-11- ※少し性的な描写あり

 “出雲ゆかり”が、その場面を目撃したことは、ある意味偶然であり──また、ある意味では(時間の問題という意味で)“必然の流れ”ではあったのだろう。


 「おかえり、ゆかり」


 その日、学校から帰ってくると、出張に行っていたはずの父が帰宅しており、なんだかとても幸せそうな母と一緒に迎えてくれたのだ。


 「あ、パパだ。ただいま~。それと、パパもおかえりなさーい!」


 本来の“娘”の立場である由佳ほどではないが、この“出雲家のひとり娘”としてのゆかりも、父である藍一郎のことは決して嫌いではない。

 むしろ、ランドセルも下ろさずに駆け寄って抱きつくくらいには、父に懐いていると言ってよいだろう。


 「ねーねー、お土産は? お土産は?」


 ──まぁ、その行動の何割かは父の土産目当てだったようだが。


 「はっはっはっ、心配しなくてもいいよ。ちゃんと買って来てあるから」

 「ゆかり、先に手を洗ってうがいをしてから、ランドセル置いて着替えてきなさいね」

 「はーい」


 素直に母である由佳の言葉に素直に従い、ゆかりは洗面所に向かう。

 手洗いとうがい、それと洗面を済ませて子供部屋に戻り、小学校の制服を脱いで、白と紺のマリンボーダーの半袖ワンピースに着替える。

 短めのおさげに束ねた赤いリボンを解いて、姿見の前で髪を整えていると、ほんの一瞬だけ奇妙な感慨が湧いてくる。


 「あたし──本当は“パパの奥さん”のはずなのに、こんな格好で小学生の娘として接しちゃってるんだ……」


 久しぶりに自分の“本来の立場”を思い出しはしたのだが、どうにも自分が本来は“藍一郎の妻”だという実感が持てない。


 (そりゃ、パパのことは好きだけど──あくまで“お父さん”として、だよねぇ)


 結婚式で隣に立つのではなく、祭壇まで腕を組んで連れて行ってくれる男性。

 そして、その時、祭壇の前で待っていて誓いのキスをしてほしい相手と言えば……。


 (きゃーーーーっ、ダメダメ、何考えてるのよ、あたしは!)


 無意識に“クラスでちょっと気になる男の子”の顔を思い浮かべてしまい、頬を赤らめてベッドに突っ伏し、足をバタバタさせるゆかり。とても、本来33歳の経産婦だとは思えぬウブさだ。

 無論、これは立場交換に伴い、“大人の女”としての恋愛経験その他の記憶の大半が、由佳に移動してしまったせいなのだが。


 その後、1階のリビングに来たゆかりは、約束通り“父”が買って来たフィリピン土産の洋服を見て喜んだり、同じくお土産のドライマンゴーを食べて微妙な表情になったりする。


 ちなみに、前者に関しては、結局、藍一郎は店に行って買い直したらしく、由佳用にはシックな臙脂のテルノ、ゆかり用には明るい水色のテルノが渡されて、母娘とも満足したようだ。

 後者については、お子様味覚になってる今のゆかりとっては、それほどおいしく感じられなかったらしい。逆に由佳や藍一郎本人は割と気に入ったようなのだが。


 父の土産話で盛り上がった夕食の後、明日も普通に学校があるゆかりは、部屋で宿題を(頭をひねりつつ何とか)済ませてからお風呂に入り、髪を乾かしながらテレビを観る。


 「そう言えば、パパやママたちはお風呂、入らなくていいの?」

 「ん? あ、ああ、パパは家に帰って来たあと、汗とかでベトベトだったからもう入ったんだ」

 「ママも、沸かしたお湯がもったいないから、その時にね」


 なんとなくふたりが慌てているみたいなのは気のせいだろうか。


 (! もしかして、パパとママ、ふたりいっしょに入ったのかな?)


 出雲家の風呂は、湯船は平均的な大きさだが、洗い場はやや広めに作られてるので、ふたりの人間がいっぺん入ってもそれほど窮屈ではないだろう。


 (照れてるのかな? ヘンなの。パパとママは夫婦なんだから、別に一緒にお風呂に入ってもおかしくないのに……)


 先ほど自室で一瞬“本来の立場”について思いだした時と異なり、今のゆかりは完全にふたりの愛娘になりきっており、無邪気にそんなことを考えるばかりだ。


 「ふーん。じゃ、あたし、そろそろ寝るから。おやすみなさーい!」


 “父と母”に挨拶して自室に戻り、最近お気に入りのパジャマ──胸元にレース飾りが付いたピンクの半袖チュニック風トップと、同じ色でフリル満載のドロワーズ風ボトムに着替えて、ベッドに入る。


 そのまま、いつもなら朝までぐっすり──のはずなのだが、久々に“父”と会ってはしゃいでいたせいか、夜半過ぎ、午前1時を少し過ぎた頃、ふと目が覚めてしまったのだ。


 ちょうど喉も乾いたので、冷蔵庫の麦茶でも飲もうと階下に降りたゆかりは、一階の奥、“両親”の寝室から何か物音がするのに気づいてしまう。


 (あれ、何だろ。パパとママ、まだ起きてるのかな?)


 「呻くような声とギシギシと何かが軋む音」を不審に思ったゆかりは……足音を殺して両親の部屋に向かい……そして、ドアの前ではっきりと聞いてしまうのだ。

 

 「──ひぁあっ! あ、あなた! 私、もぅ……」

 「……最高だよ、由佳! くっ……もう、イキそうだ」


 いわゆる“ギシアン”──「ギシギシ」と「アンアン」に「ぬちょねちょ」と湿った音の追加まであっては、さすがにゆかりも、そこでナニが行われているのか、おおよその想像はつく。

 真っ赤になって、あわてて自室まで(一応、足音を忍ばせつつ)駆け戻るゆかり。


 「──あ、アレって……そういうコト、だよね?」


 小学六年生ともなれば、保健体育の時間にひととおりの性教育も受けており、また友人たちとの会話でそのテの話題が出ることもあって、性交セックスの何たるかくらいはおぼろげに理解している。


 そう、“おぼろげに”だ。

 今のゆかりは、恋愛関連同様、六年生の女子小学生という立場相応の性知識しか持っていないので、「男女が裸で抱き合ってキスしたり色々する」くらいのぼんやりしたイメージしか持っていないのだ。


 無論、小六でもそちら方面に好奇心旺盛な子なら、男子はエロ本、女子アダルトレディコミなりを見て、耳年増ならぬ読年増になってたりするものだが、このゆかりは、そちらはてんで“オネンネ”だった。

 なにせ、立場交換して以来、一度も自慰行為すらしていないくらいなのだから……。


 そんなゆかりも、両親の交わりを目撃(正確には音を聴いただけだが)したことには、それなりの衝撃を受けたらしく、動悸が早まり、布団の中で無意識に下肢を擦り合わせていた。


 (えーと、確か、悠子ちゃんの話だと……)


 おずおずと左手をその豊満な胸に、右手をパジャマの上から股の付け根の交差地点へと伸ばすゆかり。


 「あっ……なんか、へんっ!」


 本来なら、歳を経て性的にそれなり以上に成熟しているはずの彼女の性感は、しかし現在の立場を反映するが如く未熟なものとなっている。

 胸のつぼみも、娘ひとりを産み育てたとはとても思えない可憐な淡いピンク色をしており、ゆかりの拙い愛撫にも敏感に反応する。

 そして、股間への接触は……。


 「ひぁんっ! ぅぅ……刺激が強過ぎるよぅ」


 どうやら、まだ少し“この子”には早かったらしい。

 それでも胸への愛撫を中心とした“はじめての●●●ー”で、軽くではあるが“イった”ゆかりは、そのまま今度は夢も見ない深い眠りに就いたのだった。

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