パパにはナイショ♪ -母が娘で娘が母で-

嵐山之鬼子(KCA)

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 「いってきまーす!」


 ごくありふれた住宅街の一角。一軒の和洋折衷建築の玄関のドアを開けて飛び出して来た少女が、家の方に向かって元気な声で挨拶すると、そのまま門を出て通学路へ向かって足早に歩き出した。


 つややかな黒髪を首を覆うほどの長さのオカッパ──いわゆるミディボブの髪型にして、学校の制服だろうか白い丸襟ブラウスにグレーの吊りスカートと黒いハイソックスを履いている。


 赤いランドセルを背負っていることから考えて小学生なのだろうが、160センチを越える身長と、どう見てもCカップ未満には見えない胸のふくらみからして、服装を変えれば中学生、いや高校生でも通用するだろう。


 とは言え、最近の子供は前世紀と比して発育が早いので、こういう大人びた女子小学生がいても、それほどおかしくはあるまい。


 「はい、いってらっしゃい。クルマに気をつけてね」


 “少女”が飛び出してきた玄関には、彼女の“母親”らしき女性が立って、ニコニコと優しい笑顔を浮かべて“娘”を見送っている。


 クリームベージュのカットソーと焦げ茶色のロングスカートの上にオレンジ色のエプロンを着け、サンダルをつっかけた、いかにも主婦らしい服装だが、小柄で童顔なせいか“オバさん”くささは全く感じない。


 背中まで伸ばした髪をヘーゼルブラウンに染め、後頭部のやや下方でシニョンにまとめた洒落たヘアスタイルと、かなりナチュラルながらキチンとメイクしていることもあって、むしろとても魅力的な女性と言ってもよいだろう。


 “娘”と並んでも下手すれば姉妹に見えかねない、そんな若々しい主婦がアニメやギャルゲーの中以外にも実在したとは驚きだが……。


 ──いや、本当にそうだろうか?


 身長150センチにも達していない、小柄で中学生と言っても十分通用する幼い顔つき・体つきの“母親”から、小学生なのに長身・巨乳・大人顔の三拍子揃った娘が生まれるものだろうか?


 世間は広いようで狭く、狭いようで広いから、もしかしたら日本中を捜せばいるのかもしれないが、このふたり──出雲縁(いずも・ゆかり)と出雲由佳(いずも・ゆか)に関しては“そう”ではない。


 本来は母であるはずの縁が小学6年生の“娘”として学校に通い、娘であるはずの由佳の方が“母”として家のことを切り盛りしているのだ。


 さらに言えば、“その事”に対して、本人達二人以外の誰も──ご近所の人や由佳の学校の友達や先生はおろか、夫であり父であるはずの藍一郎(あいいちろう)ですら違和感を抱いていない。


 いったいどうしてそんなコトになっているのかと言えば……。

 ある意味、降って湧いたような災難であり、またある意味二人の自業自得とも言えた。

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