第11話 魔法の先生
お父様が所属する帝国騎士団と並び、ロギオニアス帝国を守る組織、それが魔法師団だ。特に魔法に秀でた者たちによって組織されている。
騎士に比べて機動力は劣るけど、魔法師の破壊力は凄まじいと聞いたことがある。
お母様がその魔法師だったなんて。
「コルネリアは魔法師としてとても優秀だったんだよ。いずれは師団長になるって言われてたからな」
ケイト様が言うと、お母様は恥ずかしそうに笑う。
「やめてよ、ケイト。昔の話よ」
ケイト様の話によると、お母様は魔法が使えるということだ。
剣術はオスカー先生から学んでいるけど、魔法はどうしようかと悩んでいた。剣聖フレイヤは魔法も超一流だから。
「お母様は魔法が使えるんですよね。私に教えて欲しいです」
「残念だけど、私は教えれないわ。それに、フレイヤは
「あ、そうでした……」
照魔の儀式とはミュトス教会の保有する魔法具を使って魔法属性を調べる儀式のことだ。
魔法属性には火、水、土、風の四属性があり、回復魔法の使い手は聖属性とされる。
前世の記憶では、フレイヤは火属性になるはず。
昔からの慣習で魔法を教えてもらうのは照魔の儀式の後とされている。うっかりしていた。
「でも、フレイヤはそうならないかもしれないの。ケイト、どう?」
「驚いたよ。体から魔力が溢れてる。間違いねぇよ、フレイヤは特異魔力保持者だ」
二人だけで話を進められて私は置いてけぼりになっている。
特異魔力保持者って? 初めて聞いた。
私は大きく首を傾げた。
「ケイトはね、魔力を敏感に感じ取れる能力を持ってるの。その能力を使って、フレイヤの魔力量を調べてもらったのよ。それで、ケイト、フレイヤの魔力量はどのくらいなの?」
「魔法師団員と殆ど変わらないな」
「そんなに!?」
お母様が大きな声を出した。
こんなに驚くお母様なんて初めて見た。
子どもの私が魔法師団員と変わらないってことだから、魔力量が多いってことだよね。
私も驚くべきなんだろうけど、剣聖フレイヤの魔法が超一流って知っているから驚くよりも、やっぱりねと思ってしまう。
驚いているお母様の代わりにケイト様が説明してくれる。
「特異魔力保持者っていうのは魔力量が多かったり、基本属性から外れた魔力を持つ者や特異な魔法を扱う者を指す。色んな特異魔力保持者がいるのさ。フレイヤは異常な魔力量を持ってる。それを感じて、コルネリアはあたしを呼んだんだろうよ」
「魔力量が多いと何か問題があるんでしょうか?」
「そうだな、フレイヤほどの魔力になると問題が起きる可能性は高いな。魔力が体の成長に連れて増えるって話は知ってるか?」
「はい、聞いたことがあります」
「コルネリアはあたしのように魔力を感じる能力はない。けど、フレイヤが特異魔力保持者って分かったのは、フレイヤの魔力が周りに影響を与えたからさ。コルネリアからあんたの感情が昂ぶったせいで魔力が放出されてカップが粉々になったって、あたしは聞いたよ」
「え? そんなことでですか?」
「そんなことでもだよ。魔法に関わる奴は魔法の事象にとても敏感だ。危険だからな。今はカップを粉々にするだけかもしれねぇけど、成長したら魔力量が増えて、何が起こるか分からないんだよ。もし、その魔力を制御できなくて、暴走でもしたら、死人が出るかもしれない」
「そんなのって……」
全然小さな話じゃなかった。
剣聖フレイヤは並外れた力の持ち主だ。リスクを知って怖くなる。制御するって、どうしたらいいの?
「そんな不安な顔をしないで。だから、ケイトに来てもらったの。ケイトに魔力制御の方法を教えてもらうのよ」
「そうさ、あたしに任せな。魔力制御を教えてやるよ」
だから、ケイト様が来てくれたんだ。
自分では良く分からないけど、きっと私の魔力量は凄い。制御できれば、剣聖にまた一歩近づける。
「ケイト様、よろしくお願いします!」
「ああ。なら、善は急げだ。魔力制御の練習を早速しようぜ。コルネリア、良いよな?」
「ええ、任せるわ。でも、今日は軽くにして。午前中は剣術の稽古をしていたから」
「分かっているよ。フレイヤ、汗をかいてもいい服に着替えてきな。動くことはねぇけど、汗はかくからな」
「はい」
私は運動着に着替えてから、ケイト様が待つ敷地に向かった。
◇◇◇
早速、魔力制御の練習を始めることになった。
お母様は屋敷から私たちの様子を見守っている。
「魔力制御だから、魔法をぶっ放すわけじゃねぇ。やるのは地味な訓練だ。両手を出しな」
ケイト様の指示に従う。
私が両手を出すと、どちらの手もケイト様の手で握られた。
「今から魔力制御を始める前に魔法と魔力について簡単に説明する。魔法には四つの基本属性があるけど、それが何か知っているか?」
「火、水、土、風ですよね」
「そうだ。まぁ、貴族なら知ってるわな。あたしは火属性と風属性を持ってるんだけど、その属性以外の水と土は使えない。魔法を使うには魔力を消費するから、自らの魔力量を把握することはとても大切だ」
「なるほどですね。あれ? ケイト様、体が熱くなってきました」
ケイト様の両手から私に熱い何かが流れ込むのを感じる。最初は気のせいかと思っていたけど、今は足の先まで熱いから変だ。
「ちょっと時間が掛かったな。今、フレイヤの全身にあたしから魔力を流してるんだよ。あたしたちの体には
「そうなんですね。じゃあ、今みたいにケイト様から魔力を流してもらって鍛えれば良いってことですか?」
「いーや、それだけじゃ足らねぇよ。自分の魔力を意識して魔経脈に流すことができたら完璧だ。何もなければ、暴走なんて起きないだろうよ。それとさ、フレイヤ」
「はい?」
「ケイト様はやめろ。あたしはこんな奴だ、様は困る」
「ですが、お母様のご友人ですし。…… ケイト先生と呼んでも良いですか?」
魔力制御を教えてもらうなら先生と呼んでも良いだろう。
ケイト様の顔が赤いような気がする。もしかして、恥ずかしいのかな?
「先生か! ま、まぁ、良いだろう。あたしはフレイヤに教える立場だからな。頻繁には来れないが、二週間に一回は必ず来るよ」
二週間に一回か。
そうすると、ケイト先生が来るまで何もできないってことだよね。魔力制御を身につけるのが遅くなってしまう。
「ケイト先生、ケイト先生がいない時に私だけでもできることはありませんか?」
「フレイヤだけでか? そうだな、自分の魔力を意識できるようになることだな。さっきの体が熱い感覚を覚えているか?」
「はい」
「体の中心から熱い力が全身の隅々まで流れることをイメージしろ。実際に流れなくても良い。イメージすることが大切だ」
「分かりました、やってみます。それと、訊きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「ああ、何でも訊いてくれ。あたしはフレイヤの先生だからな」
「魔力制御って魔法師の基本みたいなものなんですよね、どうしてお母様は直接教えてくれないんでしょうか?」
ケイト先生の話によると、お母様は優秀な魔法師だったんだと思う。
それなのにケイト先生を呼んだ。どうしてだろう?
「それはあたしが話すことじゃない。いつかコルネリアが言う。それまで待て」
「わ、分かりました」
ケイト先生にしては突き放すような言い方だった。それ以上訊くなってことだと思う。
気になるけど、お母様が話してくれるまで待つしかない。
「さて、そろそろあたしは帰るわ。見送りはいらないからな」
「え、お母様を呼んできます」
「呼ぶ必要はない。手を振っときゃ分かる」
ケイト先生は屋敷の方を向くと、大きく手を振った。
お母様も小さく手を振返している。私が同じようなことをすると、はしたないってお母様は怒るから少し意外だった。
多分、お母様とケイト先生は私が思ってる以上に仲が良いんだと思う。
良いなー、羨ましい。私も友だちが欲しい。
「あたし帰るから。フレイヤ、またな」
「はい、今日はありがとうございました。またなです」
お母様と違って、私はケイト先生に大きく手を振った。
ケイト先生は少し目を丸くすると、手を振り返して帰った。
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