第9話 来客

遥とルナが夫婦になってから2週間。


この2週間で二人の仲は更に深まったのは言うまでもないが、ルナも遥との生活に慣れ始めていた。


最初は色々とわからないことが多かったが……最近になってからはルナは遥から家事全般を教えてもらったことにより家事全般のスキルは見違えるほどに上達している。


中でも料理に関しては元々の素質があるのか相当上達していることからもルナの基本スペックの高さがわかる。


本日はルナが初めて遥の手伝いなしで料理を作ってみたが――


「どうかな?」


そう不安そうに聞いてくるルナに――遥は笑顔で答えた。


「凄く美味しいよ」

「ほ、本当に?」

「俺がルナに嘘を言うわけないだろ?」


そう言ってルナの頭を撫でる遥。


ルナはそれに少し恥ずかしそうにしながらも気持ち良さそうに目を細めた。


遥との何気ないスキンシップでルナは頭を撫でてもらうのが特にお気に入りだった。


遥の男らしくて温かい手の温もりに自然と頬が緩む。


一方、そんなルナの様子に遥はとてつもない理性との激戦を強いられていることは言わずともわかることだろう。


「これならあっという間に俺より料理上手になりそうだし、やっぱりルナは凄いよ」

「そ、そうかな?でも遥の教え方が上手だからだと思うし・・・」


やはりというかルナは今まで褒められなれてないせいなのかそんな風に謙遜するが、そんな控えめなところも遥の保護欲を刺激されて、ますますルナを褒めては照れるルナという循環。


つまり他人が見ていたら『なにこのだだ甘な光景……』と言われそうな光景が広がっているのは言うまでもないだろう。


ルナは基本的には家にいて家事をしたりして、あいてる時間は遥とイチャイチャするか、はたまた家にある本を読んだり、貴族の頃から息抜きでやっていた刺繍をやったりと充実した時間を過ごしている。


まあ、遥がいればかなりの確率でイチャイチャに発展するのはもはや仕方ないだろうが。


さて、一方の遥は基本的にはルナの側にいるが、食材の調達や用事でたまに出掛けることがある。


本当はルナの側にずっといたいが、ルナを連れていくには危ない道が多いこの魔の森ではルナの体力がもたないだろうと配慮してお留守番をしてもらっている。


たまに息抜きとしてルナを連れて周辺を散歩するが、基本的にはルナが一人で外に出るのは危ないので出掛ける際は必ず遥がルナに付き添うことになる。


さて、そんなある日のことだ。


いつものように遥が出掛けている間に簡単に家事を終えたルナは遥がいない時間を少し退屈に感じつつも刺繍をして時間を過ごしていると、『ピンポーン』という音が響いた。


(これは確か……)


前に遥に教えてもらったが、一度も使われることがなかった来客を告げる音が響いて、ルナは首を傾げながら玄関へと向かった。


遥がいない時間にこの音が響いたら注意して確認するように言われていたのでルナは静かに扉をあけて外の様子をみると、そこには、金髪のいかにも貴族に見える少年と、その付き添いらしき女騎士がいてルナを確認すると首を傾げた。


「あれ?君は?」

「あ、えっと……遥の妻のルナと申します」

「妻って……え?遥の奥さんなの!?」

「は、はい……」


そのルナの言葉に少年はえらく驚いたようにルナを観察してから――面白そうに笑みを浮かべた。


「へぇ、あの遥が妻を娶るなんて驚いたな……おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はロバート。そして後ろにいるのが……」

「ロバート様の騎士のマイヤと申します」


ペコリと挨拶をされたのでルナも頭を下げてから……首を傾げて聞いた。


「お二人は遥にご用ですか?」

「ああ。遥とは友人で今日は遊びにきたんだが……遥は?」

「えっと、遥はさっき出掛けたので多分もう少ししたら戻るかと……」

「そうか……とりあえず中で待ってもいいかい?」


そう言われたのでルナは頷いて客間に案内する。


何度か来たことがあるのかロバートとマイヤは普通にソファーに座ってくれたのでルナはお茶とお茶菓子を持って二人の前に置いた。


「ありがとう。ねぇ、君ってひょっとして元貴族だったりする?」


ギクリとその言葉に体を揺らすルナ。


「ど……どうしてですか?」

「ん?いや、なんかさっきから見てて所作がやけに綺麗だし、そうなのかなーと思ったんだけど……当たりかな?」


その言葉に、昔の記憶が頭に過ぎる。


自然と震えてしまう体をなんとか抑えながら、ルナは口を開こうと――


「こらこら。家の最愛の嫁をあんまり苛めないでくれよ」


――したところで後ろから肩に手をまわされた。


この優しくて大きな手は……と、ルナは確認するように呟いた。


「遥……」

「うん。遅くなってごめんね」


その温もりにルナは安心したように身を任せる。


そしてそんなルナを優しく抱き締めてから遥は半眼で目の前の友人に言った。


「まったく……お前はもう少しデリカシーを持てよ。家の嫁を苛めやがって」

「んー、そんなつもりはなかったんだけど……それに遥が遅いのも悪いだろ?」

「いきなり押し掛けるお前が悪いんだ。たく……マイヤも久しぶりだな」


そこで遥は先ほどから黙っていたマイヤにそう言うとマイヤもペコリと挨拶をした。


「お久しぶりです遥。それとすみませんルナさん。我が主は少々デリカシーに欠けるので……」

「ちょっ、マイヤまでそんなこと言うの?」

「当たり前です。まったく……」


呆れたよう主を見つめてからため息をつくマイヤに、ルナは少しくすりと笑ってから言った。


「だ、大丈夫です。あの……お帰りなさい遥。あと……ありがとう」

「うん。ただいまルナ」


優しくルナにそう言うと、そんな遥の様子にロバートとマイヤは驚いた表情をしていが……ルナと遥にはお互いしか見えてないので気付かなかった。





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