白銀のフレイヤ ~前世で破滅した憂国の公爵令嬢の幸せを願うから、転生令嬢はいずれ最強の剣聖に至り、何度でも国を救う~
川凪アリス
第一部 英雄譚の始まり
序章 伯爵令嬢の覚悟
第1話 前世を思い出す瞬間
まだ寒くて息が白い。
馬車の窓から見える風景も白い。昨日はとても寒くて、昨日の夜に降った雪が地面に残っている。今は雪が降っていないけど、外に出たら、きっと寒い。
私たちの馬車が目的地に着いた。
大きな宮殿で、その宮殿の周りには貴族の馬車が続々と集まっている。
ロギオニアス帝国の社交界シーズンは十二月から六月までで、この間に色んな夜会が行われる。でも、
皇族保有の宮殿を貸し切り、帝国中から貴族を招待している。
その夜会の主催者はエイルハイド公爵。
十日前に公爵の子どもが十歳になったので誕生日を祝うために催されたって、お父様が教えてくれた。
私も十歳だし、その子と会うことができたら、友達になりたいなと思う。
宮殿の中に入ると、とても暖かった。
色んなことが気になって周りをきょろきょろと見てしまう。
シャンデリアの光で照らされる豪華な会場と素敵なドレスで鮮やかに着飾った淑女たち。美しい音楽が会場に流れて、うっとりと聞き惚れてしまう。
この会場には二階があって、会場の中央には二階へと続く大きな階段がある。
私にとってどれも初めての経験。視界に入るもの全てが新鮮で、ワクワクしていた。
「フレイヤ、驚いたかい」
頭を優しく撫でられて、見上げると、淡い金髪に彫りの深い顔が目に入った。
騎士団長をしている私のお父様だ。
「フレイヤ、私の方を向いて」
声が聞こえて、後ろを向く。
心配げな表情でお母様が私を見つめていた。
「お母様、どうしました?」
首を傾げると、お母様は私の額に手を当てた。手が冷たくて、ヒンヤリとする。気持ち良い。
「あなた、この子、熱があるわ」
「コルネリア、本当かい? でも、もう始まるよ」
熱? 熱があるなんて全然気がつかなかった。
言われてみれば、体が少し重たい気がする。でも、大丈夫。
お父様たちが困ったような顔をしているのが見えた。
私のせいでお父様とお母様が楽しめない…… 迷惑を掛けてごめんなさい。
私は悪いことをしてしまったと思い俯いた。
「今、抜けるのは無理ね。フレイヤ、手を握って私の体にもたれてなさい」
「え、でも、それじゃあ、お母様が楽しめないです」
「子どもが大人に気を遣うものじゃありません。大人しくもたれてなさい」
お母様に手を掴まれて、強引に体を預けることになった。
とても温かくて、お母様の優しさを感じる。その優しさで体の不調が和らぐ気がした。
コルネリアお母様の金髪がちらっと見えた。
私は生まれつき銀髪で、髪の色が違う。周りの人たちは私の髪を美しいって言うけど、あんまり好きじゃない。
コルネリアお母様の金髪を継いでないのは私を産んでくれた母親じゃないから。
私を産んでくれたのはダニエラお母様という人で、その人から銀髪を受け継いだ。
ダニエラお母様が亡くなったのは私が二歳の時だから殆ど覚えていない。四歳の時に、お父様と今のお母様が結婚した。お母様と言えば、コルネリアお母様しかいない。
だけど、髪色をつい見比べてしまう時がある。いつも本当のお母様ではないと実感して少し寂しくなってしまう。
今まで騒がしかった会場が急に静かになった。
不思議に思って、また周りを見る。どうしたんだろう?
「フレイヤ、大丈夫よ。皆が拍手をするからフレイヤも同じようにしなさい」
「はい」
パチパチと拍手の音が鳴り始め、周りの人たちが一斉に同じ方向を見る。
中央の階段から小太りな男性と自分と同じ年頃の少女が下りてきた。
すると、私はその少女から目が離せなくなってしまう。
目鼻立ちがはっきりとした顔で優しい笑みを浮かべている。階段を下りる度に左右へ揺れる金髪はとても綺麗だ。
歩き方は洗練されていて、重いドレスを着ているのに頭の位置が全く変わらない。
私も重たいドレスを着て美しく歩けるように練習をしているから、それがとても難しいことだと良く分かる。
何だか胸が熱くなって、とても懐かしい気持ちにもなった。会ったことがないはずなのに。どうして?
お母様が私にそっと耳打ちをする。
「男性の方がエイルハイド公爵で、公爵のお側にいる方が、ご息女のアンジェリーナ様よ」
「アンジェリーナ様…… ?」
突然激しい頭痛を感じて、私は頭を押さえた。
「痛い……」
「フレイヤ! どうしたの!?」
お母様の心配する声に私は答えることができなかった。
意識を失ってしまいそう。痛い、頭が割れる!
頭の中に誰かの記憶が一気に流れ込んできてた。こんな記憶知らない、これは私?
記憶の中に短い金髪の少女と綺麗な女性がいた。
短い金髪の少女は血だらけで倒れていて、泣いているように見えた。
あれ? その綺麗な人、アンジェリーナ様に似ている。
口が勝手に呟く。
「アンジェリーナ様……」
前世を思い出した私は急に目の前が暗くなるのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます