第9話 両親の応援
お父様が歩き出したので、横に並んで質問する。
「お父様、私に何かお話があるんでしょうか?」
「そうだよ。だから、二人になったんだ。ここは人が多いね。馬車で話そうか。その前に飲み物を買おう」
私はお父様に果汁たっぷりの甘いジュースを買ってもらって、早足で馬車に戻った。
喉が渇いてるから早く飲みたい。
馬車に戻ると、早速ジュースを飲んだ。とても美味しい。体が潤うのを感じる。
「あれ? さては僕が話をしたいって言ったのを忘れてるね」
「覚えています、覚えています。忘れるわけがありません。お父様、私にお話したいことって何でしょうか?」
「フレイヤは騎士になろうと思ってるのかい?」
やっぱりその質問をされたか。いつかは訊かれると思っていた。
「はい、私は騎士になりたいです!」
「そっか、そうなんだね」
お父様は私の答えを聞いて難しい顔をした。喜んでくれると思ったのに。
「お父様は私が騎士になるのは反対ですか?」
「反対とは言わないよ。ただ、正直、複雑かな。多分、コルネリアも同じ気持ちだと思うよ」
「複雑ですか……」
お父様と違って、お母様ははっきりしていると思う。きっと反対する。だって、お母様は私が剣術をすることをあんまり好きじゃないと思うから。でも、お父様の複雑って具体的にどういうことだろう?
「お父様、はっきり言って欲しいです」
「そうだね。僕もコルネリアも、フレイヤがここまで真剣に剣術を学んでくれるとは思わなかったんだよ」
私はお父様の言葉に納得する。
クレアの記憶を思い出さなければ、きっと剣術を学ぶことはなかった。
私が言い出した時、お父様は趣味程度に考えていたかもしれない。
「フレイヤは結婚して爵位を夫に譲るって、今まで僕は考えていた。きっとそれは今と同じ自由な暮らしになるはずだよ。でも、騎士になったら、色んな我慢が増えるし、嫌なことも沢山ある。分かるかな?」
言いたいことは分かる。
騎士になれば、男女の差に関係なく任務が与えられる。危険な仕事が当然あり、命を懸ける時もある。
私の大好きなお風呂には毎日入れない時もあるし、色々な我慢が増える。体が傷だらけになったら、結婚はできないかもしれない。傷だらけの女と結婚したい男なんていないから。
お父様がこんな反応になるなんて少し意外だった。私が騎士になりたいと言ったら直ぐに喜ぶと思っていたから。
前世の私はクレアで、今の私はフレイヤ。今もアンジェリーナ様のことが大好きで、救いたいと思っている。
その気持ちと同じくらい家族が大好きだから、心配させたくない。前世の記憶が蘇った時はアンジェリーナ様のことで頭が一杯だったけど、落ち着いた今は家族の皆がとても大切だってことも感じている。
だけど、あの覚悟は変わらない。アンジェリーナ様を救えなかったあの悔しさが私の心には深く刻まれている。
今度こそ救いたいし、幸せになってもらいたい。
「お父様、分かってます。でも、私は騎士になります」
私はお父様に気持ちが伝わるように真剣な表情をして言った。
「フレイヤの気持ち伝わったよ。騎士になるのなら、僕も父親として協力するよ」
お父様が納得したことで、私は安心する。
だけど、お母様はきっと納得してくれないだろうな。
しばらくすると、お母様たちが馬車に戻って来た。
イリアはお母様に抱かれていて、ぐっすりと眠ってる。沢山歩いて疲れちゃったんだね。
お母様はイリアを抱きながら私の前に座って言う。
「フレイヤ、お父様とちゃんと話せた?」
「…… はい、話せました」
「それでどうするつもりなの?」
私はお父様の時と同じようにお母様を見つめて言った。
「私、騎士になります」
「分かったわ。フレイヤの好きなようにしなさい。頑張るのよ」
「……」
お母様の予想外の答えに驚いてしまう。絶対に反対されると思っていたのに。
「ど、どうしてですか?」
「どうしてとは?」
「お母様には反対されると思っていました」
「なぜ?」
「私が剣を振り終わったら、いつも暗い顔をしてるから」
「あら? 私の心配は確りと伝わっていたようね。それは急に頑張りすぎるからよ。オスカーの指導を無視して無理な鍛錬をしていたからでしょ」
「知っていたんですか!?」
「当然よ。心配だから、フレイヤが鍛錬している時はこっそり見させてもらっています」
オスカー先生が来ない日は木剣を振って一人で鍛錬をしているけど、振る回数は必ず倍以上にしていた。今は必ず千本以上木剣を振っている。
お母様に見られていたなんて気づかなかった。
「フレイヤ、親が子の夢を応援するのは当然です。あなたが騎士になりたいのであれば、私は応援するだけです。でも、体を壊すような無茶は許しません。だから、頑張りなさい」
「はい!!」
嬉しい気持ちを隠せなくて、思わず大きな声で返事をしてしまった。
私の大きな声に驚いたイリアは目を開けてきょろきょろすると、もう一度お母様に体を預けて眠った。
その動きを見て、私たちはクスクスと笑った。
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