、神様って……」


 わたしが光を見ると、奏多は驚きの声を上げた。





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