第74話 新たな決意


「マルクスを一緒に悼んでくれるのですか? それは嬉しい申し出ですが、どうしてですか?」

「フレイヤ様は私の初めての友だちです。友だちとして、フレイヤ様のお父上を一緒に悼みたいのです」

「そうですか、ありがとうございます。フレイヤの友だちが一緒に悼んでくれて、マルクスも喜ぶはずです」


 ソフィアは本当に良い子だ。お父様を一緒に悼んでくれるなんて。嬉しいし、温かい気持ちになる。

 デビュタントから数ヶ月しか経っていないけど、ソフィアは更に美しくなった。目立つことを避けて黒のローブに着替えたけど、ソフィアは良く目立つ。

 乱れのない真っ直ぐなピンク色の髪。その佇まいからは神聖さを感じる。聖女という単語はソフィアのためにある気がした。


「フレイヤ様、どうしました?」


 じっと見つめていたのがバレてしまった。


「何でもないです。ソフィア様、ありがとうございます」


 私たちの話が落ち着くと、オラース様が言う。


「それではご案内します」


 教会の裏に回ると、穴を掘って埋めた後が広範囲にあった。沢山の人たちが埋葬されている。

 その奥に石台があって、石台の上には大きな石板がある。石板には色んな名前が刻まれていた。

 マルクス・フォン・ルーデンマイヤー。

 お父様の名前もあった。


「マルクス様は仲間の方々と一緒にこの場所で眠っておられます。エレの住民も埋葬に協力してくれました」

「…… そうですか」


 この場所にお父様が眠っている。

 亡くなったから、お墓があって、私たちの側にお父様がいない。分かっている。分かっているけど、また涙が溢れてしまう。

 イリアも泣いていて、お母様に抱き締められていた。


 ソフィアがお母様に訊く。


「コルネリア様、祈りを捧げてもよろしいでしょうか?」


 お母様は黙って頷いた。


 ソフィアが両膝を地面につけて両手を組み、祈りの言葉を紡ぐ。


「天よ、愛する者を守るために戦った彼に、安息を与えてください」


 不思議なことが起きた。

 ソフィアから数十数個の光の玉が出て来て、辺り一面に浮かぶ。

 お母様たちを見るけど、気づいていない。私にだけ見えている?

 光の玉からは優しい感じがした。


「私は彼のために祈りを捧げます」


 私もソフィアに倣って両手を組む。

 お父様……

 お父様との思い出が色々と浮かぶ。

 お父様に優しくしてもらったこと、褒められたこと、厳しくされたこと、抱き締められたこと。


「絶えることのない愛の光が彼を包みますように」


 光の玉が大きくなって、辺り一面が淡い光に包まれる。お父様が私の側にいるような気がした。


 私は心の中でお父様に語り掛ける。


『お父様、騎士四人を倒してルーデンマイヤー家を守りました。でも、降爵こうしゃくして子爵になります。

 私は強くなったと思います。だけど、まだまだです。もっと強くなってお父様のような騎士になります。

 それから、勉強して立派な領主になります。直ぐには難しいかもしれないけど。

 今まで私はアンジェ様だけを守れるような騎士になりたいと思っていました。

 これから私はアンジェ様だけじゃなく、

 お父様、見ててくださいね』


 淡い光が消えていく。私も両手を外した。


『フレイヤ、頑張れ』


 突然、優しい声が聞こえて、私ははっとする。この声は、お父様の声だ!!


 お母様とイリアを見ると、二人とも驚いていた。


「お父様の声が聞こえましたよね!?」

「ええ、聞こえたわ」

「イリアもです」


 こんなことってあるの?

 ソフィアをふと見ると、疲れたように息を吐いていた。


?」


 ソフィアが微笑んで言う。


「私は祈りを捧げただけです。フレイヤ様たちの想いが奇跡を起こしたんだと思います」


 私はお父様の声が聞こえて嬉しい。頑張れ、って言ってくれた。

 お母様とイリアも笑顔になっている。


 多分、ソフィアが何かしてくれたんだと思う。聖女の祈りには奇跡を起こす力があるのかもしれない。



 ◇◇◇



 教会を出て、私はソフィアに別れの挨拶をする。


「ソフィア様、お父様のために祈っていただきありがとうございました」


 お礼を言うと、ソフィアがきょとんとした。


「フレイヤ様、先ほどはソフィアと言ってくれましたよね。敬語もありませんでした」

「ソフィア様が構わないならそうしますけど」

「もちろんです!」

「じゃあ、ソフィアも敬称と敬語はなしだよ」

「私もですか?」

「うん」


 ソフィアが俯いて気恥ずかしそうに言う。


「フレイヤ、これからよろしくね」

「うん、よろしく。大人たちがいる時は敬語を使うから」

「それは私もだよ。聖女である私は常に敬語で話すように言われているから」

「そうなの? 大変だね」


 少し離れた場所にいる護聖騎士サラクトスたちが早くしろと言わんばかりに私を睨んでいた。


「ソフィア、大変だと思うけど頑張って。また会う時は色んなお話をしましょう」

「うん、楽しみにしてる。私、頑張るから。フレイヤも頑張って」


 私とソフィアはお互いに手を振って別れた。


 お母様たちとエレを出て、馬車に乗る。帰りはお母様とイリアの馬車に乗った。


「二人とも大丈夫?」


 お母様が心配そうな表情で私とイリアに訊いた。


「イリアは大丈夫です。お父様に頑張れって言われましたから。、留学頑張るってお父様に言いました」

「そう、マルクスも喜んでるわ」


 お母様がイリアの頭を撫でた。


「フレイヤは?」


 私は真剣な表情になって言う。


「私も大丈夫です。私は二人を守れるお父様のような騎士になると言いました」

「そう、フレイヤの頑張りがあれば、ルーデンマイヤー家も安泰ね」


 お母様が微笑んで言った。


 どうしてか分からないけど、私にはその微笑みが寂しげに見える。少しだけ不安な気がした。




❬女剣聖に生まれ変わっても公爵令嬢の幸せを望む 第二部 英雄を継ぐ者 完❭




 ――――――――――――――――――――

【後書き】


 これにて第六章は終了、第二部完結です。

 沢山読んでいただきありがとうございました。


 次は第七章です。しかも、第三部が始まります!!

 イリアたちがガリアに出発して、約三ヶ月後から物語が始まり、フレイヤが知っている未来の事件が起きます。

 楽しみにお読みください。


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 よろしくお願い致します!!


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 第三部もお読みいただけると嬉しいです。

 これからもよろしくお願い致します。


 



















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